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コロコロクリーナー

以前住んでいた賃貸マンションでの話です。今は引っ越して別の場所に住んでいますが、その場所には五年ほどいました。

当方男ですが割と綺麗好きで、百円ショップで収納グッズを探すのが好き、服はきちんと畳んで収納、掃除もこまめにしています。

掃除ですが仕事で家に帰るのが遅くなりがちだったので、掃除機は持っていたものの心情的に使いづらく、代わりにコロコロクリーナーを愛用していました。

クリーナーはソファの近くに立てておいて、ホコリや髪の毛を見つけたらさっと転がすようにしていました。

 

住んでから四年くらいは何もおかしなことはなかったのですが、五年目に入ってしばらくしたある日、不可解な出来事が起きたんです。

プロジェクトで休日出勤したあとの振替休日、昼前までだらだら寝てから洗濯、昼飯と済ませたところで、ついでだし掃除するか、といつものようにコロコロクリーナーを手に取りました。

フローリングの上に落ちた髪やホコリをくっつけてはベリベリと紙を剥がす、というのを繰り返していい気分になっていたのですが、

何気なく普段あまり掃除しないリビングの隅へコロコロを転がした時のことでした。

 

「え?髪?」

 

クリーナーの粘着シートに髪……それも明らかに自分のものではない、30cmはあろうかという長い髪がくっついていました。

それも1本や2本ではなく、ざっとみただけで10本以上。粘着シートを覆わんばかりにくっついている。

驚いて床を見てみましたが、辺りに同じような髪が落ちているようには見えません。板張りのフローリングが見えるだけです。

しかしコロコロを転がしてみると、また自分のものではない長い髪が貼り付くのです。何もないところを転がしているにも関わらず。

 

家にに住んでいるのは当然私だけ、普段から床屋で短くカットしていますから、こんなに長い髪の毛が落ちているのはおかしい。

寂しいことですが彼女なんてのもおらず、そもそも部屋に女性が入ってくること自体がないんです。最後にこの家に入ったのは母親、それももう二年も前のこと。

この辺りは普段掃除しないとはいえ、少なくとも月に一度は手を入れています。けれど、長い髪が取れるなんてことはありませんでした。

根本的に、目で見ても何もないような場所で髪の毛がくっつくということ自体があり得ないんですが。

 

気味が悪くなって掃除機を掛けたのですが、ひとしきり吸った後に確かめてみても長い髪なんて見当たりません。吸引袋に入っているのはホコリと自分の短い毛だけ。

箒で掃いてみてもどこかから髪が出てくるなんてことはなく、せいぜいごく小さなホコリが舞う程度です。

しかし、コロコロクリーナーだけは違いました。転がす度に髪の毛が粘着シートにくっついてくる、それもびっしり。何度やっても同じで変わりありません。

背筋がぞっとするのを覚えて、まだ半分ほど残っている粘着シートを芯ごとゴミ箱へ捨ててしまいました。

 

それからコロコロクリーナーを使うのを止めて掃除機をかけるようにしていたのですが、どうにも気味の悪さは拭えず、ちょうど引っ越しを考え始めていたこともあり、

次の更新でその家は退去しました。出て行くときにそれとなく不動産屋に確認したものの、何か曰く付きの物件という感じではありませんでした。

なぜ女性の髪が落ちていたのか、どうしてコロコロクリーナーだけでそれが取れたのか、今なお自分が納得できるような理屈は出せていません。

髪を見つける前後で自分の身に何か悪いことがあった訳ではなく、今でも平穏無事に過ごせてはいますが、コロコロクリーナーはちょっと使う気になれなくなりました。

 

また、自分のものではない髪の毛を見つけてしまいそうなので。