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#32 シズちゃんの言葉、スズちゃんの言葉

事務室に到着したシズは、まず袖をまくって右腕をさらけ出すと、スズに殴られた場所に湿布を貼り付けた。さすがに普段鍛えているだけあって、力は相当なものだった。位置が悪かったりもっと強い力を込められたりしていれば、骨にヒビが入っていたかも知れない。顔をしかめつつも、拳が入ったのが自分の腕でよかった、とも安堵していた。これが仮にケンジに直撃していれば、文字通り只事では済まなかっただろう。

とりあえずの応急処置を済ませると、シズは正面へ体を向けた。対峙するのは言うまでもなく、騒動の渦中に居たケンジだった。どこか憮然とした表情のまま、顔を俯けさせている。

「いろいろあったけど、とりあえずここで落ち着こうね。いったい、何があったの?」

「……ごまかされないぞ」

「えっ?」

「ぼくは、もう何も言わない。ぼくが何か言ったって、誰も信じてくれない」

「ケンジ君……」

「言われた通りにしたって、ぼくはまた叩かれるだけなんだ」

ケンジから話を聞き出そうとしたシズだったが、ケンジは「何も言わない」と口にし、シズをきつい眼差しで睨みつけた。

「スズ姉ちゃんも、そっくりなシズ姉ちゃんも、嘘つきだ。嘘つきはみんな死んじゃえばいいのに」

躇いなく「死んじゃえばいい」と口にしたケンジを、しかし、シズは目線を外さずしっかりと見据える。以前、それもほんの少し前までならば、浴びせられるきつい言葉に臆して、すっかり自信を喪失していたことだろう。だが、今は違う。確固たる「シズ」という軸を手に入れたシズは、その程度のことでは怯みもしなくなっていた。

落ち着きなく足をブラブラさせ、俯いたまま手を弄りつづけるケンジに向けて、シズはこう言葉を掛けた。

「ごめんね、ケンジ君」

いきなり謝罪の言葉を受けたケンジは面食らい、俯かせていた顔を跳ね上げさせた。

「この前は、サツキちゃんと言い合いになる前に気付いてあげられなくて、ごめんね。ずっと謝りたかったけど、うまく言い出せなくて」

「あの時のことがあったから、さっきのことにつながってるんじゃないかな。違ったらごめんね。でも、わたしは、そう思ってるよ」

「無理はしなくていいよ。でもね、あの時言おうとしたけど言えなかったこと、言いたかったけど言えなかったことがあったら、どんなことでもいいから、わたしに言ってくれるとうれしいよ」

「本当になんでもいいよ。遠慮せずに、わたしにぶつけてほしいんだ」

シズは本心から悔やんでいた。あの時自分がもっとしっかりしていれば、ケンジとサツキの関係がここまで拗れてしまうことも無かったはずだし、今日のような大きな騒動を起こすことも無かったはずだ。今からでは些か遅すぎるだろうが、しかし何もしないよりはずっとマシだ。シズはケンジの瞳をまっすぐに覗き込んでから、深々と頭を下げた。

思いも寄らぬ言葉をかけられ、ケンジは明らかに戸惑っていた。シズに尋問されるもの、あるいは怒られるものだとばかり思い込んでいて、自分から何か話す機会が与えられるとは予想だにしていなかったようだ。当惑した目をして、あちこちに視線を投げ掛けている。

それでも意地を張り、何も言わずに黙りこくっていたケンジだったが、そこへシズのこんな言葉が飛んできた。

「わたしは信じるよ。ケンジ君の言ってくれたことを、信じるよ」

「ケンジ君は嘘をついたりしない。話してくれることは本当のことだって、信じてるよ」

これは、今しがたケンジがシズにぶつけた「ぼくが何か言ったって、誰も信じてくれない」という言葉に対する真正面からのカウンターパンチだった。ケンジの言ったことを信じよう、何故ならケンジは嘘を言ったりすることのない誠実な性格だと信じているから。シズは、ケンジを利己的な嘘を口にしたりすることのない、真っ当な人間として扱っていたのだ。

