ある日いつも通りの時間に出社して自分の席に向かってみると、机の上に「もみじ饅頭」が置かれていました。
広島でお土産としてあちこちで売られているあのお菓子で、見た目は何も変わったところはありません。お店の名前も入っていた記憶があります。
他の人の机を見ると、同じようにして「もみじ饅頭」が置かれていました。置かれているのはどうやら私たちの部署の島だけのようです。
誰かが広島へ旅行に行ったのだろう、そう思いました。私の会社では休暇で旅行へ行くと、そこでお土産を買って部員に配る習慣がありました。
が、私は続けて「誰だっけ?」と疑問を覚えました。というのも、昨日は部員全員が出社していて、旅行で不在にしている人はいなかったからです。
他の部員に訊ねてみても「知らない」「自分も気づいたら置いてあった」というばかりで、結局誰のお土産かは分からずじまいでした。
また別の日。今度は私が休みを取って北海道へ旅行に出かけ、休暇明けに現地で買ってきたお土産を持って出社したときのことでした。
私が買ってきたのは定番のお菓子「白い恋人」。簡単に手に入りますし、苦手だという人もほとんどいないのでお土産に最適だと思いました。
お昼休みの間に配ろうとすると、隣の席についていた増田さんが不思議そうに声を掛けてきました。
「あれ? 朝のうちに配ってなかったっけ?」
増田さんが指差した先には宮本さんの机があり、そこには私が配ろうとしていたものと同じ白い恋人が置いてありました。
いつかは不明ですが、午前中に配られていたようです。もしやと思い私の机を見てみると、クリアファイルの下に同じく置かれているのを見つけました。
しかし私の手にはまだ配っていない白い恋人があります。チーム内で他に旅行へ出ていた人もおらず、部員は皆私が配ったと思っていました。
最終的に、このときも誰が白い恋人を配ったのかはハッキリしませんでした。
それから少なくとも半年は経った頃です。作業の関係で日を跨いで立ち会うことになり、かなり遅くなってから会社へ向かいました。
ほとんどの方が退社して人影がまばらになったオフィスを見つつ自分の席へ向かうと、隅にやや大ぶりな個包装の菓子が置かれていました。
パッケージには「鳳梨」と書かれています。台湾でお土産としてよく売られているパイナップルケーキだとすぐ気付きました。
そしてすぐ、チーム内で台湾に旅行していた人などいないことも気付きます。
他のチームの方が配ったのかとも思いましたが、例によって自分たちの部の島にしか置かれていません。前にも似たことがあったのをすぐに思い出しました。
居残っていた同僚に訊ねてみましたが、同僚も「ミーティングが終わったら置いてあった」と言い、誰が置いたのかはまたしても闇の中でした。
以前年末の大納会が行われた際、これまで述べてきたような「誰が置いたのか分からないお土産」がないか別部署の人に訊ねたことがあります。
何人かに訊ねてみましたが、結果は全員「覚えがない」とのこと。このようなことが起きているのは私の部署だけだと分かりました。
これが分かったところで、結局誰が配っているのか分からないお土産について正体に近づけたわけではないのですが……。
そういうことがあって今日になります。出社して机の上を見ると、大阪で売っているたこ焼きせんべいの個包装がメンバー全員の机に置かれていました。
例によって他部署の机にはなく、まるで私たちの部署の誰かが大阪帰りに配ったかのようでしたが、大阪はおろか近畿へ出向いていた人すらいません。
そして今回も誰が配ったのか分からぬまま、ただお土産が置かれていたという事実だけが残りました。
私が知っている限り、この微妙に不気味な出来事はかれこれ五年ほど続いているのですが、どなたか似た経験をされた方はいませんでしょうか?
実はよくあることなんだよとか、こういう理由があるんじゃないかとか、とにかく少しでも安心したいというのが本音です。
……置かれているお菓子そのものはいつも市販のもので至って普通なのが、却って不気味に感じる次第です。