かつて小学生だった頃、私の同級生に哲也君という男子がいました。
当時はそんなにおかしいとは思っていなかったのですが、今になって考えてみると不自然なところが多い子だったように思います。
それも「普通の不自然(?)」ではないというか、上手く説明が付かない感じなのですが、ちょっと聞いてください。
哲也君は私が三年生だった時に同じクラスになりました。それまではまったく面識がなかったと記憶しています。
周りの子も「見たことがない」という反応だったのは気になりましたが、すぐに打ち解けてクラスに馴染んでいったはずです。
何分とても人数の多い小学校だったので、二年生までに顔も見たことがなかったということ自体はそんなにおかしくないかなと。
振り返ってみると、哲也君は他に誰もいない、私と二人きりになったときによくおかしな状態になったような気がします。
他の子といるときはどうだったのかは聞きませんでしたし、当時は気にした記憶もありません。
数名の女子が哲也君から少し距離を置いているのは目にした記憶がありますが、男子相手なら女子が近寄らなくても奇妙ではないでしょう。
哲也君と二人で下校していた時、ふと隣に立つ彼の顔を見たことがあります。
画像に掛けるエフェクトに「ぼかし」ってあるじゃないですか。全体をにじませて輪郭を曖昧にするあのエフェクトです。
それによく似たような形で、哲也君の顔がぼやけて表情が読み取れなかったことがありました。
当時は目の錯覚か、夕焼けに照らされて眩しかったのだと解釈していました。
しかし今思うと、そうしたことで説明がつくような状態ではなかったです。周りの風景や哲也君の体ははっきりと見えていましたから。
数秒だけ顔にぼかしが掛かって、瞬きした瞬間に元通り鮮明に見えるようになったのです。なぜあの時はおかしいと思わなかったのか逆に不思議です。
二人で川へ遊びに行ったときも不可解なことがありました。その辺りに落ちていた石を川に投げて遊んでいた時です。
他のことをしようと思い「哲也君」と声を掛けたのですが、すぐ隣にいる哲也君からは何の反応もありません。
遊びに夢中で私の声に気付いていない、とかではないんです。なぜそうではないと分かったのかというと……
顔をこっちへ向けようとする途中で止まって、全身が微動だにしていなかったからです。
着ていた服が風に揺れるようなこともなく、本当にその場で硬直していたんですね。時間が止まってしまったようでした。
パソコンを使っているとたまにフリーズして動きが止まることがあると思いますが、あれが一番近い感じです。
せいぜい五秒ほどだったと思います。哲也君は何事もなかったかのように動き出して「どうしたの?」と尋ねてきました。
そのときの私はさして気にも留めず別の場所へ行こうと言ったのですが、思い出してみると不自然どころの話ではありません。
なぜ当時は不審に思わなかったのかと、自分の判断や考えすらも不気味に感じるほどでした。
哲也君とは三年生の一年間を一緒に過ごして、その後は全く接点を持っていません。急に関係が切れているんです。
喧嘩別れしたとかどちらかが引っ越したとかではなく、四年生に進級した直後から学校でも外でも姿を一切見かけなくなりました。
あれだけ普段遊んだりしていたのに突然出会うことすらなくなって、それすらも今まで特に不思議とは感じていなかったのです。
社会人になった今まで哲也君とは再会できておらず、行方についても掴めていません。
当時の知り合いと同窓会などで出会ったときに訊いてみましたが、そもそも覚えていないか記憶にない、という回答ばかりでした。
彼が何者だったのかは分かりませんが、なんとなくもう一度会うべきではないという気持ちを感じています。
……ここからは、あくまで私のつまらない考えだと思って聞いていただければ。
遊ぶときに人数が揃っていないと、足りていない分をコンピュータが代行してくれるゲームってありますよね。
対戦ゲームやパーティゲームではよく見かける、ほとんど標準装備と言っていい機能だと思います。
もしかすると、哲也君は生きている人間ではなくて、足りない分を誰かが補充しているのかも知れないと考えました。
その誰かというのが具体的にどういうものなのか、なぜ補充する必要があったのか、私には見当も付きませんが……。