シズの言葉を耳にした途端、ケンジの表情が一気に悲しげなものになった。恥じ入るように顔を下へ向けると、沈痛な面持ちをして見せている。シズはこれ以上はもう何も言わず、ケンジが先へ進むのを待ち続けた。

そして。

「……ぼく、サツキちゃんをいじめようとか、いたずらしようとか、そんなつもりじゃなかったんだ」

ケンジが口を開いた。大きく身を乗り出し、シズがケンジの言葉に一心に耳を傾ける。

「ミルクが、服を作るための糸が欲しいって、グリーンに言ったみたいなんだ」

「それで、グリーンが糸を吐いたんだけど、それが……サツキちゃんに絡まっちゃったんだ」

「ぼくは謝りたかったけど、でも、そうする前に、僕がいたずらしたことにされた」

「そうじゃないって言おうとしたら、スズ姉ちゃんにほっぺたを叩かれた」

「だから、ぼくは、スズ姉ちゃんに言われたとおりのことだけ、するって決めたんだ」

「今日のことも、ぼくは言われたとおりのことをしただけなんだ」

「戦い方を教えて、それから動けなくなるまで戦っただけ」

「『もっとお腹に力を入れてしっかり声を出さなきゃ、トレーナー失格だ』」

「『容赦せずに徹底的に叩き潰すつもりで行かないと、絶対勝てない』」

「ぼくは――ただ、言われた通りのことをしただけなんだ」

ケンジの言葉一つ一つに頷き、シズが口を挟まずに丁寧に聞き取ってやった。たどたどしいながらすべてを言い終えて、ケンジが顔を上げる。

「ありがとう。話してくれてありがとう」

「ケンジ君なら全部包み隠さず、ちゃんと話してくれるって思ってたよ」

「本当は、あの時にきちんと聞いてあげられればよかったけど、うまく行かなかった」

「わたしにもう一度チャンスをくれて、本当にありがとう。よく話してくれたね」

穏やかな笑みを見せるシズの姿を見たケンジが、ようやく顔の緊張を解して、平時の顔つきに戻っていくのが見えた。

「シズ姉ちゃん、ぼく……」

「うん。どうかしたの?」

「サツキちゃんと、仲直りしたいんだ」

サツキと仲直りがしたい。これこそが、シズの待ち望んでいた言葉だった。

「ケンジ君は、サツキちゃんと仲直りしたいんだね」

「うん。だけど、きっと、サツキちゃんは怒ってて、許してくれないと思うんだ。あれから、ジムにも来ないから……」

「なるほど、分かったよ」

ケンジの気持ちが明らかに変化した、風向きが大きく変わったのを感じた。ここでするべきは、叱責でも慰撫でもない。前へ進むための補助をしてやることに他ならない。

「よし、ここはお姉ちゃんに任せて。ケンジ君とサツキちゃんが仲直りできるように、わたしがお手伝いをするよ」

左手でどん、と軽く胸を叩き、シズがケンジの願いを請け負った。

 

それから、およそ三十分後。

「サツキちゃん、入ってきてくれる?」

シズはサツキの家に電話を掛け、彼女にジムへ来てもらうように頼んだ。サツキはしばし迷っていたようだったが、ケンジがサツキと話がしたいと言っている、そのように告げると、サツキは「行く」とシズに告げた。

事務室の扉が開く。こわごわ、恐る恐るといった調子で、サツキが中に入ってきた。ケンジは緊張しきっていて、全身が固くなっているのが傍から見ても手に取るように分かった。そして、それは来訪したサツキもまた同様だった。ケンジと何を話せばよいのか、ケンジから何を言われるのか。怯える心を懸命に奮い立たせて、サツキはケンジの前までやってきた。

