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幽霊のような何か

家から十分ほど走ったところに大きな交差点があるのですが、そこでは時々幽霊らしきものが目撃されています。

私も何度か見ましたし、家族も時期こそバラバラですが一度は見たことがあると言っています。同時に複数人が見たこともあります。

ただ、この交差点に立っている幽霊については、いわゆる普通の幽霊とは何か噛み合わないところがいくつかあります。

 

交差点の幽霊と言うと交通事故の被害者が思い浮かぶと思いますが、その交差点は見晴らしが非常によく、道路も広く取られています。

大きな事故があったという話はまったくなく、せいぜい自転車同士がぶつかって片方が小さな怪我をしたことがある、という程度。

花が供えられているといったこともありません。むしろそこから少し行ったT字路の方が事故多発地帯なのですが、そこで何か見た人はいないようです。

 

近くに墓地があるとか、殺人事件が起きた家なんかがある、といった線も考えたのですが、どちらもありません。

あるのはコンビニエンスストアとコインランドリー、それから築年数が40年を超えていそうな古いアパートくらい。

そのアパートで誰かが亡くなる事件が起きた事故物件という可能性もなくはないですが、なら交差点に現れるのは文字通りずれている気がします。

 

戦争でこの辺りが空襲を受けて焼け野原になった、或いはもっと時代を下るとここで悲惨な事件や事故が起きた……ということもあり得ます。

しかし祖父母はここに住んで長いのですが、あの交差点に曰くが付きそうな話は聞いたことがなく、幽霊自体も最近見られるようになったと言います。

私もこれは違うと思っています。詳しく調べたわけではないのですが、現れる幽霊の姿かたちと時代がまったく噛み合っていないのです。

 

幽霊がどんな姿をしているのかですが、端的に言うと「見るタイミングや人によって違う」という特徴があります。

私が見たのは杖を突いてベージュ色のベストを着た高齢男性の姿でしたが、妻が見たのはクマのぬいぐるみを抱いた小さな女の子だったとのこと。

知り合いはスーツを着た会社員を、息子に至ってはマクドナルドの制服を着たアルバイトらしき人を見たと言います。

 

さらに私と妻が散歩をしていたとき、同時にこのどれでもない姿で現れたのを見たことがあります。これは二人が同じ姿を目撃した例になります。

この辺りではまず見かけない黒人の方で、手にスパゲティらしき料理が盛られた大皿を持って交差点に立っていたのです。

近付くに連れてだんだんと姿がぼやけて見えなくなり、交差点に差し掛かるころには完全に消失していました。

 

何年かに一度くらいのペースで唐突に現れる幽霊らしき存在ですが、本当にただ現れるだけで何かしてくる、害をなす様子はありません。

最初は不気味だったものの今は慣れてしまい「また何か立ってるな」くらいにしか思わなくなりました。家族や近所に住む人の認識も大体同じです。

一応得体が知れない存在なのは確かなので、不用意に近づかないように、とは言っています。勝手に消えてしまうので近付きようもないのですが。

 

何の怨恨や縁も見当たらないところへ唐突に現れて、容姿も見るたびに違っている。ただそこに立っているだけで、危害を加えるようなこともない。

縁の深い場所に生前を思わせる姿で現れ、近付いた者を祟ることが多いと聞く幽霊の常識からずいぶん外れているな、と思わざるを得ません。

 

……もしかしたら、あれは幽霊ではないまったく別の何か、なのかも知れませんが……。