もうしばらくすると10年前のことになるのですが、「welq」という大きなウェブサイトがあったのをご存じでしょうか。
ネットの情報をまとめた、ちょっと気取った言い方をすると「キュレーションサイト」と呼ばれるものです。この言葉、最近あまり聞かなくなりましたね。
これは当時、私が偶然見かけた「welq」のサイトに記載されていた奇妙なページにまつわる話です。
そもそもwelqとはどのようなもので、そこで何が起きたのでしょうか。気が付くともう結構前のことなので、そこから話した方がいいと思います。
welqはディーエヌエーが2015年10月に解説した医療と健康の情報を取り扱うサイトで、端的に言うとまとめサイトのようなものです。
主にネットで収集できる公開情報を元に、ライターがそれぞれのテーマに沿った記事を作成するというものです。
このサイトには重大な問題点が複数ありました。多数の無断盗用が見つかったのが最初の発火点ですが、低品質の情報が氾濫していたことがより大きく取り上げられました。
「特定のサプリメントが癌に効く」といった直球で薬事法違反のもの、「紙を使って並行世界へ行く方法」や「肩こりは幽霊の仕業」といったトンデモ話などなど。
しかもこれが検索結果の上位を占めてくるため、正しい医療情報へアクセスすることが困難な状況を作っていました。
こんなサイトが存在を許されるはずもないのですが割と長生きしてしまい、閉鎖されたのは一年後の2016年11月でした。遅すぎると言っていいでしょう。
最終的に当時の取締役が辞任するなどの余波はありましたが、結局のところなぜこんな危険なサイトが作られてしまったのかの責任は不明確なままでした。
いずれまた似たような問題が起きるでしょうし、なんならまだあまり可視化されていないだけでリアルタイムで起きているのかも知れません。
前置きが長くなりましたが、当時私はwelqについてあまり知識がなく、ただの情報サイトとしてぼんやり読んでいました。
何か健康不安があったわけでもなく、むしろパッと見で変なことが書かれていることが多かったので「なんだこれ」と怖いもの見たさだった気がします。
スピ系の記事が医療と健康のサイトに混ざっているのはどういうことだよと突っ込んでいると、あるリンクが目に飛び込んできました。
「プラスチックを食べて健康になろう」
確か「おすすめ記事」に掲載されていたはずです。文言のインパクトが強すぎて思わずクリックしてしまいました。
内容は「プラスチックには食物繊維が含まれる」といった、他とは別次元の支離滅裂さでした。ですが記事は断定的に効果を謳い、積極的に食べるよう勧めてきます。
あまりにも力強い筆致に、思わず「ちょっと食べてみようか」と思うほどで、記事を開いていたタブを閉じてから「何だ今のは」と我に返りました。
もう一度見ようと「プラスチック 食べる」で検索してみましたが、当たり前ですが「有害」と言う記事しか見つかりません。
そして奇妙なことに、普段あれだけ上位に出しゃばってくるwelqの記事にも関わらず、トップに出ないどころかいくら検索結果を掘っても見つかりません。
履歴から辿ってもう一度開き、URLで検索してみましたが「見つかりません」という結果になりました。
さらにその記事にも「関連するおすすめ記事」のリストがあったのですが、そこにはこのようなタイトルが並んでいました。
「風邪には生のチューリップがおすすめ!」
「高所から飛び降りて足腰を鍛えよう」
「今すぐ行ってみたい! 自殺の名所十選」
「おいで」
記事を見てみるとどれもライターの名前はなく、さらに体裁も他より粗雑だったり、日本語として意味が通らない箇所が多数ありました。
明らかに何かの意図を感じました。それはライターの「楽に記事を書きたい」というものでも、運営者の「アクセス数を稼ぎたい」というものでもありません。
そうではない、人為的に作られた多数の誤情報に身を隠せば、人を死に至らしめることができると理解している「何か」が裏にいるようでした。
私は記事のURLとスクリーンショットをwelqの問い合わせ窓口へ送り、すぐに削除するように連絡しました。
期待していなかったのですがwelqから返信があり「これらの記事は編集部で承認していないが、掲載は確認できた」とのことでした。
記事へのアクセスは遮断されましたが、私が見つけたものが「記事のふりをした何か」のすべてとは到底思えませんでした。
最終的にサイトごと消滅したわけですが、私としてはこれ以外に、あのような奇怪な記事もどきを抑え込む方法は思い浮かびませんでした。
あの時はwelqに出没、あるいは寄生していたように見えましたが、本当にwelqと共にすべて消えたのでしょうか?
また、どこかで顕在化する日が来るのではないでしょうか?