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仮面の向こう側

高校生だった頃の話です。同級生に岡田という男子がいて、たまに街へ遊びに出かけたり家へ上がらせてもらったりしていました。

いつもつるんでいた、というほどではありませんでしたが、それでも割と親しい間柄だったと思います。趣味も似通ったところがありました。

その岡田について、在学中にかなり不気味な出来事があったので話させてください。うまく説明できるか不安ですが、聞いていただければ幸いです。

 

岡田はいわゆるオカルト好きで、夜中に心霊スポットへ突撃して探検をしたり写真を撮ったりしていました。怖いもの知らずとはこのことだと思います。

私は俗に言う霊感などは皆無でしたが、それはそれとして暗い中危険な場所へ行くべきではないと思いましたし、シンプルに怖かったです。

見栄を張らず「自分はそういうの怖いから勘弁してくれ」と伝えていたのですが、岡田は聞く耳を持たずしょっちゅう私に体験談を語って聞かせました。

 

こうしたオカルト話を聞かせるのは私に対してだけではなく、付き合いのある同級生全般に向けて同じような話をしていたようでした。

私のように嫌がる者もいれば、もっと聞かせろと煽る者もおり、岡田には後者の言葉がよく響いたのだなと今となっては思います。

二年生の夏休みに「遠征」と称して一人で旅行に出かけ、ネットで噂になっていた廃病院や廃神社をいくつも巡ってきたと聞かされました。

 

記憶が正しければ、確かその直後だったと思います。私がいつものように登校すると、岡田が興奮気味に話しかけてきたのを覚えています。

岡田によると「やばい写真が撮れた」とのこと。女の霊でも映ってたのかと聞くと、あいにく女じゃないんだよな、と返しました。

まあ見てみろって、もったいぶるどころかすぐにでも見ろと言わんばかりにスマホを取り出すと、私に一枚の写真を見せてきました。

 

「おい、何だこれ?」

「俺にも分からないけど、たぶん仮面被った男だな」

 

荒れ果てた人家に不法侵入したときに撮ったのでしょう。奥の窓から岡田曰く「仮面を被った男」がこちらを見ているという写真でした。

辺りを見て回っている最中にこんな男の姿はなく、またそのあまりにも場違いな風貌から、岡田は仮面の男を幽霊だと考えているようです。

私は興奮する岡田をよそに、被写体としては極めて小さいにもかかわらず、それが仮面を被っていることがはっきり分かることに違和感を覚えていました。

 

さらに岡田は「この一枚だけじゃないぞ」と言い、今度はまた別の日に撮ったという写真を私に見せました。

今度は古いトンネルらしき場所で、先へ進んだ暗い場所から入口にカメラを向けて撮った構図です。岡田は入口の近くを指さします。

そこには先ほど同じだと認識できる仮面の男が、やはり岡田のカメラを見つめるようにして立っていました。

 

「ここにも誰もいなかったのか?」

「俺しかいなかったな。これさ、さっきよりちょっとだけ近くにいるんだぜ」

 

本当に僅かな差ですが、確かに先ほどの廃屋よりも男は大きく写っているように見えました。岡田との距離を詰めてきているとも言えます。

この時点で私は不気味だという気持ちしかありませんでした。生きているにしろ死んでいるにしろ、意図不明の存在が近付いてきているのですから。

しかし岡田はまったく逆で、このまま写真を撮りまくってもっとハッキリ捉えてやる、と鼻息を荒くしていました。

 

「このまま写真撮りまくって、こいつの素顔を見てやるんだ」

 

このようなことがありつつ高校にいる間は岡田と付き合いが続き、その都度仮面の男にまつわる話を聞かされました。

どうやら心霊スポットで写真を撮るたびに近付いてきているようで、最後に聞いた時は最初の五倍以上、仮面の陰影が分かるくらいには鮮明になったと言っていました。

私は「この辺りで止めた方が」と言ったのですが、高校を卒業してからは大学が別で疎遠になってしまい、それ以降のことは分かりませんでした。

 

先日、高校の同窓会がありました。結構な数の同級生が揃い、私は岡田も来ていないかと探したのですが、姿はありませんでした。

主催してくれた同級生によると、岡田にも連絡を取ったものの音信不通。本人はおろか実家も空き家になっており、消息不明とのこと。

私を含む当時岡田と付き合いがあったクラスメートで話をして、あの仮面の男の話を聞かされていたことを確かめ合うと、そのうちの一人がこう言いました。

 

「……岡田さ」

 

「あの写真に写ってたやつの素顔、見たのかな?」