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二度あることは……

最初は十年ほど前でした。その頃から古い漫画や児童書に興味を持って、休みごとに古本屋を回って欲しい本を探していました。

ある時子供の時に読んだ「雪山のひみつ基地」という本がまた読みたくなり探してみたものの、在庫のある古書店は見つからず。

三週間くらい毎週のように探してみても見つからず、別の場所を当たってみようということでヤフオクへアクセスしてみました。

 

普段ヤフオクはほとんど使っておらず、この時も何年も前に古いCDを落札した記録があるだけでした。

取引自体は円満に終了し、落札したCDも状態のいいものだったのであまり不安はありませんでしたが、そもそも本が見つかるかどうかは未知数。

ヤフオクでも見つからなかったらどうしようかと思い、なかなかここで探してみようという気になれなかったのが本音です。

 

書籍のタイトルを入れて検索してみると、関連すると言いながらあまり関係のない検索結果に混じって、見覚えのある表紙がありました。

慌ててクリックするとちょうどその日の夜に終了予定となっていて、取引開始価格は1000円、ほぼ定価と変わりません。しかもまだ誰も入札していません。

ここを逃すと次に「雪山のひみつ基地」が見つかるのはいつか分からないこともあり、私は迷わず入札しました。

 

オークションは最初に決められた時間に無事終了、他に入札する人もおらず、私の落札で確定しました。

その後ほぼ定型文どうしのやり取りを数回交わした末、私は入札価格での入金を、相手方は商品の発送を行い、無事に本が手元に届きました。

もちろん古書なので相応の年季は入っていましたが、それを考慮しても書籍の状態はよく、満足のいく取引ができたと思います。

 

その後しばらくヤフオクとは関わりのない日々を過ごしていましたが、今度は幼稚園の頃に読んだ「ぼくたべないよ」という本が読みたくなりました。

調べてみると分かるのですが、児童向け絵本とは思えない衝撃的な内容ゆえかコアな人気があり、手離す人が少ない様子。

例によってよく行く古書店ではことごとく見つからず、そう言えば前にもこんなことがあったなと思い、ヤフオクにアクセスしてみました。

 

以前と同じように検索してみると、また検索結果の中ほどに目当ての本の表紙を見つけました。これだ、と思いリンクをクリックします。

オークションはその日の23時終了となっていて、取引開始価格は1000円、誰も入札した記録がありません。放っておけばこのまま時間切れになりそうな雰囲気でした。

ちょっと見覚えがありすぎるなと思い出品者を見てみると、以前「雪山のひみつ基地」を取引したユーザーの方でした。

 

古書店でも開いているのかな、と一瞬気がそれますが、他の人が落札すると話がややこしくなると思い開始価格の倍に当たる2000円で入札。

その後の成り行きをチラチラ伺っていましたが、大方の予想通り誰も入札せず無事に落札に成功しました。

前回のやり取りを思い出すためにメールを見ていく過程で、相手の方の取引履歴が気になりユーザーページへ飛んでみました。

 

が、ここで腑に落ちないというか、異様な光景が広がっていました。

評価は「とても良い」が1件だけ、コメントを付けたのは他でもない私で、当時のほとんど定型文そのままのコメントが掲載されていました。

他に誰とも取引していないのかと首を傾げました。相手方はずいぶん慣れた様子で、こちらの連絡にほぼ間を置かず反応してきた記憶があったからです。

さらにユーザーページでは出品記録も見られたのですが、評価の履歴に輪をかけて不可思議な光景がありました。

 

その方が出品したのは「雪山のひみつ基地」と「ぼくたべないよ」の古書二冊、それだけだったのです。

 

物理的にはあり得ることです。たまたま古書を二回出品したら、たまたま私がそれを落札した。確率はさておき、理解できない話ではありません。

問題はこんなことがどれほどの確率で起こるかということで、どちらかが相手のことを認識していなければまず起こり得ないと思います。

私は相手のことを全く知らず、住所も鳥取と岩手で大きく離れています。岩手に知り合いは皆無ですから、間違いなく見ず知らずの人でしょう。

 

不気味さを覚えつつも落札した以上はちゃんと取引を済ませる必要があり、私は例によってほぼ定型文だけでやり取りしました。

書籍は速やかに発送され、前回同様古書としてみればとても良い状態で届きましたが、なんとなく素直には喜べません。

どうしてもあの出品者のことが気になってしまい、しばらくその方の動向を見たりしていましたが、私以外と取引している様子はありませんでした。

 

そして今、私は筒井康隆の「三丁目が戦争です」という本の初版を探し、みたびヤフオクへアクセスしています。

検索結果には探していた本を出品している人がひとりいました。オークションは今夜23時に終了し、取引開始価格は1000円、他に誰も入札していません。

そのユーザーの取引回数は「2回」、過去に出品したのは児童書の古書「2冊」のみ。そして、その方の評価コメントには……

 

私が書いた定型文そのままのコメントが「2つ」、並んでいたのでした。