今からもう十四年も前のことになるのですが、父方の祖母を病気で亡くしました。
子供の頃は両親と共に家へよく遊びに行っていて、私も大変かわいがってもらった記憶があります。
お葬式では祖父と両親、私のみならず、多くの人が泣いているのを見ました。きっと、多くの人に慕われていたのだと思います。
祖母は歌を唄うのが大好きでした。自宅に結構ちゃんとしたオーディオのセットを持っていましたから、筋金入りです。
歌好きが高じて先生にレッスンを受けに行ったり、それが縁で小さなホールでリサイタルをしたり。
マイクを握っているときの祖母は本当に楽しそうだったのを、今でも鮮明に思い出せます。
祖父母の家へ遊びに行った時は、お昼ごろから近くのカラオケボックスへ行くのが恒例行事でした。
自分が唄うだけではなく、他の人が唄っているのを聴くのも大好きだといつも言っていました。
しっとりした曲はしみじみと聴いて、ノリのいい曲では楽しそうに手拍子をしていたのを覚えています。
祖母が亡くなってしばらくしてから、インターネットで知り合った人たちとオフ会を開く機会がありました。
当時私は「ミクシィ」のコミュニティに所属していて、その中で特に親しいグループで会おうということになったのです。
オフ会と言えばとりあえずカラオケだろうという意識があり、昼食を食べた後すぐにカラオケボックスへ移動しました。
カラオケで順番に唄っていくのですが、まだ会ったばかりということもあってお互い少し控えめにコミュニケーションを取っていました。
なのでノリのいい曲の時もみんな大人しく聴いている形で、手拍子をするといった感じではなかったのです。
私も特に気にせず唄いたい曲を好きなように唄っていました、少し物足りない気持ちがあったのも正直なところです。
三回目くらいにマイクが回ってきて、Do As Inifinityの「本日は晴天なり」を唄い始めたときでした。
後ろで流れているBGMの大音量に交じって、どこからともなく、手拍子が聞こえてきたような気がしました。
座っている他の人たちの様子を見ると、リラックスして聴いていて特に手を叩いたりしている様子はありません。
不思議に思いながら唄っていると、ふと脳裏にある光景が浮かんでくるのを感じました。
家族でカラオケボックスへ行ったとき、私の歌に合わせて手拍子をしてくれる、優しい笑みを浮かべたおばあちゃんの姿でした。
手拍子は私が唄い終えるまで決して止むことなく、最後まで聞こえていました。
他のメンバーが気にかけている様子はなく、また誰かが最後まで手拍子をするようなこともありませんでした。
後からひとりに聞いてみましたが、手拍子の音が入っているということもなく「何も聞こえなかった」とのこと。
いろいろ確かめてみましたが、あれはきっと私にしか聞こえない手拍子だったのだと思います。
それ以来、ひとりでも誰かといるときでも、カラオケをしていると時々手拍子が聞こえてくるようになりました。
いつもというわけではなく、手拍子が欲しいなと思う時、手拍子が合うような曲にだけ、ぴったり息の合った手拍子がされるのです。
私にだけ手拍子が聞こえる以外は特に何もなく、またカラオケで唄っているとき以外に手拍子がされることは一切ありませんでした。
たぶんですが、あれはおばあちゃんが近くで手拍子をしてくれているのだと思います。
自分の思い込みなのかも知れませんが、それならそれで別に気にする必要もないかな、とも。
あの音を聞くたびに、私が歌を唄うとき嬉しそうに手を打っていたおばあちゃんの姿を思い出すのです。
今日もこの後何人かでカラオケに行く予定です。あの手拍子、また聞こえてくるといいな。