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S:0013 - "Promiss #1/pt.2"

「……さて、ともえちゃん。あたしは『二つ守ってほしい事がある』って言ったわよね」

「はい。一つ目は『人前でむやみに魔法を使わない』。もう一つはなんですか?」

「ええ。それはね……」

一呼吸置いてから、リアンはともえに告げた。

 

「今から言う五つの魔法を、絶対に使わないで欲しいの」

 

「五つの魔法?」

「ええ。決して使ってはいけない、禁断の魔法よ」

そう前置きしてから、リアンはともえに詳しい内容を話し始めた。

「一つ目『時空を乱す魔法』。過去や未来へ飛んで、歴史を変えるようなことを指すわ」

リアンが続ける。

「二つ目『傷病を癒す魔法』。自分や他人の傷や病気を、魔法の力で治したりすることね」

更に続ける。

「三つ目『精神を奪う魔法』。誰かの心を、自分の都合のいいように操ったりすることよ」

更に付け加える。

「四つ目『記憶を操る魔法』。言い換えると、人の記憶を奪ったり作り変えたりすること」

そして、最後に。

「五つ目『生命を殺す魔法』。これはもう……細かく言わなくても、十分分かるわよね」

……これで、リアンは話を締めくくった。

「この五つの魔法――まとめて『禁呪』と呼ばれてるわ。この禁呪を使っちゃうと、魔女見習いとしての資格を剥奪されてしまうの」

「資格を無くす……つまり、魔法が使えなくなるって事ですか?」

「そういうこと。しかも、それだけじゃないわ。禁呪を犯した者には、恐ろしい罰が待っていると言われているわ」

静かに迫るような口調で、リアンが言う。

「それは……どんな罰なんですか……?」

「ケースが少ないから、具体的に何があるかははっきりしてないわね。ただ、一つ知っているケースがあるわ」

冷めかけたハーブティーを口に含んで、リアンが軽く喉を潤す。

「今から……そうね。こちらでいうと、十二、三年前だったかしら」

「一人の魔女見習いが、三番目の禁呪『精神を奪う魔法』を使ったのよ」

「その子は禁呪をほとんど日常的に使っていたみたいで、いつペナルティが発動してもおかしくなかった」

「ペナルティを押さえつけていたのは、その子が持っていたお守りだったのよ」

過去に発生したケースを、リアンが時系列に沿って話していく。

「けれどもあるとき限界を超えて、お守りが破損してしまった」

「その瞬間に、ペナルティが発動したわ」

「禁呪を破った魔女見習いは深い眠り……具体的には、おおよそ百年の眠りに付いたそうよ」

リアンの発した「百年の眠り」という言葉に、ともえは思わず息を呑んだ。

「百年……ですか……」

「ええ。人間の世界で言うなら、死んだも同然の扱いね……」

重々しい、胃の腑から鉛を引きずり出すような口調で、リアンが呟いた。

「その後……伝聞だけれども、その見習いの親友達が、自分達も見習いをやめることと引き換えに、禁呪を破った魔女見習いを助け出したと聞いたわ」

「このケースの詳細は機密扱いにされてて、具体的に誰がどんな風に関わったのか、一連の出来事の中で何があったのか……そこまでは、あたしにも分からない。ただ、経緯と結果だけを知っているカタチね」

「ただ、禁呪を使うと想像も付かないような悪い結果をもたらす。これだけは、間違いの無い事実なのよ」

そこまで言い終えると、リアンは疲れきった表情で、ほう、と大きく息をついた。

「傷や病気を治す魔法は使えない……つまり、死んだ人を蘇らせる事もダメなんですね」

「そうね。残念だけど、それも禁止されているの。あたしも、やりたい気持ちは痛いほど分かるけどもね」

「そう、ですか……」

「……ともえちゃん、少し難しい話になっちゃうけれど……よく聞いてちょうだい」

寂しげに笑って、リアンがともえに諭すように言う。

「死んだ人をよみがえらせるというのは、抜け殻になった体に命を吹き込むという意味で――」

 

「人が、人を『作る』事と、まったく同じなのよ」

 

「人が人を『産む』んじゃなくて、人が人を『作る』ということは、即ち――」

「同じ人と人との間に『作るもの』と『作られたもの』という、二つの区分ができることに他ならないの」

「人が人を作り始めたらどうなると思う? 生殺与奪の権限が与えられて、精神の均衡を保てる人はそうは居ないわ」

そう言い、リアンは静かに息を吐いた。

「死んだ人にもう一度会いたい。その気持ちは……あたし自身にもあるものだし、起きて当然のものだと思うわ」

「けれどもね、それは『自然の摂理』、もっと言うと『世界の決まりごと』に反する事なのよ」

「魔法は『世界の力』を借りるもの。それに反する事は……絶対に、してはいけないことなのよ」

リアンの言葉に、ともえは静かに頷く。

「……そうですよね。死んだ人を生き返らせるのは……やっぱり、よくないことですよね」

「そうね。ともえちゃん、分かってくれてありがとうね」

すっかり冷めてしまったハーブティーをカップごと片付け、改めて熱々のものを入れなおしてから、リアンが再び話し始めた。

「あとは……そうね。禁呪と関連して、いくつか付け加える事があるわ」

「なんですか?」

「んー、なんというか、どこまでだったら許されるか、っていうところね」

腕組みしつつ、リアンが落ち着いた口調で説明していく。

「一つ目の『時空を乱す魔法』だけれども、実はこれ、『時空を越える魔法』なら許可されてるのよ」

「えっ?! でも、時空を越えたら、過去も未来もそのままじゃいられないんじゃないですか?」

「そう思うでしょ? けれどもね、『姿を消す魔法』『気配を無くす魔法』『声を聴こえなくする魔法』『物体をすり抜ける魔法』なんかと組み合わせると、例えその場にいたとしても、過去や未来に影響を与える事はできなくなるのよ」

