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夏の洗濯物

今も住んでいるマンションでの話です。単純に怖い気持ちと、どうにも納得がいかないという二つの感情を抱く出来事がありました。

自分ではうまく原理や理由を説明できず、ただ不思議なことが起きた、としか言いようがないのがなんとなく居心地が悪いのです。

不気味な幽霊も恐ろしい怪物もまったく出てきませんが、短い奇妙な話として聞いていただければ幸いです。

 

私はよく洗濯をします。二日に一度は洗濯機を回して、天気がいい日は外で干すようにしています。部屋干しはあまりしたくない派なんです。

独り暮らしなので洗濯物の量も少なく、大抵は一時間ほどで干すところまで終わります。どちらかというと畳む方が面倒だと感じます。

洗濯物を干して出かけることもしばしばあり、帰り道で自分の部屋に洗濯物が干してあって「まだ取り込んでなかった」と気付くこともしばしばありました。

 

で、その日も洗濯機を回して外に干したんです。夏のかなり暑い日でした。日光は苦手ですが、洗濯物を干す分にはよく乾くので助かります。

いつものようにすべて外へ出して、私は友人と行く予定の旅行のために荷造りを始めました。一泊二日の小旅行です。

着替えや身だしなみ用品、その他必要なものをキャリーケースへ詰めたあと、ゴミ出しと買い物をかねて外へ出かけました。

 

一時間ほどして家へ戻ってきたのですが、私はその時外に洗濯物を干していたことをすっかり忘れてしまっていました。

そのままクーラーを効かせた家で過ごし、普段通りに夕飯と入浴を済ませ、翌日は旅行で早く出発するからと早々に寝てしまいました。

結局そのまま洗濯物は取り込まれることなく外へ干されたまま、私は翌朝キャリーケースを持って集合場所である最寄りの駅まで向かいました。

 

二日間、日常のことを何もかも忘れて友人と共に旅行を楽しんで、私はお土産を持って家まで帰ってきました。

もちろん外に干しっぱなしにしている洗濯物のこともすっかり忘れていて、家に入ってからハンガーが少ないのを見てようやく思い出したほどです。

うっかりしていたな……という気持ちになったものの、乾いた状態で放置していただけだし取り込めばいいだろう、とベランダに出てみました。

 

「……乾いてない?」

 

洗濯物は――乾いていませんでした。洗濯機から出した直後のように湿っていて、干したばかりのような状態になっていました。

意味が分からなくなって目を白黒させつつ、とりあえずそのまま干しているのも不気味だったので取り込んでおきます。

外はむせ返るような熱気に包まれていたにもかかわらず、私は背中に冷たいものが走るのを抑えられませんでした。

 

ひとまず洗濯物は普段ほとんど使っていない浴室乾燥で乾かすとして、なぜ乾いていなかったのかについて考えてみました。

こっちで雨が降ったのかと思いましたが、昨日と今日の天気はどちらも降水確率ゼロパーセントの快晴。気温も熱中症注意報が出るほど高かったです。

そもそも上の階のベランダが迫り出して屋根になっていますから、ちょっと雨が降ったくらいで洗濯物が濡れることは考えられません。

 

では、その上の階から水が漏れたりしたのではないかとも思ったのですが、床が濡れた形跡はまったく無かったです。

上の人が植物を育てているということもなく、そうなるとエアコンの室外機から出ている分くらいしかないと思い、その線もすぐになくなりました。

マンションの五階に住んでいるので、誰かが外から水を撒いて悪戯した……ということもあり得ません。

 

他にそれらしい理由も思いつかず、結局出しっぱなしにしていた洗濯物が乾いていなかった理由は分からずじまいでした。

浴室乾燥にかけた衣類は一時間ほどであっさり乾いたので、そっちに何か異変が起きたわけでもなさそうです。

以来、外に洗濯物を干すときはその日のうちに取り込むことを心掛けていて、今のところ同じ現象が起きたことはありません。

 

皆さま、このような出来事に見舞われたことはありますでしょうか?