怖い夢。それ自体は誰しもが見るものですし、私自身も思い出したくないような内容の夢を見た覚えがあります。
そこに何か意味を見出すのは不毛だと感じていて、悪い夢を見たから良くない出来事が起こる、などは迷信の類だと思っています。
ただ……そういうのは少し違う「怖い夢」について知っていて、それについて話させていただきたいです。
十年ほど前、まだSkypeが使われていた頃でした。今で言うところのLINEのような使い方をしていて、よく通話をしていました。
通話の内容は他愛ない雑談がほとんどで、しかしそれが確かに毎日の楽しみだったと記憶しています。
コンタクトリストの中に大学の同期がいて、今でも三年に一度くらい近況報告のために会っています。その人から聞いた話です。
その人曰く、通話する一週間くらい前に「真っ暗な中を走る電車に乗る夢」を見たというのです。
夢は嫌に現実感があり、しかも夢だと理解してもなかなか目を覚まさなかったのでとても良く覚えていたとのこと。
窓の外は暗幕を垂らしたかのような漆黒の闇が広がっていて、電車がどこへ向かっているのかまったく分からなかったそうです。
聞いていて確かに「怖そうな夢だな」とは思いましたが、正直その場は「そんなのあるんだ」くらいで済ませてしまいました。
知り合いも「怖かった」としか言っておらず、そこに不吉な予兆を感じたといった風ではなかったです。
他の人からこの夢につながりそうな話をされたような記憶もなく、本当にただ「単発の怖い夢を見た」程度の話でした。その時は。
結構間が空いて、三ヶ月ほどしてからのことです。先の知り合いとは一切の接点がない、別の友人と通話していた時でした。
その友人が「怖い夢を見た」と言い出して、その内容が「真っ暗な中を走る電車に乗る夢」だった……と言うのです。
話を聞きながら、「これってこの間知り合いが言ってた夢とまったく同じだ」と気付きました。
怖い夢の話を聞き終えてから、私は友人に「どこかで似たような話を聞いたりしてないか」と訊ねました。
どこかで聞いた話が頭の中に残っていて、それが夢として出てきたのではないかと思ったからです。
しかし友人は「まったく身に覚えがない」とキッパリ。周囲で同じような夢を見たなどと話していた人もいないとのことでした。
内容がずいぶん似通っているなと思いつつ、電車に乗る夢なら見てもおかしくはないか、などと思っていたのですが。
あるとき実家にいる母に電話をかけた際、母から「一昨日に不気味な夢を見た」という話を切り出されました。
なんだかこの流れは覚えがあるな……そう思いつつ、ひとまず母の話を聞いてみることにしました。
母が見たのは――「真っ暗な中を走る電車に乗る夢」、だったそうです。
大前提として、母は大学の同期ともツイッターの友人とも一切つながりはありません。当たり前ですが念のため書いておきます。
当然、その二人と交わした通話について話したりもしていません。母から訊いてくるようなこともなかったです。
なので、同期や友人から夢の話を聞いて……という流れではないことは確かです。そこに影響された線はありません。
とは言え、さすがにこんなことが続くと不気味さを覚えてきます。何か原因があるのではないかと思い始めました。
三人が偶然どこかで、それこそネットなどで怖い話を見たことで夢として現れたのではないか、そう思って調べてみました。
しばらく「怖い話、夢」や「電車に乗る夢、怖い」などのキーワードで検索をしまくった記憶があります。
電車に乗る夢にまつわる話でよく名前が挙がったのが「猿夢」というものでした。かなり古いネットの書き込みが起源の都市伝説です。
これかな? と思ったのですが、よく読んでみるとどうもニュアンスが違う感じがしました。
同乗している乗客が恐ろしい目に遭う下りが怖さの肝なのですが、三人の夢には他に誰もいなかったそうです。物理的に恐ろしい目にも遭っていません。
今回この話をしたのは、かなり間が空いてつい先日、会社の同僚からもまったく同じ「真っ暗な中を走る電車に乗る夢」の話をされたからです。
言うまでもなく、大学の知り合いともネットの友人とも母親とも関係は一切ありません。これでついに四人目になりました。
同僚も似た怖い話や同じ夢を見た話などを聞いた覚えはまったくなく、いきなり暗闇を走る電車の夢を見たそうです。
ここまで来ると正直に言ってかなり不気味で、四人が見た夢には何か意味があるのではとどうしても考えてしまいます。
夢そのものも怖いのですが……これだけ話を聞かされていながら、私自身まったくその夢を見る気配がないというのも、それはそれで気味が悪いです。