昔の人は写真を「魂が抜かれる」と言って嫌がっていた……という話を、小学生か中学生の時に聞いた覚えがあります。
当時はただの迷信だと笑っていたのですが、最近になって奇妙な出来事が立て続けに起こったことで、くだらない笑い話とは思えなくなりました。
別に私や知り合いの魂が抜かれたわけではないのですが、写真が持つかも知れない霊的な何かを実感した出来事について話させてください。
私は一人旅が趣味で、仕事の合間を縫って休みを取り、ひとりで日本各地に出かけて旅行を楽しんでいます。
いわゆる観光名所を巡ることもありますが、どちらかというとあまり外から人が来ないような場所の街並みを眺めながら散歩するのが好きです。
自分ひとりならどんなルートを辿っても自由ですし、気分で急に行き先を変えることもできます。すべて自分で決められるのが醍醐味だと思っています。
私と同じような趣味を持つ友人が複数いて、彼らとはSNSなどでゆるくつながった状態を結構長く続けています。
複数人で一緒に旅行へ行ったりするというわけではなく、あくまで一人旅で見たものや聞いたことを共有しあって楽しむ感じです。
旅先で撮影した写真もしばしば見せ合っていて、良さそうな場所を教えてもらって今度自分でも行ってみる……ということがしばしばありました。
ところがそうして自分たちの間で共有していた旅行写真の中に、なんとも奇妙なものが複数枚混ざっていました。
まったく見覚えのない、恐らく三十代半ばくらいの細身で少し陰気な感じがする男性がひとり写っている、というものです。
撮影したときは確かに誰もおらず、街や自然の風景だけを捉えたにもかかわらず、です。
それは誰か一人の写真にだけ現れるというものではなく、複数人の写真に出現しました。撮影時期もバラバラで一定しません。
顔や背格好はそのままに、服装だけは場所や季節に合わせたものに変化しています。いずれも特徴がなく、もし見かけても印象に残らない感じです。
この男を見かけるようになってから写真を撮るときはかなり注意するようにしていますが、それ以降も男は不定期に写真に現れています。
誰かこの写真に写る男に見覚えはないか訊ねてみましたが、誰一人として思い当たる人物はいません。
私たちはそもそも出身や年齢もバラバラで、一人旅をして旅先で写真を撮って楽しんでいること以外の共通点はまったくありません。
にもかかわらず、ほとんどの人の写真に一度はあの特徴のない男が写っていました。いずれも直立不動の無表情で、なんとも不気味です。
もうひとつ奇妙な点として、この男には「旅先で撮影した写真にしか写らない」という特徴がありました。
試しに近所でカメラを使って大量の写真を撮影し、男が入り込めそうなアングルも多数交えてみましたが、男が写ることはありませんでした。
二度三度と繰り返してまったく成果が得られなかったため、私たちの中では旅行先でのみ撮影される、ということで結論が出ています。
男はただ写真に写り込むだけで、他に何もしてきません。いつも少し遠めの場所に立って、カメラを無表情で見つめるだけです。
だんだん近付いてくるとか、血まみれだとか、そういう恐怖を催す何かもなく、ただ位置的に不自然でない位置に立って写真に写るだけなのです。
旅行に行くと毎回、というわけでもなく、どちらかというと忘れかけた時に一枚だけ写り込むくらいの頻度で出現していました。
この間検索で更新が途絶えて十年以上経つ古い個人サイトを見つけて、そこで旅行写真がアップされたページがありました。
何気なく見てみると、例の男の写った写真が一枚混ざっていました。いつものように無表情で、周囲に溶け込む特徴のない服を着ています。
後から写真だけが書き換えられたわけでもない限り、かなり昔から写真の男は存在しているらしいです。
ただ写真に写るだけなので害もなく、ただ不気味というだけで済んでいますが、それにしても一体どういう目的があるのでしょうか?
私たちについて来て旅行でもしているのか、それともいろんな旅先にただ写真に写るだけの得体の知れない何かがいるのか。
……いずれにせよ、撮った写真を整理するときに感じる居心地の悪さは、この先も変わらなさそうです。