「サツキ、ちゃん……!」

やってきたサツキの姿を目にしたケンジは、思わず驚愕した。

「その服……この間の……」

サツキが身に着けていたのは、まさにあの時台無しにしてしまった、サツキのお気に入りの服だった。糸が絡みついて無惨なことになっていたのが嘘のように、新品のような美しさを取り戻しているではないか。ケンジは目の前の光景を俄には信じることができず、瞬きを幾度と無く繰り返した。

「お姉ちゃん……」

「よく来てくれたね。ありがとう」

不安に染まった目を向けるサツキに、シズが優しく声を掛ける。サツキから一旦離れると、今度はケンジの側に寄り添う。

「見ての通り、服は元通りになったよ。新しく買ったりしたんじゃなくて、正真正銘、あの時の服だからね」

「さあ、ケンジ君。ここからはケンジ君の頑張りどころだよ。ケンジ君が思ってることを、ケンジ君の今の素直な気持ちを、サツキちゃんに、ありのまま伝えてあげて」

「サツキちゃんも同じだよ。ケンジ君に、思ったことをそのまま言ってほしいな。そうすれば、きっとうまく行くから」

二人に話すよう促すと、シズがその場から数歩下がる。ここからは二人の問題だ。二人が前へ歩み出そうとする気持ちを持てれば、必ずうまく行く。自分が口を挟まずとも、手を出さずとも、ケンジもサツキも前へ進むことができるだろう。

シズが固唾を飲んで見守る中、先に口火を切ったのは。

「――サツキちゃん」

「ごめんね。大事な服、あんな風にしちゃって、ごめんね。ケンカして、つかんだりして……ごめんね」

ケンジの側だった。声を震わせて、言葉を詰まらせながら、それでも、はっきりと謝罪の言葉を口にした。

「ううん……わたしも、ケンジ君がわざとやったって言って、ごめんね。ひどいこと言って、ごめんね」

向かい合うサツキもまた、ケンジに「ごめんね」と言葉を掛けた。かつての刺々しい態度は、今はもう見る影もない。

シズは小さく頷いて、ふっと表情の緊張を解いた。

「あのね、ママと相談して、ジムにいるときは、こっちをきることにしたの」

「そっか……体操服なら、汚れても平気だね。じゃあ、ぼくも体操服にするよ」

「うん。だからね、今度、ミルクに糸をわけたげてほしいの」

「分かった。次にやるときは、十分離れて、周りを見てからにしようね」

ジムで活動する時は体操着にする、次からは十分距離を置いてから行う。同じ間違いを繰り返さないように、サツキもケンジもちゃんと考えることができている。ケンカは無いに越したことはないが、そこから新たな学びが得られたのなら、それは結果としてプラスと言えるのではないだろうか。

「シズ姉ちゃん、ありがとう。ぼく、これからさっきの子にも謝ってくるよ」

「うん、それがいいね。わたしも付き添うから、しっかり言ってあげてね」

きつい態度で接してしまった年少のトレーナーに対しても、ケンジは真剣に謝りたいと言っている。ならばそれをバックアップしない手はあるまい。本人が「こうしたい」と思うことは、何よりも強いモチベーションとなる。

「さてさて。リーダーのお仕事は、メンバーのお仕事の下準備――なんてね」

シズは携帯を取り出すと、電話帳からルミの番号を探した。

 

「いいよ、その調子その調子。だんだん、当たりに行くのがうまくなってきてるよ」

「うん。手伝ってくれて、ありがとう」

「さっきは本当にごめんね。もう絶対、あんなことはしないからね」

「ううん。もう気にしてないよ」

「わたしも見ててあげるから、心配しないでね」

チルチルの手ですっかり元気になったレディバ、ケンジの連れているグリーン、そしてサツキのミルクが三人束になって、堂々と仁王立ちしているチルチルに戦いを挑んでいる――と言うより、どちらかというと相撲ごっこと言った方が正しそうな風景だが、仲良く固まってチルチルをぐいぐい押している。チルチルは余裕の面持ちで、レディバ・グリーン・ミルクの相手を一人でこなしてやっていた。腕は四本あるからもう一人来ても大丈夫だぜ、とでも言いたげな顔である。

