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横断歩道の供え物

いわゆる心霊現象なのか人が怖い類の話なのか詳細はつかめていませんが、私の身近で起きていることの話をします。

住んでいる地域特有のものではないと思います。これ以外に同じ事例を知りませんし、昔から住んでいる人も同じように言っているので。

これと似た話を聞いたことがある、見たことがあるという方は教えていただければ幸いです。

 

私は東京の下町でアパートを借りて独り暮らしをしています。上京してきてからそれなりに経ち、地域にも馴染んでいる自覚があります。

アパートは国道へとつながる車道に面しており、それなりに車の往来もあります。見通しはよく事故が起きたという話は聞きません。

隣人の方とはせいぜいあいさつをする程度ですが、お互い顔はちゃんと知っている……程度の間柄です。

 

そんな地域に住んでいるのですが、去年の秋頃から奇妙なことが起き始めました。アパートの目の前にある横断歩道にお供え物がされているのです。

缶やペットボトルに入った飲み物とスナック菓子、そして菊や彼岸花といったよくお墓に供えられる花が置かれています。

電柱の側に置かれて通行の邪魔にならないようにしつつ、通りがかる際には必ず目に付く位置にありました。

 

最初は……ごく普通に、という言い方も奇妙ですが、その横断歩道で事故が起きたのだろうと思っていました。

お供え物がされているということは亡くなった方がいるのだろうと考え、すぐ近くだったこともあり少し胸が痛みました。

車が通っていない時は赤信号でも無視して渡っていたのが、しばらくは信号をちゃんと見て渡るくらいには影響がありました。

 

ただ、横断歩道近くにお供え物がされるようになってから一か月ほどが経ったある時、ふと疑問が浮かんできました。

その道はほぼ毎日朝と夜に通過しているのですが、人が死ぬほどの交通事故が起きた形跡が特に見当たらないのです。

何かがぶつかった痕跡もありませんし、事故現場を保全するために人が立っているというようなことも一度もありませんでした。

 

死亡事故なのだからどこかで報じられているのでは、そう思ってニュースサイトで地名などをキーワードに検索してみましたが、何も出てきません。

区内の開店・閉店情報や事故情報などを掲載しているサイトでも調べましたが、やはりそれらしい事故について言及している記事はありません。

言い方はさておき、もっと規模の小さな交通事故もそれなりの頻度で取り上げられていたので、載っていてもいいのではと思ってしまいました。

 

先日ゴミ出しをした際、隣に住んでいる方とたまたま顔を合わせる機会がありました。そこでお供え物の件について軽く聞いてみたんです。

お隣さんも花や飲み物が供えられていることは知っており事故が起きたとは思っていたようですが、具体的にどんな事故かは存じないようでした。

要は私と同じで「知らない間に人が死ぬ事故が起きたのだろう」と考えていた……そういうことになります。

 

昨日会社へ行く途中に見た時にも、真新しい花と未開封のペットボトル入りのお茶、そしてプリッツのようなスナック菓子が置かれていました。

不定期にすべて新しい物へと入れ替えられているようですが、そう言えば供えに来る人も回収しに来る人も見たことがありません。

私が見ていない間にお供えされて、同じく私が見ていない間にどこかへ持っていかれているようです。

 

疑うのも失礼なのかもしれませんが……本当に、あの場所で誰かがなくなる事故が起きたのでしょうか?

あの途切れることのないお供え物の数々は、誰が、何のために、誰に向けて置いているものなのでしょうか?