Subject #62403 | Appendix 1

Appendix 1:

案件の本文を読み、些か違和感を覚えた局員も多いかと思われます。付帯資料では、本案件の実情について説明します。

現実として、野生のスリーパーが無害な人間を襲うケースは確認されていません。もちろん、携帯獣を連れたトレーナーが先に攻撃を仕掛けるなど、明確な敵意を持っていると判断できる場合は除外しますが、その場合もスリーパーの行動は専ら防御的で、攻撃の意志を見せないことがほとんどです。管理局が行った検証では、スリーパーが自発的に攻撃を仕掛けてくるケースは確認できませんでした。

スリーパーは方々で「夢を食う」という特徴が有るとされ、一部の資料では「人を襲って眠らせ、見ている夢を食べる」というような記載が見られます。これは事実ではありません。スリーパーの食性は草食寄りの雑食であり、主に野生の果実を採取して摂食しています。スリーパーが持つ催眠術を初めとする各種超能力は、ほとんどの場合防御的にしか使用されません。これは生物学的にも実証されています。

何より、野生のスリーパーは「夢を食う」と呼ばれる行動――実際には眠っている人間に干渉して生命力を吸い取るという技能を、どのような形であっても自力では習得することができません。スリーパーがこの技能を習得するためには、一般的に「技マシン」と呼称される携帯獣向け汎用的技能習得装置を使用するか、技能を持つ人間から教授してもらうことが不可欠です。

各種資料にある「人を襲う」「子供を狙う」という記述はいずれも不正確で、実情に即したものではありません。過去に子供を誘拐したという事例は一切確認されていません。類似した事例では、そのすべてが被害者の側からスリーパーに何らかの敵対行動を仕掛けたものであることが明らかになっています。しかしながらあまりに広範にこの記述が広まり、スリーパーに対する危機意識はもはや回復不可能なレベルにまで高まってしまっています。管理局ではこれまでに再三に渡り資料の記載を変更し、正しい情報を広めることを試みましたが、それらはいずれも失敗に終わっています。

本件がもたらす本当の問題は、そうしたスリーパーの実像から外れた誤った認識が広範に共有されることで、スリーパーの生息数がここ数十年で激減していることにあります。管理局の把握が遅れたことにより、野生のスリーパーはその数を大きく減らしてしまいました。仮に何の対策も打たなければ、最終的に十年以内にスリーパーは絶滅し、二十年以内には波及効果により進化前の形態である「スリープ」もまた同様に絶滅するものと推測されています。

非常に厄介なことに、野生のスリーパーには自らの意志に寄らず、睡眠中の人間に対して襲い掛かるという悪夢を見せてしまう習性があることが分かっています。本文で記載されている悪夢はこの習性によるものです。これは彼らが自然界を生き抜く中で、近くに居る敵性生物に恐怖心を与え自らを護るために身に付けた自衛行動の一種と考えられていますが、現代においてはスリーパーへの無用な敵対心を喚起し、結果として個体数を減らす結果に繋がっています。現在のところ、この悪夢を止める術は見つかっていません。

管理局では局員に「スリーパーは危険である。決して個人で対処しようとしてはならない」という、受け取り方によっては虚偽の情報を提供しています。これは本案件に携わらないすべての局員に謝罪しなければならないことであると理解しています。しかしながら、「スリーパーは危険な携帯獣である」「スリーパーは子供を狙う」といった知識は所謂「常識」のレベルにまで浸透してしまっており、「スリーパーは保護すべき携帯獣である」という情報は多くの局員を混乱させるものと考えられています。本案件に携わることになった局員にはすべての情報を公開することを約束し、また管理局として虚偽の情報を提示していたことを深く謝罪します。

スリーパーの保護に全力を挙げてください。彼らは不幸にして広まってしまった「常識」によってその命を奪われようとしています。管理局は正しい情報を把握し、その情報に基づいて行動を起こさなければならないのです。

[2009-09-24 Update]

先月中旬に発生した、クチバシティ在住の少女がスリーパーに襲撃された事件についての調査が終了しました。事前に推定された通り、事件を起こしたスリーパーは元々野生の個体ではなく、別のトレーナーによって育成されたものが不法に野に返されたことで凶暴化したものであるということが裏付けられました。対象のスリーパーは既に管理局にて保護し、専門チームによってカウンセリングを受ける予定となっています。

残念ながら、この事件がスリーパーへの危機意識をさらに醸成する物になることは避けられません。管理局ではこれまで以上に本案件へ対応する人員を増やし、スリーパーの絶滅を防ぐための活動を続けていく予定です。