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#34 エーテル財団と案件管理局

夏休みももう残り少なくなった、八月終わりの昼下がり。

「ここなら涼しいし、珍しい本がたくさんあるし」

「みぃう!」

「うん。もちろん、飲み物だっておいしい。いいところだよね、ペリドットって」

優真はシズクを伴って、海沿いにあるカフェ・ペリドットへ繰り出していた。

この日は午後から清音さんが家に遊びに来るとのことで、午前中で解散してそれぞれの家へ戻っていた。いつものように家で昼食を済ませて休憩していたものの、あっという間に手持ち無沙汰になってしまって、迷った優真がやってきたのがペリドットだった。幸い見晴らしのいい窓際の席が空いていて、以前と同じく元気のいい関西弁の店員さんが案内してくれた。自分はブレンドピーチジュースを、シズクはアローラ風ブルーソーダを注文して、本棚へ本を取りに行く。

(最初は図書館に行こうと思ったけど、シズクを連れていけないし、あとこの時間すっげえ混んでるんだよな)

そう、最初は図書館に行こうかとも考えたのだ。だが優真はすぐに、午後の図書館は座る場所もないほど人が多く詰めかけていることを思い出す。以前軽い気持ちで行ってみたら、ロビーに至るまで座れる場所は徹底的に押さえられていたのだ。これでは到底落ち着いて読書することなどかなわない。そこで思い立ったのがペリドットだ。ここには新旧いろいろな本が棚に並んでいたし、何よりいつもほどほどに空いている。マスターや店員さんも気のいい人だし、この間綾乃と入った時はとても居心地が良かった。

(お金は……ま、使っても後で返せば大丈夫だよな)

財布にはこの間おばあちゃんからもらったお札が入っている。飲み物を頼むには十分すぎる額だ。小夏がもらうはずだったお金を使うのは少し気が引けたものの、後で同じだけ返せばいいや、と気持ちを切り替える。

それに少し前、小夏も優真のお金をちょっと使ったという話を聞いていたのだ。

(「プールで泳いだ後に自販機で売ってるイチゴのアイスが欲しくなって、何回か買って食べちゃった」なんて言ってたっけ)

(俺も練習終わった後に食べたくなるんだよなぁ、セブンティーンのアイス)

小夏は「お金使っちゃってごめんね」と謝っていたものの、優真は一向に気にしなかった。むしろ自分もまったく同じことをしていたから、嬉しくなったくらいだ。毎回食べたって全然構わないぞ、と胸をドンと叩いて返した覚えがある。というわけで、自分も後で返す前提でお小遣いを使っても大丈夫だろう、と考えたのだった。

飲み物がやってきたところで、本棚から取ってきたハードカバーの本を読み進めていく。中身はファンタジー小説で、蟲遣いの少女が邪を払う力を持つとされる「北風の化身」に会うために旅をするという筋書きだ。原書はここ榁から遠く離れたカロス地方でかなり古くから読まれてきた作品で、優真が読んでいるのはその邦訳版に当たる。やや古めかしい言い回しも、小夏の頭をフルに使えるようになった優真にはまるで苦にならない。

優真は夢中になって本を読んでいて、シズクは外の風景を楽しそうに眺めている。二人がリラックスした時間を過ごしている間にも、ペリドットでは様々な人々が思い思いに過ごしていて。

「律さん寝とるな。うちちょっと毛布取ってくるわ」

「うん、そうしてあげて。いつもありがとね」

「任して。冷房当たったまま寝とったら、風邪引いてまうからな」

カウンター席では女子高生らしきお客が突っ伏してスヤスヤ眠っていて、店員さんが身体を冷やさないようにと奥から毛布を持ってきて掛けている。その足元には、以前自分を助けてくれたアブソルのシラセの姿も見えた。こちらも気持ちよさそうに眠っている。

「せやからな、元々の山城あきの曲ももちろんええねんけど、我らが真理佳ちんがナイスアレンジをキメてカヴァーしてやな、ライブハウスで皆を虜にして……」

「ちょっとゆかり先輩ったら、熱く語りすぎですってば。声でかいっすよ」

「しゃあないやん。これホンマはラピスラズリで話すつもりやったネタやねんから」

「残念ですよー、先輩がラジオで話してるところ聞けなくて」

「はぁーあ、なんでこないなことになってもたんやろ。よっちゃん泣くし、たまちゃんとひろみんは喧嘩するし、のぞみんは凹むしナミーはどっか行ってまうし、何より真理佳ちんの布教もできん。なぁーんもええことなしや」

