ほんの一か月ほど前、つい最近の話です。なんとなく腑に落ちないというか、理解が及ばない事があったので書かせてください。
結構前からコンビニでバイトをしているのですが、そこの先輩から「奇妙なものが見える家がある」という話を聞かせてもらいました。
私はいわゆるオカルト好きで、先輩も同じく怖い話を調べたり心霊スポット巡りをするのが趣味ということで意気投合した経緯があります。
先輩曰く、そこは住宅街の奥まったところにある一軒家で、今はもう誰も住んでおらず空き家になっているとのこと。
庭は雑草が伸び放題になっていて、ポストにもチラシやダイレクトメール、何かの督促状などが無理やり詰め込まれて溢れかえっている。
移動中はつい見過ごしそうになりますが、少し意識して家の様子を見てみれば、もうここに人が住んでいないことは明らかでした。
くだんの空き家が先輩の話題に上ったのは、そこで気味の悪いものを目撃したというのがきっかけでした。
先輩曰く「夜通りがかったときに家の方に目を向けたら、二階の窓に妙な人影が見えた」とのこと。
私は「普通に誰か居たんじゃないですか? お子さんが家の片づけに来たとかで」と言ったのですが、先輩は首を横に振ります。
先輩は「その人影、なんか赤かったんだ」と呟くように言いました。
その様子が、大げさに言って驚かせるようなものでも、意図的に怖がらせたいというものでもなく、淡々としていたのがかえって不気味でした。
先輩によると、赤い人影はしばらく外を眺めていたように見えましたが、すぐに部屋の奥へ引っ込んでしまったといいます。
赤い服を着ているとか髪の毛を赤く染めているというものではなく、明らかに「赤い」人影だったそうです。
もしかしたら心霊スポットかも知れない。私は興味を持ち、同じ大学に通っている友人に声を掛けました。
その友人は表立っては言わないものの俗に言う霊感があるとのことで、過去の経験からどうもそれは本当だと私も感じています。
何も調べずに行った場所で強い寒気を覚えて、後で調べてみたら心霊スポットとして名前が挙げられていた……といったこともありました。
友人は霊感がある割に私と同じくオカルトの類が好きで、不法行為にならない程度にそういった場所へ赴いたりしていました。
私は先輩の話を包み隠さず伝えて「もしかしたら幽霊かも」と言うと、友人は「行ってみようぜ」とノリ気です。
場所は先輩から聞いていた上にバイトも休みだったので、その日の夜に早速現場へ向かうことにしました。
現地集合にしていたので家で時間を潰し、夜の10時ごろに友人と合流しました。辺りは街灯も点いていて、別段不気味な感じはしませんでした。
問題の家を見てみますが、友人は「特に肌寒いとか気分が悪いとかはないな」といつも通りで、お互い首を傾げます。
しばらく待ってみても異変らしい異変はなく「先輩に担がれたかな」と冗談を言い合っていたのですが、それは不意に訪れました。
「……あっ。いる」
友人が声を上げました。慌てて二階の窓を見ると、いつの間にか赤い人影が立っていたのです。
辺りは夜で暗いにもかかわらず不自然なくらい赤色が鮮やかに見えて、窓越しに外を見ているようでした。こちらに気付いているのかまでは分かりません。
私も友人もはっきりと目撃しました。瞬きしたり目を擦ったりしてみても、赤い人影は変わらず見え続けています。
「何か感じる?」
「いや、何も……」
困惑しているのがありありと伝わってくる表情でした。確かに得体の知れないものが廃屋にいるのに、霊感がまったく働いていないようでした。
普通、はっきり姿が見えるほどなら、体調の変化となって現れるはずです。少なくとも今まではそうですし、そういった話をよく聞いています。
ですが友人はまったく何の変調も覚えておらず、その事にかえって困惑しているようでした。
しばらくすると、赤い人影はスッと姿を消してしまいました。この間、やはり友人は何もおかしな感覚を覚えていなかったそうです。
その場で少し話しましたが、当然あの赤い人影がなんだったのか明確な結論が出るはずもなく、もやもやした感覚だけが残りました。
ただ。
「……あいつ、生きてる人間じゃないけど、幽霊でもないと思う」
友人がポツリと発したこの言葉は、もしかすると事実を言い当てているのではないか。私はそう思っています。