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DailyMotion

DailyMotion、という動画サイトをご存知でしょうか。フランスの会社が運営しているYouTubeのような動画共有サービスで、ヨーロッパで人気だそうです。

この言い方からもなんとなく分かる通り、日本での知名度はそれほど高くありません。Googleの検索結果にたまに出てくるくらいでしょうか。

日本人でここを拠点に活動している人は多くないかと思いますが、ある時期に奇妙な動画を立て続けに見かけたので、そちらについて話します。

 

新型コロナウイルスが流行する少し前だったので、2018年か2019年頃だったと記憶しています。時折ネットを検索して動画を観ることを楽しみにしていました。

よく見ていたのは二種類あります。ひとつは錆びた刃物などを様々な技術を駆使してピカピカに蘇らせるようなもので、これは今でも時々見るくらい好きです。

そしてもうひとつが、合成音声を使用した俗に言う「ゆっくり実況」や「ゆっくり解説」と呼ばれるタイプの動画でした。

 

私が見ていたのはレトロゲーム実況や事件・事故についての解説が主でしたが、それ以外の動画もかなり多く視聴していたように思います。

生の声が入っていると集中できないという厄介な性分なのですが、いわゆる「ゆっくりボイス」はすんなり聞き取れて気も散らないので好んで見ていました。

ただ、時期的に企業運営のものが増え始めて「なんだかこれ前も見たな」と思うようなものをしばしば見かけるようになったのも覚えています。

 

ある時、YouTube以外のサイトにはどんな動画が投稿されているのか知りたくて、Googleで「ゆっくり解説」と入力して検索してみました。

YouTubeとニコニコ動画の検索結果が並ぶ中に混じって「DailyMotion」というあまり見慣れない動画サイトに投稿されたものが見つかりました。

タイトルは確か「【ゆっくり解説】アフリカ南部の理想郷、アマンダ共和国について」だったような気がします。

 

「魔理沙。今日はアマンダ共和国について解説していくわよ」

「わかったぜ。アマンダ共和国は近年日本でも注目されている新興国家だ。この動画を見てどんな国かを知ってほしいんだぜ」

「それで、アマンダ共和国はどこにあるのかしら?」

「アマンダ共和国は、南アフリカ大陸の中央に位置する共和制国家で――」

 

内容はごく普通で、どこにでもある博麗霊夢と霧雨魔理沙をデフォルメしたキャラクターが掛け合いを交えつつ特定の物事について解説するというものでした。

フォーマットがシンプルなだけに編集や脚本、解説する事物への理解の能力がモロに出るのですが、この動画はそれらについていずれも高い水準にありました。

資料を多数引用して多角的に見せているだけでなく、写真や映像も数多く使用されています。どれも他では見たことのないものでした。

 

興味を持った私は投稿主のチャンネルに向かいました。すると同じような形式で様々な場所や物品、事件や出来事について解説しているようでした。

取り扱っているジャンルは多岐にわたり、何かに特化しているわけではなさそうです。また、同じチャンネル内にいわゆる「ゆっくり実況」の動画もありました。

少し曖昧ですが、私がその時視聴したそれぞれの動画内では、以下のようなやり取りがされていたと記憶しています。

 

「キリスト教エルヴァ派は、1995年頃にマイケル・デイビスを中心に勃興したキリスト教の一宗派を自称している」

「自称しているということは、キリスト教の宗派として広く認められているものではないの?」

「ああ。どちらかというと異端、もっと極端な言い方をすればカルトだと認識している人が多数に上っているぜ」

 

「扶桑コーヒーは、1986年に愛知県丹羽郡扶桑町で第一号が開店したコーヒーショップだ」

「コーヒーショップと言うと、駅前とかでよく見かけるドトールコーヒーやスターバックスのようなもの?」

「そうだな。創設者の宇佐美氏は、東京旅行の際に訪れたドトールコーヒーに感銘を受けて自分でも似た店を作りたいと思ったそうだ」

 

「今日は久しぶりにゲーム実況をしていくわ。プレイするのはこちら、2006年発売の『Half-Life 3』」

「Half-Life シリーズはスチームで有名なバルブ・ソフトウェアが開発した一人称シューティングゲーム、いわゆるFPSだな」

「『3』はシリーズ完結編と銘打たれていて、『2』の興奮も冷めやらぬ時期に発売されたのを覚えているわ。それではレッツプレイ」

 

当時はそのすべてを何の疑問も抱かずに見ていた気がします。動画には写真や映像が頻繁に登場し、そのすべてが本物としか思えませんでした。

ゲーム実況の回もいくつか見ていました。ゲームは最初から最後までを通してプレイすることが大半で、「中の人」が上手なのかカットなどはほとんどされていませんでした。

こちらもまた、ゲーム風画面を捏造した……という雰囲気ではまったくなかったです。何が言いたいのか分からないと思うので、率直に伝えます。

 

ここまで登場した「アマンダ共和国」「キリスト教エルヴァ派」「扶桑コーヒー」「Half-Life 3」は、いずれも実在しませんでした。

 

ある時ふと気になってそれらの単語について調べたことがあるのですが、情報が一切出てきませんでした。

動画内で情報源とされた書籍も実在しなかったり、あったとしてもそのような記載はなかったりと、いずれも虚偽情報でしかなかったのです。

扶桑コーヒーを実際に来店している実写映像についても虚偽だと思うのですが、その場凌ぎで店名を変えたりしている様子はありませんでした。

 

私が疑問に思って調べた直後くらいに当該チャンネルは消失し、すべての動画が削除されました。現在は一切の痕跡が残っていません。

正直に言ってただの虚偽情報拡散チャンネルだと思いますが、それにしては手が込みすぎていること、使われていた資料が精巧なことなど気になる点がいくつもあります。

何より目的が不明です。虚偽情報拡散の目的は既存のものに対する悪意が大半だと思いますが、動画は本当にただ架空の存在をやけに詳しく説明していただけなのです。

 

……そもそもなんですが、なぜ日本ではあまり有名とは言えないDailyMotionであんな動画を投稿していたのか、それが気になって仕方ないのです。