優真と同じジムに通っている女子トレーナーの姿も見える。先輩と何やら話をしていて、テンションの高い彼女をまぁまぁと宥めながら聞き役に回っているようだ。

「なあなあ、さっき見せてくれたあのバトルビデオあるやん。あれに出てきたアチャモなんなん?」

「無茶苦茶だよなあ。明らかに格上っぽい相手なのに、ひとりでボコボコにしちまうなんて」

「全国ってあんな人らとポケモン出て来るんか、化け物揃いやん。やばいな全国。ソラとうちももっと特訓しやな」

「おれのタツマキもなぁ。伝説って言われてるツイスターにあやかりたいけど、今はまだ無理だな」

「度胸っちゅうか、肝っ玉はあるやんタツマキ。それを武器にできるようにしたらええんとちゃうん?」

手の空いた店員さんが、入り口近くのカウンター席で同級生らしき女子と話をしている。話ぶりからしてポケモン部に所属しているようで、ネットで配信された対戦風景の動画を観たらしい。そこに登場したアチャモの大変な強さに驚いているようだ。

「ああ、ヨーランのことかい? ガンマの言うゼロロクサンとかいうのは」

「システム内部ではそう呼称されていると」

「で、何かなガンマ。私にもう一度星の夢を見ろって話をしに来たのかな? そういう野暮用は、向こうにいる方の私にネゴるんだね」

「ですが、大前さん」

「『輪投げ』は精巧なレプリカだ、魂の鏡映しだよ。会いたいならエースに言ってレイヤ6直結のバックドアを使わせてもらいな。要件はそれだけかい?」

そしてペリドットの一番奥、本棚近くの隅のテーブル席では、二人の女性がやや距離を置いて向かい合っている。何やら込み入った話をしているものの、優真はまるで気に留めていない。本の虫になっているとはこのことだ。

一時間ほどで本を一冊読み終えて、次の本を取りに行こうと席から立ち上がる――と、その時だった。

「皆口さん、ここ座っていい?」

「えっ? 山手……くん?」

なんとも意外な人物から声をかけられた。同級生の男子・山手くんだ。以前綾乃と共にペリドットを訪れた時にちょっとだけ話のタネになり、小夏と一緒に海岸に居た時にも出くわしたあの山手くんだ。秀才で女子からも人気があり、かつては小夏も想いを寄せていたことを優真も知っている。

(まさかペリドットで出くわすなんてな……俺、こいつのこと苦手なんだよな)

具体的に何か嫌なところがあるわけではないものの、優真にとって山手くんは苦手な存在だった。自分と違ってスマートでなんでもそつなくこなせる恵まれたやつ、という印象がとても強かった。ただ、そうは言っても今の優真は小夏だ。小夏が山手くんに接する時のように振る舞わなければならない。優真は内心ため息をつきつつも、気持ちを切り替えて山手くんと向かい合う。

「あっ、うん。いいよ、座って座って」

「ありがとう。少し、皆口さんと話がしたかったんだ」

小夏と話がしたい? と優真が内心首をひねる。それは構わないのだけど、一体何のことだろう。純粋に不思議に思いながら、とりあえず飲み物を頼むようにメニューを渡してあげる。山手くんはいつものように注文を取りに来た店員さんにグリーンカフェラテを頼んで、メニューを閉じて隅へ置いた。

苦手意識を抱いている山手くんと面と向かって話をするということで、優真は少しばかり緊張していた。うまく話を合わせられるだろうか、ヘンなことを言ってしまわないだろうか。あれこれ気を揉みつつ、まず山手くんが口を開くのを待った。

「可愛らしいフィオネだね。確か、皆口さんと川村くんが育ててるんだっけ」

「そうだよ。シズク、って呼んであげてるの」

「シズクちゃんか……いい名前だね。よく似合ってると思うよ」

自分の隣に座るシズクを見た山手くんが、リラックスした口調で言う。彼がまず口にしたのはシズクの話題だった。これは特段問題なく応対できる。シズクも山手くんのことは良い印象を持ったみたいだ、ニコニコしながら顔を向けている。

「この間のテスト、すごかったね。平均して九十六点だったっけ? 皆口さん、さすがだよ」

「ヤマ勘が当たっただけだよ。ここが問題に出て来るかな、って思ってたところが出てきてくれたんだ」

「要所を見極められる――そういうことだよね。僕も皆口さんを見習わなきゃ」

夏休みの宿題はもう終わらせたかだとか、あと一週間もしないうちに学校が始まるだとか、最近他所から来るポケモントレーナーを以前にも増して多く見かけるようになったとか、優真と山手くんはなんてことのない世間話を重ねていく。以前海岸で会ったときと同じく、山手くんは至って穏やかで、ゆったりしたスピードで話をしてくれる。話し始めるまではちょっと身構えていた優真も、少しずつ緊張を解いて自然な感じで接することができるようになってきた。

