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「!」- "その他の危険"

私は車で通勤しているのですが、そこで通る道路の途中に「!」マークの道路標識があります。

こういった「!」の道路標識近くには幽霊が出る、といった噂話をよく聞きます。ですが、この標識の下には「交差点に注意」の文言があり、少し進むと唐突に交差点があるのを示しています。ですので、どういった意図で配置されている標識なのかははっきりしています。そういった逸話がある場所でないことは確かです。

ただ、あまり目にすることのない標識なのは確かので、車で前を通るたびに「珍しい標識が立っているな」なんて感想は抱いていました。

 

今から10年以上前、確か2008年の11月頃だったはずです。その日は見たことがないほどの濃い霧が出ており、いつも以上に注意を払いつつ運転をしていたのを覚えています。

幸い何事もなく車は進んでいたのですが、例の「!」の道路標識がある場所まで差し掛かったとき、私は何気なく標識の方へ視線を投げかけました。

標識は濃霧の中にあってもはっきりと見えたのですが、視界に飛び込んできたそれは普段見慣れているものとはいささか様相が異なっていました。端的に言うと、標識がおかしくなっていたのです。

 

「あれ?『?』?」

 

私の脳内も同じマークでいっぱいになっていたように思います。立っていた標識には確かに「?」と記されていたのです。見間違いなどではなく、どう見ても「?」でした。

自動車学校に通っていたのは当時から見て5年近く前で記憶はあやふやだったのですが、それでもこのような標識があったとは記憶していません。最近になってこんな標識が作られたなんてことも聞き覚えがありません。

あれは一体何の標識だ? と訝しがりつつ、さらにスピードを落として少し先にあるはずの交差点へ進んで行きます。

 

交差点の前まで来たとき、左側の道からゆっくりと車が走ってくるのを目にしました。私はブレーキをかけて車を止め、走ってくる車をじっと見つめます。

それは真っ黒なセダンでした。交差点の細い道をそろりそろりと遅いスピードで走って行きます。私は車に詳しいわけではないので具体的な車種等は分かりませんでしたが、少なくともこれまで目にしたことのあるどの車とも何かが違っているように見えました。

ふと、前を走る車の運転席へ目をやります。そこには誰も乗っていませんでした。暗くてよく見えないだけかもしれませんが、私にはその車が運転手がいないにもかかわらず走っているように見えたのです。

さらにそのセダンに続くようにして、同じ特徴の車が列をなして走って行きます。2台、3台、4台、5台……合計で10台が私の前を走っていきました。そのすべての車に運転手らしき人物は乗っていないように見えました。

私はいい知れぬ不安を覚えて、ハンドルの影に隠れるようにして身を固くしました。車は交差点の前で停車している私にはまるで目もくれず、まるで何かに引かれるようにして交差点の細い道を抜けていきました。

私は不気味さを覚えて、10台の車が走り去ったのを見てからすぐにアクセルを踏み込み、スピードを上げて交差点を突っ切りました。

交差点を越えてしばらくもしないうちに、あれほど濃かった霧が嘘のように晴れ、前には見通しの良い道路が広がっているばかりでした。

 

それからもその道路は通勤で毎日のように通っていますが、道路標識が「!」から「?」に変わったりはしていませんし、黒い車が列をなして走るような光景も見ていません。

あの日見た黒い車列は何だったのか、今もまるで見当がつかず、ただ不思議さと不気味さだけが残る体験でした。