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古びた未来の広告

自分に向けて何か害があった訳ではないので、怖いというよりは「どうして?」っていう疑問の方が強い話になりますが。

時々思い返してみても、うまく自分を納得させられずしっくり来ないまま今に至っています。

見間違いや記憶の食い違い、実は自分が知らないだけでちゃんとした理由がある……そういう事柄であって欲しいと思っています。

 

2000年代の終わり頃まで、私は関西の南方で暮らしていました。中心地からは一時間ほど掛かる場所で、田舎と言って差し支えありません。

最寄り駅には小さなバスターミナルがあり、その裏には既に誰も住んでいないと思しき廃墟と化した家がありました。

そこ自体に何か曰くや悪い話があったわけではありませんが、放置されていたゴミの一つのことを今も鮮明に覚えています。

 

それは「ソーピード」という清涼飲料水の広告でした。元々は自動販売機に取り付けられていたのが、終売に伴って捨てられたようです。

1998年にそこへ越してきた時からターミナル裏の廃墟に存在していて、初めて見た時点で日に当てられてかなり色褪せていたのを覚えています。

捨てられてから間違いなく十年以上は経っている、そう思わせるくらいの年期が入っていました。

 

ですから私は「ソーピード」は平成の頭頃、もしかするとさらに遡って昭和の末期くらいに販売されたのだろうと考えていました。

近隣の自販機で売られているのは見たことがありませんでしたし、広告の経年劣化ぶりを見るとなおさらそのように思えたのです。

「ソーピード」という名前も、ソーダと「トーピード」を捩ったちょっと古めかしいものだろう、などと考えて納得していました。

 

引っ越してから十年ほど経って就職のために再びその地を離れ、年末に両親の元で過ごすために帰省する程度になりました。

帰省するたびに見知った場所が無くなっていたり、新しい建物に変わったりしていったように思います。

その過程であのバスターミナルも取り壊され、より広い場所へ移されたことを知りました。

 

2013年だったと思います。帰省してバスターミナルがあった場所を歩いていたとき、「昔この辺りに広告が捨てられてたっけ」と唐突に思い出しました。

帰宅する途中でそれが「ソーピード」の広告だったことも思い出し、どんな商品だったのか急に気になってきました。

昭和末期から平成初期の商品なので情報があるかは怪しかったですが、とりあえず調べてみようと思いネットで検索してみました。

 

そして、分かったこと。

 

ソーピードはそれよりもずっと後、2006年に発売された商品だった、ということです。

 

製造元はヤクルト、キャッチコピーは「体力と体型をマネジメントする機能性飲料」で、ソーダではなくスポーツドリンクとのこと。

水泳のイアン・ソープ選手とコラボレーションした商品で、氏の顔写真がパッケージに起用されました。

コラボレーション商品ということもあってか売られていた期間は短く、現在では生産・販売ともに終了しています。

 

商品そのものに何もおかしなことはありませんが、発売されたのが2006年という事実に私は混乱しました。

私が広告を初めて目にしたのは90年代末、それもその時点で色褪せて年月が経過していたのを覚えていたからです。

かつて同名の商品があってそれをリバイバルしたのかとも思いましたが、調べてみてもそういうわけではないようでした。

 

先に述べたとおりバスターミナルとその周辺は取り壊され、すっかり様相が変わってしまいました。

もちろん広告も処分され、もう一度見に行くといったことも叶いません。既に跡形も無くなっています。

あれが勘違いだったのか、それとも本当に「ソーピード」の広告だったのか、今となってはもう分かりません。

 

もし記憶通り「ソーピード」の広告だったとしたら、それはそれで説明が付かなくなってしまうのですが……。