ふと思い出したことがあり、一度浮かんでしまうとあまりにも奇妙な出来事だと気付いたので言わせてください。
偶然で片付けるには確率があまりにも低く、かと言って何かはっきりした理由が思い浮かぶわけでもありません。ただ不気味なんです。
他にもこういう経験をされた方がいたら教えてほしいです。現実的に起こり得るものなのか、それとも異常な出来事なのか、それが知りたいです。
最初に耳にしたのは大学生の頃でした。暑い日にどこかで涼みたくなって、通りがかりに見つけた古い喫茶店へ入りました。
エアコンが効いていて助かったのをよく覚えています。店員さんにアイスコーヒーを注文して、ひとまずハンカチで汗を拭っていました。
喫茶店には二人の大学生が先にいて、すぐ近くに座っていたので話している声がよく聞こえてきました。
「この間友達の斎藤に会ったんだ。そうしたらそいつが金を貸してくれって言ってきてさ」
「へえ。会うなりいきなり金貸してくれって、またずいぶん失礼っていうか怖いもの知らずだな」
「パチスロで大負けしたんだってさ。ロクなことに使わねえなって言って断ったよ」
ありきたりな、これといって中身のない会話でした。まるで気にも留めなかった記憶があります。
話している二人は見たことのない顔で、正直なところ特徴もよく覚えていません。話していたことは思い出せるのに、顔は出て来ないんです。
しばらくするとアイスコーヒーが運ばれてきて、私はそれを飲んで喉を潤すことに夢中で、それきり話を聞くことはしませんでした。
別段気に留めるようなこともなく、私はこの日の出来事を翌日にはもうすっかり忘れてしまっていました。
この出来事が意味を持ち始めたのは、それから確か五年ほどが経った時でした。会社で外回りをした際、見つけたドトールで時間をつぶしていた時でした。
少し遠くにいる男子大学生二人が、以下のような会話を交わしていたのです。
「この間友達の斎藤に会ったんだ。そうしたらそいつが金を貸してくれって言ってきてさ」
「へえ。会うなりいきなり金貸してくれって、またずいぶん失礼っていうか怖いもの知らずだな」
「パチスロで大負けしたんだってさ。ロクなことに使わねえなって言って断ったよ」
私はどこか妙な気持ちになっていました。他愛のないただの会話のはずなのに、なぜか引っかかるものを感じる。
ぬるくなり始めたブラックコーヒーを少しずつ飲みながら考えていると、私は唐突に思い出したのです。
それが、以前喫茶店で聞いたものと完全に同じ内容だったことを。
声色もイントネーションも、そして内容も完全に同じ。慌てて声のした方を見ると、大学生二人は既に退店していなくなっていました。
かつて喫茶店で見かけたのと同一人物だったのかは分かりませんが、五年も経過していてまだ大学生というのは無いので恐らく別人でしょう。
この時はまだ「ありきたりな会話だし、内容が一致することだってある」と自分に言い聞かせることができていました。
さらにそれか七年ほどが経ち、今度こそ大学生たちの会話のことなど綺麗さっぱり忘れていた時の事でした。
住んでいる場所から遠く離れた旅行先にあった小さな蕎麦屋に入りました。そこの茶そばがおいしいと事前に聞いていたからです。
注文して席で待っていると、やや遠くに地元の大学生らしい男性二人が座っていました。そして、こんな会話を交わしていたのです。
「この間友達の斎藤に会ったんだ。そうしたらそいつが金を貸してくれって言ってきてさ」
「へえ。会うなりいきなり金貸してくれって、またずいぶん失礼っていうか怖いもの知らずだな」
「パチスロで大負けしたんだってさ。ロクなことに使わねえなって言って断ったよ」
私は今度こそ震えあがりました。忘れていたはずの会話を一瞬で思い出して、何一つ変化が無いことにもただちに気が付いたのです。
運ばれてきた茶そばをなんとか食べたのですが、味はまったく覚えていません。味わう余裕もありませんでした。
食事を済ませるとすぐにお金を払って、逃げるようにしてその場を後にしました。
あれは、一体何だったのでしょうか? 何もかもが同じ会話を全く別の場所で三度も聞くことになるというのは、どういうことなのでしょうか。
……どなたか、似た経験をされた方はいないでしょうか?