いわゆる怖い話ではなく奇妙な話なので、あまり身構えずに聞いてもらえればと思います。
ただ私の中で腑に落ちる説明ができず、意味が分からないだけの話です。幽霊もヤバい人も出てこなくて、私と祖父の間でなされたやり取りに過ぎません。
几帳面なところがあると自覚している私としては、こういう原理が分からない事象が一番むずむずするのですが……
もう今から三十年以上前になります。遠方に住んでいた父方の祖父の家へ、両親と共に年に一回か二回遊びに行く機会がありました。
祖父は私を可愛がってくれて、いつ帰っても遊び相手になってくれました。亡くなってからずいぶん経ちますが、未だに顔も声もよく覚えています。
そんな祖父には珍しい物を集める趣味があり、帰省した際によくコレクションを私に見せてくれました。
私に見せてくれた物の中に「琥珀」がありました。樹脂が長い年月を経て固まって化石化したあの宝石です。
祖父が持っていたものはかなり大きく、手のひらの上へ乗せるとずっしりとした重みを感じるほどでした。子供だった私は両手で持たせてもらった記憶があります。
映画「ジュラシック・パーク」の支配人が杖にくっつけていたもの、あれがイメージとしてはとても近しいです。
その琥珀には小さな何かが閉じ込められていました。樹液に呑まれた生物が姿かたちを留めたまま化石化することがある、という話を聞かせてもらいました。
固まった樹液の中心に佇む何かに子供ながら神秘性を覚えて、祖父に頼んで何枚か写真を撮ってもらいました。
当時はまだ幼かったので閉じ込められているものが具体的に何だったのかは分からず、生物か植物だろう、と大雑把に考えていました。
祖父が亡くなってから収集していた物はすべて処分されて、幼い私が心を奪われたあの琥珀もどこかへ売られたか捨てられたかしてしまいました。
それからさらに時間が経過して、今度は私が家で不用品の処分を進めていた時でした。古いアルバムに入れられた琥珀の写真を見つけたのです。
間近で琥珀を見せてもらった時の記憶がよみがえって、思わず片づけをする手を止めてアルバムに見入った……のですが。
「マイクロSDカード……?」
琥珀を撮影した写真をよく見てみると、中に閉じ込められていたのは小型の生物でも植物の断片でもなく、マイクロSDカードでした。
サンディスクの32ギガバイトモデル。家電量販店などで買える、あの薄くて小さい記憶装置です。私もいくつか持っています。
写真は琥珀にかなり近付けて撮影されていたので、文字がハッキリと見えました。角度を変えて撮影されたすべての写真で読み取れました
写真の右下に印字された日付は「1992年7月18日」。マイクロSDカードが規格化されたのは2005年なので、どう考えても存在しているはずがありません。
しかし、写真には間違いなく「サンディスク」「32ギガバイト」「マイクロSD」と書かれていたのです。ネットで調べた写真とも一致しています。
私は混乱しました。現実か写真か、そのどちらを信じればいいのか分からなくなったのです。
そして今なのですが、この文章を書いている裏でマイクロSDカードを閉じ込めた琥珀の写真が入ったアルバムを探しています。
ところが間違いなく本棚に入れておいたはずのアルバムが、どこを捜しても見当たりません。あれから一度も取り出した記憶がないにもかかわらずです。
明らかになさそうな部分までくまなく探したのですが、やはり見つかりませんでした。どうにも腑に落ちません。
琥珀が消え、撮影した写真が消え……次に消えるとすると、私の記憶からではないか。そう考えたのは否めません。
消えてしまう前に何らかの形で記録を残しておきたくて、この文章を書かせていただきました。
あの琥珀はいったい何だったのか、祖父はどこでどうやってあれを手に入れたのか。今となっては、どうやっても知ることはできなさそうです。