金縛りってあるじゃないですか。経験したという人は多くないかも知れないですが、概念としてはほとんどの人が知ってるんじゃないかと思っています。
金縛りそれ自体も普通ではない異様な感覚でかなりの恐怖を感じるんですが、もし動けない間に何かあったら? と考えると余計に恐ろしくなります。
実は最近、自分がそれに近い出来事を経験してしまったので、自分の中で消化するためにもここで話させてもらえればと思います。
いきなりですが、いわゆる金縛りは私の中である程度「こういう原理で起きているのではないか」という解釈ができあがっています。
実際に何度か経験してその時の感覚や記憶を整理して思ったのですが、単刀直入に言えば金縛りは「現実に極めて近い夢」を見ている状態だと思います。
夜眠る瞬間の風景がスナップショットのように脳に保存されて、夢を見るときにたまたまその記憶が選び出された、そういう形だと考えています。
夢を見ているときの感覚を思い出してほしいのですが、夢の中では思うように動けないということがほとんどだと思います。
夢だと認識している、認識していないのどちらにせよ、自分が考えた通りに動くということはほぼできません。そもそも夢の中で思考すること自体が難しいです。
自分で思考するのではなく、勝手に考えが動いて行って、それを自分の考えだと認識させられる、というのが実態ではないでしょうか?
金縛りは夢を見ているときに起きる「思うように身動きが取れない」という状態が、眠る直前の部屋が現れることで成立している。
つまり厳密には覚醒状態ではなく不安定な睡眠状態にあり、しかし感覚はある程度明瞭で起床中の出来事だと錯覚しているのだと。
これに当てはまらないような金縛りもあるかと思いますが、就寝中に起きる金縛りの多くはこれではないかと考えた次第です。
先に述べた不安定な睡眠状態の時に起きる金縛りのような現象ですが、私はこれを休日に二度寝をしようとしたときにしばしば体感しています。
その時に決まって、金属が軋むような非常に不快な音が聞こえるのです。例えるのが難しいですが、老朽化した自転車のブレーキ音が一番近いかと思います。
厳密には本当に音が鳴っているわけではなく、自分だけその音が「聞こえる」ように感じる現象、いわゆる耳鳴りの一種です。便宜上、ここからは「聞こえる」と書きます。
この金属音が聞こえるとき、私は思うように体を動かせなくなります。意識はあるにもかかわらず手足が動かない、感覚が置き去りにされたように感じるのです。
かろうじて目でモノを見ることはできるのですが、それだけに身体が動かせないことに余計にもどかしさを覚えます。かなり嫌な状態です。
ですが最近になって、この状態になると確実に見えるようになるものが出てきました。
ひょろ長い手足を持つ真っ黒な何かが、私の顔を覗き込んでいるのです。
それはかろうじて人の形をしていますが明らかに人ではなく、現実に存在するどの生物とも合致しない風貌なのに嫌な現実感を伴っています。
身長は部屋の天井に届かんばかりに高く、手は人間でいうところの膝のあたりまでゆうに伸びています。全身が黒く影になっていて、表情などは伺えません。
その未知の存在は金縛り状態の私の右側から姿を現すと、ゆっくりと体を起こして頭を上げ、ベッドで横になる私を覗き込むのです。
覗き込んでから何かするわけではありません。私を覗き込んだところで止まって、それから何をするでもなくずっとそこにいます。
時折首を傾げるような仕草をしますが、表情がわからない……というか存在しないため、これにどのような意図や意味があるのかは分かりません。
黒い影は私が本当に目を覚ますまで一貫してずっとそこにいて、金縛りに遭っている間は決してそこから立ち去ろうとしません。
――以上が、最近私の身に起きている不気味な出来事になります。
就寝中の金縛りはある種の夢であると考えている以上、これもまたただの夢に過ぎないのだとは思っていますが、それにしては気味が悪すぎます。
今のところ実害らしい実害はなく、本当にただ不気味というだけで済んではいますが、当然ながら気分のいいものではありません。
毎回金縛り中に起きることが変わるのならともかく。毎度決まって同じ存在が姿を現すというのは、さすがに夢としてもイレギュラーな気がしています。
どなたか、他にこのような経験をされた、あるいは今もされているという方はいますでしょうか?
できることなら、私だけではなく他の人にも起きる、類似例のある現象だと、少しは安心して眠りに就くことができるのですが……。