子供の頃は何の疑問も抱かずにしていたことや行っていた場所について、後から振り返ってみると不気味だった、ということはないでしょうか。
私はあります。今も何かがおかしいと思っていて、折に触れてあの時自分がどこへいたのかを考えてしまいます。
他にどなたか似た経験をされた方がいることを信じて、かつての私が頻繁に訪れていた謎の場所についてお話しさせていただきます。
今からもう三十年近く前、小学四年生頃の話です。当時私は五人くらいの友人グループとつるんでいて、ひとりとは今も付き合いがあります。
たまに外で遊ぶこともありましたが、たいていはある家に集まってテレビゲームで遊んでいました。
それは五人のうちの誰かの家というわけではなく、「増田くん」という別の友人の家でした。
増田くんは確かに友人だったのですが、不思議なことに学校で顔を合わせた記憶は一切ありません。そもそもどのクラスにもいなかったはずです。
それでいて、五月ごろになると誰ともなく「増田の家へ行こう」と言い出して、それに対して誰も疑問を挟みませんでした。
これについて最初に誰が言い出したのかは分かりません、覚えていません。なんなら……私が言い出した可能性もあります。
彼の家は住宅街の奥の方にあったはずです。なぜこんな言い方をするのかというと、毎回なぜか決まった道のりで進んでいたからです。
三つ目の曲がり角を左へ、階段を上った先の公園を抜けて右へ……と、行き方も変わっていました。あれ以外の経路で向かった記憶がありません。
住宅街と言ってもそれほど多くの家があるわけでもなく、にもかかわらず道路に面した入口から少なくとも三十分ほどは歩かないと辿り着けなかったはずです。
家そのものはかなり広い日本家屋のような作りで、五人で押しかけても余裕をもってくつろげるくらいの大きさがありました。
いつ行っても親も兄弟もおらず、増田くんは独りきりだったのを覚えています。家族の写った写真なども特に見なかったです。
自分の親についての話も普通にして、聞き手の増田くんも何も気にしている様子がなかったので、両親を早くに亡くしたとかそういうわけでもなさそうでした。
自分たちでおやつに食べるお菓子を持ち込むこともありましたが、増田くんが家にあるものを出してくれることもしばしばありました。
彼が持ってくるお菓子はどれも少し変わっていて、パッケージには製品の写真が貼られているだけで一切の文字が書かれていませんでした。
お菓子そのものもぶどう味のグミの入ったチョコやすき焼き風味のポテトチップスなど、少し変わったものが多かったです。
ゲームで遊ぶことが多いと先ほど話した通り、増田くんの家にはゲーム機がありました。「エルドラード」という機種だと教えてもらいました。
内容はスーパーマリオのような横スクロールアクションや、グラディウスのようなシューティングゲームだった記憶があります。
どれも面白かったので私も両親に買ってもらおうと考えたのですが、どこを探してもそんなゲーム機は売っておらず、結局入手できないままでした。
増田くんとは六年生の終わりごろまで頻繁に遊んでいたのですが、中学へ上がった途端に疎遠になってしまいました。
疎遠になったというより、まったく家へ遊びに行かなくなってしまったという方が正しいです。なんなら存在を忘れていたまであります。
今思うとかなり不自然なことで、なぜ急にここまで関係が切れてしまったのかと不思議に思います。
さらに時間が進んで高校生になった頃、今も付き合いのある当時の友人のひとりと再会し、その中で増田くんの話題が上がりました。
話しているうちに当時の記憶がよみがえり、彼に会えるかは別として家を見に行ってみようという話になりました。
住宅街は開発が進んで少し構造が変わっていましたが、当時の道順を辿れば行けるはず……そう思っていました。
ところが、その途中で行き詰ってしまいました。当時十字路になっていて左側へ進めたはずの場所に、古い家が建っていて行けなくなっていたのです。
道が封鎖されたとかではなく、むしろ最初からそこに道なんて存在しなかったと言わんばかりの光景でした。
友人とともに近隣をしばらく探索してみましたが、増田くんの家へつながる道を見つけることはとうとうできませんでした。
私と友人の記憶は完全に一致しているので、私が夢で見ただけ……というわけではないのは分かっています。
ただ、増田くんの家がどこにあったのかは今も分かりません。グーグルマップで調べてみても、ありそうな場所にそれらしい大きな家は見当たりません。
……あの時遊びに行っていた家はどこにあって、増田くんとは何者だったのでしょうか?