「つまり、そういう魔法と組み合わせれば、時空を越える事はできる、ってことなんですか……」

「そうそう。おかしな話だけど、影響を与えさえしなければ、どんな時代へ行ってもいいってことになるわ」

リアンはともえに禁呪の「抜け穴」や「例外事項」について語り始める。

「二つ目の『傷病を癒す魔法』も、魔力で直接対象を治癒するんじゃなくて、『医療・治療のための道具・人員、あるいは場所を出現させる』ことはできたりするわ」

「ゲームみたいになりますけど、回復魔法は禁止、でも『回復アイテムを出す魔法』は使える……そんな感じですか?」

「まさにそれ。あくまでも『道具を出す』という範疇に収まってるから、問題ないのよ。薬にしても、魔法で出現させるためには、自力で生成式を考える必要があるしね」

魔女の世界の医者は、生成式を自力で考える事ができるとてつもなく頭のいい者ばかりだと、リアンは付け加えた。

「三つ目の『精神を奪う魔法』。これもね、相手の心を直接操るんじゃなくて、例えば相手の勇気を奮い立たせるような光景を見せたりして、対象が自分から心を変える分には何の問題も無いのよ」

「要は、相手の気持ちしだいということなんですね」

「そういうこと。ついでに、魔法で間接的に自分の心を鼓舞するのも問題ナシ。心を操る事を目的にするんじゃなくて、何か別のことをした『結果』として心が変わることは、別に構わないって事なのよ」

ともえちゃんの「誰かを幸せにしたい」ということも、これで許されているというわけと、リアンは更に付け加える。

「四つ目の『記憶を操る魔法』だけど、これもさっきのと同じような原理で、相手が記憶を思い出しやすいように昔の風景を再現したりするのはオッケーだったりするわ」

「直接記憶を弄ってないから……そういうことですよねっ」

「そうそう。これも『結果』として記憶が蘇ったり、逆に嫌な事を忘れたりする分には、まったく問題は無いわ」

人の記憶は移ろいやすいものだしね、と付け加えて、リアンは最後の「抜け穴」について話し始めた。

「五つ目の『生命を殺す魔法』……実はこれにも、一つ抜け穴があるの。なんだか分かる?」

「あんまり考えたくないですけど……例えば、包丁を出して、それで魔法を使わずに、自分で……」

「……その通り。これも、『モノを出す』ってカテゴリに収まってるからね。他にも、死にたがってる人のために刃物を出したりとかも、一応許可されてるわ。どうかと思うけどね、実際……」

そこまで言ってから一息置いて、リアンはともえに告げた。

「もう一度整理するわ。ともえちゃんに守って欲しい二つの約束。それは……」

「『人前でむやみに魔法を使わない』『禁呪に当たる魔法を使わない』……わかりました。わたし、約束します!」

ともえはきっぱりと言い切ると、リアンに向かって小指を差し出した。

「リアンさん、わたしと指切りしてください!」

「おっ、いい心がけね。よしっ!」

リアンはともえから差し出された小指に、自分の小指を絡める。

「せーのっ……」

 

『ゆーびきーりげんまん……』

『うーそつーいたらハリせんぼんのーますっ』

『ゆーびきったっ!!』

 

「これで、もう大丈夫です。わたし、指切りをした約束は、絶対に破らないって心に決めてますから!」

「うむ! ともえちゃんの言葉なら、間違いないわね! 安心安心!」

ともえの頭を優しく撫でて、リアンが安心したように言った。

 

「あっ、もうこんな時間……リアンさん、わたし、そろそろ帰ります」

「そうね。日も傾いてきたし、今日はこのあたりにしましょ」

しばしの談笑の後、ともえは窓から差し込む陽の光が大分色づいてきている事に気付いた。ともえとリアンが揃って立ち上がり、アトリエの入り口へと向かう。

「リアンさん、今日はホントにありがとうございました!」

「いやいや。あたしも、ともえちゃんが魔女見習いになってくれてうれしい限りよ」

ともえは持参した手提げカバンにマジックリアクターをしまいこんで、リアンと別れの挨拶をする。

「また、遊びに来てもいいですか?」

「もっちろん! いつでも歓迎するわ……あ、でも、夜中とかはちょっち厳しいかも。あたしこー見えても早寝派なもんで」

「あははっ。夜中には行きませんよ~」

わたしも眠たいですから、と付け加えて、ともえが朗らかに笑った。

「それでは……リアンさん、さようなら」

「さようなら、ともえちゃん。また来てちょうだいね」

最後に一礼すると、ともえは静かに扉を開けて、アトリエから外へと踏み出した。

「……………………」

少しばかり歩いてから、改めてリアンのアトリエを見上げる。夕日に照らされ、アトリエがコントラストの利いた陰影に彩られる。

(リアンさんのアトリエ……)

白壁のそれの佇まいそのものは、訪れたときと何ら変わっていなかった。

(魔女に、魔法……まだ、夢を見てるみたいだよ……)

だが、アトリエの中でともえの身に起きた出来事を思い返すと、自ずから、アトリエを見る目が変わってゆく。信じられない、しかし紛れも無く、己の目の前で起きた不思議な出来事の数々。

ともえはアトリエの中で、魔女見習いになったのだ。

「……よしっ。これから、もっと頑張らなきゃ!」

夢のような感覚から、確固たる現実の感覚へ。小さく気合を入れなおし、ともえは家路につくのだった。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。