十歳くらいの頃の話です。この前帰省した時に両親や兄とも話して、確かに起きたことだったと改めて確認できたので書こうと思います。
その日、私たちは家族四人で父方の祖母の家へ向かうべく、カローラで二時間ほど移動することになりました。
高速道路の長いトンネルを抜けた直後、後ろからものすごい衝撃を受けて車が大きく揺れるのを感じました。
最初は何が起きたのか分かりませんでしたが、しばらくして後ろから別の車が衝突し、その弾みで前の軽自動車にぶつかったのだと気付きました。
これは後から父に聞いたのですが、この時私たちは自動車四台が絡む結構大きな玉突き事故に巻き込まれた形になったんです。
車は前後とも激しく損傷しましたが、幸いなことに家族は全員大した怪我もせずすぐに車から降りられる程度で済みました。
助手席にいた兄は頭をフロントガラスにぶつけて小さなタンコブを作り、後で「これ以上馬鹿になったら困る」とネタにする程度のものでした。
車はともかく自分たちは皆無事だったので、父が警察と救急に連絡して間もなく辺りが封鎖されました。
事故の処理は警察に任せることにし、私たちは大事を取ってやってきた救急車で病院へ向かい、連絡を受けた祖父母も駆け付けてくれました。
残念ながら車は廃車になってしまいましたが保険も下り、全員ほとんど無傷で無事だったのは先の通りです。
ここまでは良かったのですが、巻き込まれた事故について一点どうにも不可解というか、説明のつかないことがあったんです。
事故が起きたとき、私たちは後ろから追突されて前を走る白い軽自動車にぶつかったと認識していました。両親と兄も同じです。
トンネルを出てぶつかるまでは少し間がありましたし、四人が四人とも見間違えるということは考えにくいです。
ところが、事故現場に白い軽自動車はありませんでした。では別の車があったのかと言うと……なかったのです。
前面を損傷した後ろのアクティ、前後が大破した私たちのカローラ、後部が凹んだ先頭のウィングロード。以上三台のみ。
私たちと同じように前後にダメージを受けているはずの白い軽自動車は、事故が起きた現場のどこにもありませんでした。
事故が起きてすぐに外へ出たのですが、その時も白い軽自動車が走り去っていくような光景は見ていません。例によって家族全員が、です。
そもそも前後が変形するほどの事故に巻き込まれて、無視して現場から走っていくということはまず考えられないし、ほとんど不可能だと思います。
しかしそうは言っても現場には三台しか車が存在せず、私たちが後ろからぶつかったはずの白の軽自動車は跡形もなく消え去っていました。
一応、警察には軽自動車の件は伝えたようですが、現場に事故車両がないのではどうにもならず、結局三台の玉突き事故として処理されました。
しかしながら後で父から聞いたのですが、白い軽自動車を挟んで先頭を走っていた車と私たちの車の衝突痕はまったく噛み合わなかったとのこと。
さらに先頭車両と私たちの車両からは、軽自動車から剥離したと見られる白い塗膜片が見つかった、とも。
あれから私たちの身に何か起きたということはないのですが、家族とは折に触れてこの「消えた軽自動車」の話をします。
やはり見間違いだったのか、それとも無理やり現場から立ち去ったのか、あるいは……事故が起きた瞬間にどこかへ消え去ってしまったのか。
だとすると、あの軽自動車に乗っていた人は一体どこへ行ったのか、あれからどうなってしまったのか。
考えれば考えるほど不可解で、謎の残る事故だったと思います。