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「おまえ」

いわゆる心霊写真、というわけではないのですが、写真に絡んで一度ゾッとする体験をしたことがあります。

もし、同じことが起きたという方がいましたら教えていただきたいです。考えづらいですが、機器の不具合という可能性もありますので。

まずはいったい何が起きたのか、それについてお話させてください。

 

私は長らくiPhoneを使っていて、これといった不満もないので何年かに一度その時の新しいモデルに機種変更することを繰り返しています。

iPhoneには撮影した写真を自動的に分類してスライドショーを作ってくれる「メモリー」という機能があります。

私は結構頻繁に写真撮影をするので、時折この機能を使って「こんな写真も撮ったな」と振り返ったりしています。

 

かつて実家で飼っていたネコの写真、旅先で食べたものの写真、家族旅行の写真などが多いので、それらがよく登場します。

iPhoneによる写真の分類はかなり正確で、例えばネコのスライドショーに料理の写真が誤って混ざるようなことはまったくありません。

それゆえに、あの時起きたことが余計に不可解でならないのですが……。

 

半年ほど前の昼過ぎです。朝から家事に精を出して全部終わらせたところで、かなり強い眠気を覚えて横になっていました。

昼寝すればいいのですがなんとなくその気になれなくて、iPhoneで動画を観たりしてだらだらと過ごしていたのを覚えています。

眠気はあったのですが当時の記憶は明瞭で、後からみるとネットの履歴も残っていたので現実に起きたことだと思っています。

 

ふと写真を見ようと思い、いつものようにアプリを起動して「メモリー」のセクションを探します。

日付ごとの写真、「美味しい食事」「ポートレート」「ペットのお友達」など、見慣れた分類がずらりと並んでいます。

どれを見ようかと画面をスクロールして探していた、その時でした。

 

「おまえ」

 

こんなぶっきらぼうなタイトルのグループがいきなり出てきて、眠気がいっぺんに吹き飛びました。

確かに「おまえ」と書かれていました。トップには私が自撮りしたときの写真が出てきていて、どうやら自分の写真のグループのようです。

なんだこれ……そう思いつつも、自然に指先が伸びてタップしていました。

 

先に見かけたグループの名前も異常でしたが、スライドショーで出てくる写真はもっと異常でした。

自分が寝ているときの姿、台所に立って炊事をしているときの様子、暗い帰り道を歩いているときの後姿、会社で仕事をしている風景……。

確かに私の写真ですが、自分一人ではかなり手間をかけないと撮影できない角度のものばかりでした。

 

わざわざ言うまでもないかもしれませんが、自分でこのような写真を撮影した記憶はまったくありません。

それぞれの風景は正確なもので、後付けの合成写真や生成された写真っぽさはありません。そもそもiPhoneにそんな機能があるとは聞いたこともないです。

しかしその時、確かに私の姿が撮影された写真が表示されて、スライドショーで流れて行ったのです。

 

それを見て冷静でいられるわけもなく、私はあわててアプリを終了させてiPhoneの電源を切りました。

自分が目にしたものが信じられなかったのだと思います。夢か何か、あるいはソフトの不具合か何かだと思いたかった、それをよく覚えています。

しばらくの間何が何だかという感じで混乱していたのですが、ここで急に眠気がピークに達して意識を失うように眠りました。

 

一時間ほど眠った後目が覚めて、手癖でiPhoneの画面をタッチしますが、いつもと違って画面が暗いままです。

電源を切ったこと、そしてその直前に自分の写真を見たことを思い出して背筋が冷たくなりますが、いつまでもそうしているわけにもいかず電源を入れます。

直前まで起動していたアプリの中に写真アプリもあり、恐る恐る中を覗いてみます。

 

しかし、メモリーに「おまえ」という表題のものは見つかりませんでした。上から下まですべて見ましたが出てきません。

ライブラリを見ても、あの時見た自分自身を何者かが撮影したような写真は一枚もありません。すべて自分で撮った覚えのある写真でした。

ひとまず安心しましたが、あの時見たものは何だったのかは分からないまま終わることになりました。

 

あれ以来、なんとなくスマホで写真を撮影するのも、撮影した写真を見返すことも敬遠するようになってしまいました。

あの出来事が起こる前後でとても強い眠気を覚えていたので、きっと夢を見たのか寝ぼけたのだと思います。現実に起きたことではないと考えています。

……私としては、ぜひともそうであってほしい。そう思わずにはいられません。