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ホットサンドはどこへ

シンプルに怪現象が起きたときの話。誰か似たことが起きた経験のある方がいたら教えてほしいです。

 

日曜日だったと思います。昼頃まで寝てお腹が空いたので何か食べようと冷蔵庫を漁っていたら、賞味期限間際のハムとスライスチーズを発見。

その後食べかけの食パンがまだ残っていたのを思い出したので見てみると、8枚切りのものがちょうど2枚。

これならホットサンドが作れる。残り物も一掃できて一石二鳥だと思い、早速準備に取り掛かりました。

 

しばらく使っていなかったホットサンドメーカーを出してきて軽く水洗いすると、食パンの耳を切り落としてハムとチーズを挟みます。

このホットサンドメーカー、買った当初はいろいろ挟んでみたり他の調理にも使っていたのですが、割とすぐに飽きてしまってたまにしか使わなくなってしまいました。

いろいろ使えると分かっていてもなんとなく持ち腐れになってしまう、ミキサーなんかもそうなんですが、調理器具にありがちだと思います。

 

パンと具材を挟んだホットサンドメーカーをコンロに掛けて蓋を閉じ、キッチンタイマーを2分に設定して焼けるのを待ちます。

その間にお湯を沸かし、一緒に飲むためのコーヒーを準備。ホットサンドならお腹に溜まるし、朝昼兼用の食事としてはちょうどいいな、なんて考えていました。

キッチンタイマーが鳴ったのでホットサンドメーカーを裏返し、再度2分待ちます。パンを何度か焦がして「両面2分」が一番良かったという経験則に基づくものです。

 

再びキッチンタイマーが鳴りました。これで両面が焼き上がったはず。お皿を出してきて盛り付けようと、ホットサンドメーカーのふたを開けた時でした。

 

ありませんでした。そこにあるはずのホットサンドが、なかったんです。

 

「えっ?」と思わず声を上げました。さっきまであったはずのホットサンドが完全に消えて、引き出しから出したときのように綺麗さっぱり消えていました。

パンくずとか零れたチーズとか、そういったホットサンドがあった痕跡すら消えていたんですよね。本当に、最初から無かったみたいに。

目の前の光景を信じられなくて、床に落としたのかと見てみたもののどこにも落ちていない。ふたを開けただけでホットサンドが落ちるはずがないので当たり前なんですが……

 

最初から何も挟まずに焼いてたのでは、まだ現実的に考えようと思って辺りを見てみますが、まな板の上には切り落としたパン耳があるだけ。

ハムやチーズのビニールもゴミ箱へ捨てられていて、どう考えてもちゃんと食材をホットサンドメーカーに入れて焼いたようにしか見えない状態でした。

でも、そこにあるはずのホットサンドはどこにも見当たらない、痕跡すら無い。どこにも無くなったんです。

 

なんだか気味が悪くなって、今思うともったいないことをしたと思うんですが、切り落としたパン耳を食べずに処分してしまいました。

どう考えてもパンに罪はないし、食べ物を粗末にするなと教えられてきたんですが、目の前でいきなり消えたパンを見て残った部分を食べる気にはどうしてもなれず。

淹れたばかりのコーヒーを飲んでとりあえず落ち着こうとしたのですが、味もろくに分からない状態で到底落ち着きませんでした。

 

ホットサンドメーカーはどうしようかと思ったのですが、すぐに結論が出るわけもなく、熱が引いたのを確かめて引き出しへしまいました。

自分は今現実感のある変な夢でも見てるんだと呟きながら、さっき出たばかりの布団にまた潜り込みました。目の前で起きたことから逃げたかったのが本音です。

ちゃんと眠れたのか眠れなかったのか曖昧な時間を長々と過ごして、結局その休日は丸ごとつぶれてしまいました。

 

それから半年くらい経った後です。だいぶ不条理なことが起きたのに毎日忙しいとコロッと忘れてしまって、私はまたホットサンドを作ろうとしていました。

今日は焼いたタマゴとベーコンでも挟もうと思って具材を冷蔵庫から出し、引き出しからホットサンドメーカーも引っ張り出します。

もろもろの準備を済ませてパンと具材を挟むべく、前に使った時のままのホットサンドメーカーの上蓋を開きました。

 

ありました。そこにないはずのホットサンドが、あったんです。

 

まだコンロに火を点けていないのに、そこに焼きたてのホットサンドがありました。でも手元にはまだ焼いていないパンと具材が丸々残っています。

今度も「どういうこと?」と猛烈に混乱しながら、とりあえずホットサンドメーカーの中にあったそれをお皿へ取り出してみました。

先ほども言った通りホットサンドは完全に焼き立てで、時間が経って古くなっているといったことはなかったです。前に取り出し忘れたものがそのまま……というわけではありません。

 

前。私はこの時になってようやく、自分の目の前から消えたあのホットサンドのことを思い出しました。

「じゃあ、これって……」私は恐る恐る包丁を手に取って、お皿に出したばかりのホットサンドに刃を入れて半分に切ります。

そこにあったのは、切り口から見えたのは。

 

……ハムとチーズ。前に挟んだ時の具材であるハムとチーズが露になって、私の前で微かな湯気を立てていたのでした。