いわゆる怪談とか洒落怖みたいな怖い話って、大きく分けると二種類になると思うんです。幽霊や怪奇現象が怖いという話と、人が怖いという話です。
もうかなり昔のことになりますが、私もそれなりに怖いと思える経験をしたことがあります。
ただ、これが心霊的な怖さなのか人間的な怖さなのか、判別がつかないんです。聞いたうえで、皆さんに判断してもらえればと思います。
地元の高校に通っていた頃の話です。その学校は地域では進学校に入るといわれていて、校内は落ち着いている部類だったと思います。
先生方も教えるのが上手いというか、授業を受けていて何か妨げになるようなことは一度もありませんでした。
今でも時折同窓会が開かれ、当時の同級生や先生方と顔を合わせる機会もあります。それで、決まって話題にのぼるのが「足跡」の話です。
一年生の三学期でした。私はいつもぎりぎり遅刻しない程度に来ていたので気付かなかったのですが、朝一に登校した生徒があるものを見つけました。
それは泥で形作られた足跡でした。三階へ向かう階段の踊り場から突然現れ、一年三組の教室へと向かっていました。
足跡はかなりクッキリと残っていたそうです。靴のサイズから男性で、高校生から成人のもののように見えた、と友達が話していました。
謎の足跡は廊下を歩いて教室へ入り、そのまま教室の中をぐるりと一周、反対側の扉を出たところで消えていました。
教室は施錠されていましたし、カギは職員室にきちんと保管されていました。窓も同じくすべてロックされていたそうです。
廊下の窓がひとつだけ開いていたそうですが、その辺りに足跡は一切見つからなかったので、侵入口ではないだろうと結論付けられました。
この足跡事件が一度だけならまだしも、二週間の一度くらいのペースで起きたので、校内は騒然としました。
何者かが夜中に学校へ入り込んでいるのかも知れない。学校は事態を重く見て警備員の数を増やし、全校生徒にも状況を詳しく説明しました。
私としては、学校が足跡について隠すのではなくちゃんと生徒に周知した上で打てる対策を打とうとしていたので、却って安心した覚えがあります。
しかし警備員の増員後も不審者は見つからず、夜中は一切の異常がないのに朝になるとどこかに足跡が見つかる、という事象が続きました。
ある時は一階の廊下全体におびただしい数の足跡が見つかり、一時立ち入りが制限される事態になりました。
先生方も困っていたようで、生徒たちに「何か知っていたら教えてほしい」と情報提供を呼びかけていました。
この足跡事件の不可解なところは、侵入経路が分からないこと、足跡が残る以外に何もおかしなことがおきていないこと、この二点でした。
備品を盗まれたりだとか、設備が壊されたりといったことは一切ありませんでした。ただ誰かが侵入したらしい足跡が残るだけなんです。
目的の不明さが余計に不気味に感じられて、知り合いの中には学校を休んでしまった子もいました。まあ、これは単に休む口実だったのかも知れませんが……。
私が三年生に上がってしばらくした頃、ずっと続いていた謎の足跡事件は唐突に収束を迎えました。
最後に見つかった足跡は、最初と同じで三階にいきなり出現し、そのまま屋上へと向かっていくというものでした。
屋上でも変わらず足跡は続いていて、辺りをぐるぐるとまるで逡巡するかのように何週もした後、最後に向かった先はフェンスの方で。
そこで、まるで飛び降りでもしたかのように、足跡は完全に途絶えていました。
以後、校内で不審な足跡が見つかることはありませんでした。その後もしばらくは警戒が続いたそうですが、半年後には元の体制に戻ったそうです。
今となっては何が何だかまったく分かりませんが、ひとまず事態が収束したことだけは確かです。
当時の同級生や先生方とこの件について折に触れて話すのですが、すべての事象に納得のいく結論は出せていません。
心霊的なものでも怖いですし、ただ足跡を付けるためだけに誰かが侵入していたとしても恐ろしいです。
結局あれはなんだったのか。何ひとつ分からないまま、今日に至っています。