心を入れ替えたケンジは、先ほどきつく当たってしまったトレーナーに誠心誠意詫びを入れた。最初はどこか怯えていた様子のトレーナーだったが、ケンジが言い訳をせずに「自分は悪いことをしてしまった」と深く反省し、もう二度としないと固く約束したことで落ち着きを取り戻し、ケンジのことを許してやった。今はこうして、ケンジから「きちんとした」レクチャーを受け直しているところだ。隣にはサツキの姿もあり、二人の様子を見守っている。見ての通り、なかなか仲良くやれているようだ。

「サツキちゃん、来てくれたんだあ。前にケンカしちゃって、それから来なくなったって聞いたから、心配してたよ」

「ケンジ君が謝りたいって言ってくれて、わたしが電話して呼んだんだ。仲直りできてよかったよ」

「さっすがー! これもシズのおかげだよー!」

「ううん、違うよクミちゃん。仲直りをしたのは、ケンジ君とサツキちゃんの二人。わたしは、二人のお手伝いをしただけだよ」

「おお。謙遜してるはずなのに、なんだかちょっとリーダーっぽいよお」

「リーダーの仕事は、みんなの進むべき道を示すことと、みんなが全力を出せるような環境を作ること。わたしは、そんなリーダーになりたいって思ってるんだ」

「いいねいいねー。一人でできることなんてたかが知れてるしー、みんなでうまく力を合わせられるようにする方が、このご時世合理的だよねー」

完全に吹っ切れた様子のシズを前にして、クミとルミは揃って驚嘆の声をあげた。しばらく見ない間に随分見違えたものだと、姉妹揃って同じ感想を抱いていた。

「……とまあ、シズはいい感じなんだけれどもお」

「問題は……スズの方よねー」

二人が視線をスズに向ける。あれからスズは何事も無かったかのように監督を続けているように見えたが、見ると他のトレーナーたちに注意を出しあぐねているのが分かる。スズ自身が躊躇っていることもあったが、それ以上にジムトレーナーたちの動きがそれを強くしていた。

「ねえ、ちょっと……」

「あ……ミズキちゃん。向こうでさ、マッシュと一緒に遊ぼうよ。木の実も取ってきたんだ、コンちゃんにもあげるよ」

「うん、分かった。コンちゃん、行こうね。マッシュくんもいっしょだよ」

スズ本人はそれとなくアプローチを仕掛けているつもりなのだが、子供たちにはすべてがお見通しだった。誰かが声を掛けられそうになると、別のトレーナーが割り込んでスズからターゲットを剥がしてしまうのだ。このような光景が、先ほどから幾度と無く繰り返され続けている。

