今から三年ほど前の話になります。怖い話というか不思議な体験みたいな枠に入りそうなのですが、不可解な出来事がありました。
安易に心霊スポットへ行ってはならないということと、こういう心霊めいた話に決まった形はないという二つの知見を得た事象でもあります。
ひとまず、お話を聞いていただければと思います。
当時近くに住んでいた友人と共に遊んでいたのですが、夜になって友人が「ちょっと行った先に心霊スポットがあるんだ」と言い出したんです。
冷静になって振り返ってみるとなんとも馬鹿らしいのですが、私は「行ってみよう」と乗り気になってしまいました。半分寝ぼけていた可能性もあります。
友人が車を出して私が助手席に乗ります。お酒が入っていないのにあんなにテンションが高かったのも、今思うと正直不気味ではあります。
友人が車を運転すること一時間ほど。今は使われていないように見えるトンネルの前までやってきました。いかにも……といった具合です。
車から降りて、道中コンビニで買った頼りない懐中電灯で辺りを照らしてみますが、光が弱すぎて却って暗さが強調されるばかり。
暗ければどんな場所も不気味に見えるもので、私たちは「怖い」「なんか出そう」などと無責任にはしゃいでいました。
ですが別段驚くような不思議現象が都合よく起きるわけでもなく、二十分もすると「そろそろ帰るか」という空気が流れ始めました。まあ当然です。
帰りは私が運転することになっていたので私は助手席に乗り、さっさと家に帰って寝ようぜ、などと言っていた記憶があります。
私が車を出すと、廃トンネルからすぐに遠ざかっていきました。そのまま元来た道を戻れば家まで帰れる……はずでした。
ところがどういうわけか、私たちは道に迷ってしまいました。来た時と同じ道を逆方向に走っただけにもかかわらずです。
まっすぐ進んでいるにもかかわらず同じ交差点に出くわしたり、途中で不自然な行き止まりにぶつかったりと、なかなか表通りに出られません。
やみくもに走っているととうとうトンネルの前まで戻ってきてしまい、友人ともども愕然としてしまいました。
それでも元の道へ帰ろうと再び車を発進させて、わざと交差点を曲がってみたり見知らぬ道へ入ってみたりもしました。
当然状況は悪化するばかりで、いよいよひとつの電灯もない真っ暗な道へ入り込んでしまいました。ヘッドライトが唯一の光源です。
(遊び半分で心霊スポットになんて来なきゃよかった……)
後悔しながら途方に暮れていた時のことでした。
「目的地が設定されました。案内を開始します」
いきなりカーナビから声が聞こえてきました。私も友人も飛び上がらんばかりに驚いて、思わず画面を見つめます。
画面には道路が一切映っていないほぼ真っ白な画面に、幾度も方向転換をしてジグザグになった「目的地」への経路が表示されています。
私も友人も一切操作していないどころか存在すら忘れていたため、何が起きたのかと戸惑うばかりでした。
怪談では、こういうときのカーナビは私たちをさらにまずい状況へ導こうと悪意を持って誘導してくるものだという意識がありました。
実際、友人はそう信じ込んでいて「これ従っちゃダメなヤツだろ」と繰り返すのですが、さりとて他に行くべき道も見当たりません。
ハンドルを握っている私は正直半分やけになって「一度言われたとおりにしてみよう」と友人を説き伏せ、カーナビの指示に従いました。
最初は暗い道を右へ曲がったり左へ曲がったりで、どこへ向かっているのかまったく分かりませんでした。
街の灯りが見えてくることもありませんし、なんならもっと山の奥へと誘い込まれているような気さえします。
ああ、やっぱりこいつは俺たちをどこかまずいところに連れていこうとしてるんじゃないか。そう思っていたのですが。
走り始めて30分ほどすると、いつの間にか大通りに出てきていました。あちこちに街灯があり、車の往来も盛んです。
そのまま家まで運転していって、私と友人は無事に家へ帰ることができました。
「目的地に到着しました。お疲れさまでした」
あの時道に迷ったのは、何かおかしな現象に巻き込まれていたのだと思っています。単純に暗いために迷ったのとは明らかに違ったからです。
こうした異常な現象が起きている時、霊的存在がカーナビを介して私たちをさらにまずい状況へ追い込んでくるという話をしばしば聞きます。
しかし、友人の車に搭載されていたカーナビはまったく逆で、元の場所へ戻るために正確な案内をしてくれたのです。
ヘンな言い方ですが、こういう「人間思い」の個体もあるのだな……と、少し感慨深くなった一件でした。