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ワードサラダ

今から15年くらい前だったと思います。いわゆるブログが流行して、多くの人が日記を付けていた時期がありました。

私も日記は付けているのですが、文章がまとめられない自覚があり人に見せる気にはなれず、自分でブログを持とうとは思いませんでした。

読み返してみても書いたことの意図がハッキリせず、これはなんのことだったか……と頭を抱えることがしばしばあります。

 

意味の分からない文章繋がり……というわけではありませんが、流行っていた頃に奇妙なブログを見かけることがしばしばありました。

当時メモ帳に保存していたものの一部を引用します。

 

なんとなく色々調べた限りでは、「セラミドとは、ターンオーバーのプロセスの中で合成される細胞間脂質のことです。

3%程度の水分を保有して、角質の細胞をまるで接着剤のように結びつける大切な機能を有しています。

このように結論されている模様です。

 

つまり、最近のトライアルセットは豊富にあるブランドごとやいろいろなシリーズに分かれています。

1パッケージの形で大抵の化粧品メーカーやブランドが力を入れており、必要性が高い注目のアイテムだとされています。

このように提言されていると、思います。

 

これらはまだ比較的言葉として意味を成している部類ですが、もっと酷いものになるとこのような意図すら理解できない文章になります。

 

私はメキシコに滑ります。休日は明日行くのが病院です。いつか海へ万年筆を読みに行きます。

 

こうした支離滅裂な文章が延々と続き、読んだところで何の意味も理解できません。しかもこれが大量にあるのです。

当時の検索エンジンは、ちゃんと意味のある文章とそれをズタズタに切り刻んで並べただけの文章もどきとを区別できなかったと聞きます。

素材を切って混ぜたというところから着想を得たのか「ワードサラダ」という名付けがされたとも知りました。納得できるネーミングです。

 

暇を持て余していた頃、こうしたワードサラダを検索して眺めるのを暇つぶしにしていた時期がありました。

何か意味を見いだそうというわけでもなく、ただ言葉の羅列をぼーっと眺めるだけです。社会人になりたてで少し疲れてたのかも知れません。

その中で偶然意図が通っていたり、なんとなく面白いと感じられるものを探せると、ゴミの山からまだ動く機械を見つけたような気持ちになれました。

 

ある時、そうした有象無象のブログの記事で「和歌山県西牟婁郡上富田町……」から始まる、ある住所を見つけました。

最初はどこかの記事から紛れ込んだのだろうと思ったのですが、どういうわけかその日だけで十回以上同じ住所を見かけたのです。

どこか有名な場所なのか、それともまた別の理由があるのか。私は気になり、その住所について調べてみました。

 

実際にどんな場所か確かめてみるのが手っ取り早いと感じ、グーグルマップでその住所を入力してストリートビューを見てみました。

表示されたのは、かつて住宅だったように見える打ち捨てられた廃墟でした。辺りは暗く、近隣に他の建物は見当たりません。

もちろん人気はまったくなく、ここ数年は誰も足を踏み入れた様子が無いくらいに荒れ果てていました。

 

見ているうちにここがどんな場所なのかさらに知りたくなって調べてみたのですが、ただの廃墟にまつわる情報がそうあるはずもなく。

当時は「一度実際に見に行ってみたい」と結構強く思ったのですが、その時はまとまったお金がなく難しいと判断しました。

もちろん行こうと思えば行けない距離ではありましたが、結局行かないまま今日に至っています。

 

こうして当時のことを振り返りながら書いてみると、自分の行動や判断が不思議というか不気味というか、違和感を覚えてなりません。

なぜ支離滅裂な文章を眺めて時間を無駄にしていたのか、どうして何の縁もない廃墟を訪れてみたいなどと強く思ったのか。

自分で納得のいく説明ができず、困惑するばかりです。

 

あの住所だけが執拗に繰り返された理由も不明ですし、本来明るい日中の写真しか使われないストリートビューで暗い夜の写真が出たのも奇妙な話です。

現実的に考えれば、ワードサラダを作るためのツールか何かが偶然あの住所を拾い上げて辞書か何かに持ったのでしょう。

ストリートビューの写真は、選別にミスがあり本来掲載してはいけない写真が誤って載ってしまった、そう考えるのが無難な気がします。

 

……あの場所がネットを通じて誰かを誘おうとしている。あまりそんな風に考えるべきではないと、今は思っています。