「そうだ、あたしと一緒に……」

「シオリ。向こうで俺と軽くバトルしようぜ。もちろん、ダブルバトルだ! カオリちゃんも一緒にどうだ?」

「いいね、やろっか! じゃあ、これからカオリを呼んでくるから、先にフィールド押さえててくれる?」

「任せとけ! 向こうで待ってるな。先輩から教えてもらった新必殺技を披露してやるぜ!」

とにかくひたすらこの繰り返しである。誰一人としてスズに目を向けようとはしてくれないのだ。スズが相当歯がゆい思いをしているのは、誰の目にも明らかだった。

「いたいた。カオリ、向こうでセイジとバトルするよ。来てくれる?」

「うん。すぐ行くよ。けどその前に、シズさんに来週ミサキさんのおばあちゃんの家へ旅行に行くって連絡……」

「あっ、だめだよカオリ。ちゃんとお母さん、って呼ばなきゃ。向こうも頑張ってるんだから、ね?」

「あ……ごめんなさい、お姉ちゃん。でも、やっぱりなれなくて……。それに、また……」

「大丈夫。私は側にいてあげるから、心配しないでいいよ。ずっと一緒にいるからね」

トレーナーたちはごく単純に、シズを派手に殴り飛ばしたスズのことを怖がっていて、今日は一日関わらないようにしようと努めているだけのようだ。だが、スズにしてみればとてもそうとは思えなかった。ジムトレーナーが総出で自分を無視しているような心境であり、しかもそれが完全に自分の蒔いた種とあって、どこにも感情を持っていけなかった。もし次に感情に任せて怒鳴りつけたり暴力を振るったりすることがあれば、さすがにツクシやスギナが黙っていないだろうことくらいは、直情的なスズにも分かっていた。

そして――延々と非常に気まずい思いをさせられているスズが次に目にしたのは、こんな光景だった。

 

「木のくせに知った風な口きいて、口答えばっかりしてんじゃないぞ! この分からず屋ぁ!」

 

年少組のトレーナー数人が寄り集まって、スズの口上を真似ながら、「やつあたりの木」を遊びで殴りつけている姿だった。

「おらっ、なんとか言ってみろぉ!」

「やめたげてよお!」

声を上げて笑いながら、代わる代わる「やつあたりの木」をゆるく叩いて遊ぶ年少組一同の様子に、スズは愕然としていた。彼らのものまねは拙かったが、しかし、スズに自分のしたことを見せつけるには十分に過ぎる威力があった。自分がケンジに制裁を加えようとした姿を、彼らは深い意味も考えずに遊び半分で真似ている。

しかも――彼らはスズを真似したにも関わらず、ある一点において決定的に違っていた。

「『やつあたりの木』なら、叩いたり蹴ってもしても大丈夫だよね」

「そうそう。だけど、他の人や別のものを叩いたりしちゃだめだよ。リーダーがいつも言ってるし」

「ムカつくことがあってもぐっとこらえて、『やつあたりの木』を蹴るんだ。俺、いつもそうしてるぞ」

彼らは「やつあたりの木」には好きなように攻撃を加えていい代わりに、他人や物品には自分から危害を加えてはならないというツクシの教えを、しっかりと守っていたのだ。

「おっ、いい心掛けだぞ。こいつは叩かれて成長するヘンな木だからな。バンバン殴ってガンガン蹴ってやれ。その代わり、よっぽどのことが無い限りは、人や物は傷つけちゃダメだぞ」

「よっぽどのことって?」

「悪い奴に急に襲い掛かられたりしたような時だ。悪い奴に襲われたら、時には暴れて自分の身を守る必要があるからな。そういうときは遠慮せずにやればいい。だけど一番いいのはすぐに逃げて、誰か助けを呼ぶことだ。間違っても、自分で悪い奴を倒そうなんて考えちゃダメだ。とにかく、自分の身を守ること。それが一番大事だぞ」

「やっぱ、現実はマンガみたいには行かないからなあ。逃げるが勝ちってことだよね」

「いい言葉を知ってるな。そう、逃げるが勝ちだ。身の危険を感じたら逃げる。逃げるって言葉が嫌なら、『未来への転進』って言えばいい。死んだらそこで終わりだが、安全を確保すれば新しい未来へ進める。『未来への転進』、どうだ?」

「すっげー! なんかかっこいいじゃん! じゃあ俺、夏休みの宿題から未来への転進する!」

「おいおい、いきなり使い方を間違ってるぞ。夏休みの宿題は命までは取らないだろ? 最終日に泣かないように、早いうちにちゃんとやっつけとけよ」

「へへっ、分かってるって」

楽しげに話すアドバイザーとトレーナーたちの姿も、スズにはとてつもなく空虚なものに見えた。

その空虚さは、自らの心の内から生じているものだと自覚し――より一層の空虚さが、スズを包み込んでいった。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。