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S:0025 - "Pretty, Witch, ... #2"

――アトリエ・セルリアン。

「リアンさーんっ! 開けてくださーいっ!」

「はーい。今行きまーす」

ともえがドア越しに声を張り上げると、向こうから少々間延びした声が返ってきた。間もなく、涼やかな鈴の音と共に、アトリエの扉が開く。

「おぉともえちゃん、いらっしゃ……って、あれ?」

扉を開けた途端、リアンは見慣れぬ姿を目にして、少しばかり面食らったようであった。あさひは暫しリアンを眺め回した後、ともえに視線を移した。

「中原、こいつがお前の師匠か?」

「うん。リアンさんっていうの。本名はセルリアンさんだけどね」

「師匠、ね……んー……」

あさひの口にした「師匠」という言葉で、リアンは大まかではあるが事情はつかんだようだった。確信を得るべく、ともえに声を掛ける。

「ともえちゃん、この子……」

「あ、はい。ちょっと、説明します」

前置きしてから、ともえが経緯を話し始めた。

「えと、この子は厳島さん、フルネームで厳島あさひさん、っていいます」

「ほうほう。厳島あさひ、ね」

「昨日傘を貸してあげた男の子が、わたしが魔女見習いになるところを見てたんです」

「あらあら、ともえちゃんの魔法、見られちゃってたのね……」

「はい。それで、その子……厳島さんの弟なんですけど、魔法の話を聞いて、わたしに声を掛けてきてくれたんです」

「なるほどなるほど」

「それで、わたしは魔法のこと、魔女のこと、魔女見習いのことを、厳島さんに話したんです」

「魔法ってのがあるなら、俺も使ってみたいって思ってたからな」

「使ってみたい……ってことは、入門希望、ってわけね」

ともえとあさひが口にした幾つかのセンテンスで、リアンは現状を完全に把握した。

「魔法に興味を持ってくれたことを、大事にしなきゃ、って思って、リアンさんのところまで来てもらったんです」

「うむ! その気持ち、何よりも尊重しなきゃね! ともえちゃんの言う通り!」

腰に手を当て、リアンが大きく頷く。ともえの判断を、リアンは「正しい」と考えたようだった。

「なら、早速準備しなきゃね。ちょいと時間がかかりそうだし」

腰に当てていた右手を髪へ移し、考えるような仕草を見せる。

「あたしは基本『魔女』見習い専門だけど、知り合いに『魔法使い』とコンタクトが取れるのがいるわ。すぐに連絡して――」

「あっ、リアンさん、実は……」

予想通り勘違いしているリアンに、ともえが慌ててフォローを入れようとするが。

「何ごちゃごちゃ言ってんだ? 俺は女だぜ?」

「……はへ?」

ともえチックな間抜けた声をあげ、リアンが目を点にする。あさひは「何をそんなに驚いているのか」とでも言いたげな顔付きでもって、硬直しているリアンを眺めている。何度か瞬きして、リアンがどうにか平常心を取り戻す。

「……ともえちゃん、ちょっとこっちへカモン」

「あ、はい」

チョイチョイと手招きをして、ともえをすぐ側にまで寄せる。あさひはまったく気にする様子もなく、アトリエの庭を観察していた。

「……顔立ちは中性的だけどさ、あの子、ホントに男の子じゃないの?」

「……はい。実は、わたしも間違えてました」

あさひに聞こえないようなボリュームでもって、ひそひそ話をするともえとリアン。話題はもちろん、実は女の子だったというあさひについてである。

「……いやこう、こう言ったら差別っぽいかもしれないけどさ……ランドセル、黒だし」

「……でも、ホントに女の子みたいなんです。魔法は女の子の夢、って言ってましたし……」

「……あかん。あたしの常識があぶない……」

微妙に関西弁が混じっているのは片隅に退けておいて、リアンは眩暈を起こしたような仕草を見せた。ともえから追加で聞かされた話も相まって、いろいろな「常識」ががたがたとぐらついているようだった。

「おい、話は済んだか? そろそろ本題に入らせてもらえねえか」

「え、ええ……分かったわ。とりあえず、中に入ってちょうだい」

困惑しつつ、リアンはともえとあさひをアトリエに招き入れた。

 

「んじゃ、まずは魔法ってのを見せてあげましょうかね」

ともえとあさひをソファに座らせ、リアンが軽く伸びをする。魔法のデモンストレーションをして見せるようだ。

「……ほいっと!」

「バラが……!」

「……おおっ! すげぇっ!!」

リアンはいつものように指をパチンと鳴らし、魔法を使ってみせる。彼女の手の中には、真っ赤なバラが一輪収まっていた。文字通り「お手の物」といった調子だ。得意げにバラをかざし、リアンがあさひに目を向ける。

「どう? これが魔法よ。なんとなく分かってもらえたかしら?」

「ああ! 惚れたぜっ! 情熱的だなっ!」

拳をぐっと握り締めるあさひを見て、リアンは満足そうに頷く。

「魔法ってのが本当にあるとはな……俺も使ってみてえぜ!」

「おっけーおっけー。じゃ、準備に入るわね」

リアンは道具箱の中から、ともえのものと同型のマジックリアクターを取り出し、あさひに手渡す。

「こいつは何だ? 腕時計か?」

「見た目はそれっぽいけど、腕時計じゃないわ。『マジックリアクター』っていって、あさひちゃんの魔力を活性化してくれるものなのよ」

「ってことは、俺には元々、魔法を使う力があったってことか?」

「そういうことになるわね。眠っていたものを反応させる<Reactor>から、マジック『リアクター』なのよ」

マジックリアクターを左腕に装着しつつ、あさひはリアンの話に耳を傾ける。ともえと同じく、リアクターはあさひの腕にぴったりはまっていた。使用者の体格に応じ、ある程度自動的に調整されるものらしい。

「よしっ! 男は度胸、女は愛嬌っ! あさひちゃん、変身よ!」

「厳島さんっ! リアクターの真ん中にある、赤い宝石にタッチしてみて!」

「これだな! よしっ!」

三人揃ってテンションを上げつつ、あさひは躊躇うことなくリアクターにタッチした。

「……来る! こいつは……すげえっ……!」

ともえのときと同じように、あさひは強い光に包まれ、瞬く間にその中へと飲み込まれた。シルエットだけが残ったかと思うと、やがてシルエットさえも光に飲まれ、あさひが形を失う。

「……!!」

光の海の中で、あさひが開眼する。

「……これだっ!!」

あさひは纏わり付く光を力強く振り払い、二人の前に姿を現す。

「厳島さん……!」

「……おお! あさひちゃんが!」

そして、驚きの表情を浮かべる二人の前で、あさひが……

 

「プリティ♪ ウィッチィ♪ あさひっち♪」

 

思いのほか(本人には申し訳ないが)可愛らしい様子で、変身を決めて見せた。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。