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「木内さん」

今から考えるともうだいぶ昔のことですが、タイムカプセルを埋めることが流行した時期があったかと思います。

私が通っていた小学校でも学年全体でタイムカプセルを埋めようという話が出て、私は未来の自分への手紙と野球のボールを入れました。

ボールは新しい物を買ってもらった直後で、古い方は思い入れもあり捨てるのが忍びなかったのでちょうどよかった記憶があります。

 

カプセルを埋めて20年くらい経った頃、今から10年ほど前のことです。クラスメートだった前田くんから同窓会の案内が届きました。

その時に例のタイムカプセルを掘り起こすと聞いたので是非参加したいと考え、仕事の予定も上手く空けられたので出席を決めました。

小学生だった頃の友人とはすっかり疎遠になっていたので、彼らに会うことも楽しみの一つだった覚えがあります。

 

集合場所へ行ってみると、驚いたことに当時の同級生がほぼ全員出席していました。出席できなかった人からも連絡はもらえたとのこと。

さらに当時担任だった佐藤先生とも連絡が付き、同窓会に出席してくださっていました。歳は取っていましたがまだまだ元気そうです。

会って早々、小学校を卒業してからの出来事や近況について語り合い、大いに盛り上がりました。

 

関係者が揃ったところで、早速メインイベントであるタイムカプセルの掘り起こしが始まります。

埋めた場所は皆の記憶通りでしたが、当時よりずいぶんと辺りが狭く感じました。自分たちが成長したのを実感します。

業者の人たちが手際よく地面を掘っていくと、思っていたよりも早くタイムカプセルの入った箱が出てきました。

 

箱を開けて中身を取り出し、その場にいた人たちに自分の持ち物を渡していきます。中にはちゃんと私が入れた手紙とボールもありました。

手紙には「大きくなった私は野球選手になっていますか?」とあり、残念だけど別の仕事に就いたよ、と言って周りの友人たちと笑い合いました。

他の人も似たような感じで和やかな空気が広がっていましたが、中身を配っていた有村さんが不思議そうな顔をしています。

 

「この『木内』って書いた袋、誰のか分かる?」

 

木内。まったく知らない名前でした。周りのクラスメートたちも一様に「覚えがない」と言うばかりです。

こういった話ですと「いたはず」「いなかったはず」と意見が割れがちですが、木内についてはその場にいた全員がまったく知りませんでした。

佐藤先生も覚えがなく、念のためにと持ってきた当時のクラス名簿を見てもやはり木内の名前はありません。

 

佐藤先生が持っていたクラス名簿を見ると、他のクラスは37人で私たちが属していた4組だけが36人になっています。

これについては4組が一番最後のクラスであり、1組から順に生徒が割り振られた結果一人少なくなったのが理由だと聞きました。

他クラスの名簿を見ても、やはり木内という名前は見つかりませんでした。

 

前田くんと有村さんが電話で参加できなかったメンバーにも確認を取りましたが、やはりと言うか「知らない」とのことでした。

佐藤先生もその場にいた当時の先生方と話していましたが、こちらについても特に目新しい情報は得られず。

この場にいる全員が木内と面識がないことを確かめてから、前田君が木内と書かれた袋を開封して中身を確認します。

 

中からは3枚の写真と「ポケットモンスター緑」のカセットが入っていました。手紙などは入っていませんでした。

写真は見知らぬ女の子がひとりで写ったもので、海辺と学校、そして家の中でそれぞれ撮られたもののように見えます。

「ポケットモンスター」の方は、小学校に通っていた当時流行っていたのを覚えています。私も遊んだ記憶がありました。

 

結局木内のことは分からずじまいで、中に入っていたものを見てもピンとくる人は誰もいませんでした。

「誰かが悪戯したんじゃないか」とか「他の学校の子がどさくさ紛れに入れた」とか、いろいろ意見は出るものの、どうもしっくり来ません。

とは言え、当初の目的だったタイムカプセルの開封は無事成功しましたので、皆さして気にも留めず同窓会の会場へ移りました。

 

同窓会が終わって一か月ほどが過ぎたあと、それ以前からずっと連絡を取り合っていた川見くんからメールが届きました。

川見くんはあの後「ポケットモンスター」のカセットを引き取り、中のデータを見てみたとのことです。

かなり時間が経っていたにもかかわらずセーブデータが残っていて、それを見た川見くんが「『ゆみこ』という名前に見覚えがある気がする」と言うのです。

 

当時川見くんも「ポケットモンスター」を遊んでいて、その際に「ゆみこ」という名前のプレイヤーとデータを交換したことがある気がする、とも。

おそらく「ゆみこ」は木内のことでしょう。カセットに木内の名前が書かれた袋に入っていたのですから。

しかし先ほど述べたとおり当時の名簿に「木内」という名前はありませんでしたし、私もそのような誰かと接した記憶は残っていません。

川見くんもおぼろげながら記憶にあるだけで、木内が誰なのかまでは思い出せない、と言っています。

 

……木内とは、一体何者なのでしょうか。

6年4組として共に過ごしたあの教室に、本当に木内というクラスメートはいなかったのでしょうか?