カウンターの方から聞こえてくる、マスターや店員さんたちの楽し気な会話をバックにしつつ、二人の会話は続けられる。

「今日は川村くんはいないみたいだね」

「うん。親戚の人が家に来るって言ってたから」

「そうなんだ。この間の水泳大会で一等を獲ったところ、僕も見たよって言いたかったんだけどな」

「山手くんも見に行ってたんだ。すごかったよね、優真くんの泳ぎ」

「本当にね。面と向かって言うには少し照れるけど、彼のこと尊敬するよ。自分の夢をしっかり持ってて、それに見合う実力を持ってるって、すごいことだと思うからね」

なんだ、話してみると結構いいやつじゃないか。優真はまっすぐに自分を褒めてくれる――山手くんは目の前にいるのが優真だとは知らないだろうが――山手くんに、思いのほか好感をもった。思っていたような嫌味なところはまるでなくて、話していてなかなか気持ちがいい。小夏と両想いになった今改めて見てみると、山手に好意を抱く女子が多いのも分かる気がした。他の男子よりいい意味で大人びているし、がっついた感じがちっともしない。こちらの話を最後まで聞いて、そしてしっかり返事をしてくれるタイプでもある。

人の話を最後まで聞くところは俺も見習わないとなあ、なんてことを考えつつ、優真は山手くんの目を見つめる。

「皆口さんが川村くんと一緒に育ててるフィオネのシズクちゃん……澄んだ目をしているね。悪いことなんて少しも考えてなさそうだ」

「生まれたばっかりの頃は、わがままでやんちゃだったけどね。最近すっかり落ち着いて、いい子にしてくれてるよ」

「これも、二人がしっかり面倒を見てあげたおかげだよ。やっぱり、愛情をもって育てられたポケモンに悪い子なんていない。父さんも母さんも、間違ってるよ」

「山手くん……? お父さんとお母さん、ポケモンのことで何か言ってるの?」

山手くんの表情に少し陰が差すのが見えた。けれど山手くんはためらわずに口を開いて、優真にこう答える。

「僕の両親は、ちょっと厄介なものに手を出しててね。ポケモンが人間を滅ぼすって教えを信じてるんだよ」

「ポケモンが人間を滅ぼす……?」

「そう。いつかポケモンが反逆して、人間たちを根絶やしにすると思ってる。だから、ポケモンには近づくな、触るなって、僕も弟もきつく言われてるよ」

「山手くん……その、こういうことあんまり言っちゃよくないのかもしれないけど……それって何か、宗教みたいな?」

「皆口さんの言う通りだよ。ポケモンとは遊ぶな、ポケモンを連れている子とは絶交するんだ――ってね。おかげで弟は友達ができなくて、休みの日は僕と遊んでる」

「そんな……やっぱり、そんな風になっちゃうんだ……」

「大きな声じゃ言えないけど、時折野生のポケモンを捕まえて痛めつけたりもしてる。そういう教義があるらしいんだ。嫌だったけど、僕も手伝わされたよ」

だから、僕の手は汚れている。綺麗なシズクちゃんには触れられないんだ。シズクに寂しげな目を向けながら、山手くんが消え入りそうな声でこぼした。優真は自分の知らなかった山手の一面に触れて、ただただ言葉を失うばかりだ。あの順風満帆な人生を送ってきたとばかり思っていた山手が、偏向した教義を奉ずる両親に振り回されて、兄弟揃って辛い目に遭っていたなんて。まったく、思いもしなかった。

「こうなった原因は分かってるんだ。とてもハッキリしてる」

「原因……って?」

「四年前の、あの大雨だよ。雨が上がったすぐ後くらいから、急に嵌っちゃってね。きっと、カイオーガの恐ろしさに触れたからだと思うんだ」

「大雨――」

優真は思わず息を呑んだ。父が死んだあの雨の日、山手くんの家にも大きな変化が起きてしまったことを察した。豊縁全土を水に飲み込むかのような恐るべき豪雨をもたらした海神・カイオーガ。伝説の生き物だと、御伽噺の存在だと思われていたそれが、確かな姿かたちを伴って現世に再臨したことは、多くの人々に抜き難い衝撃を与えた。山手くんの両親もまた、考えもしなかったカイオーガの復活を目の当たりにして、ポケモンたちが自らの命を脅かすという考えに取りつかれてしまったのだろう。

あの大雨に人生を狂わされたのは自分だけではない、ここにいる山手くんもまた同じだったのだ。

(山手……こいつもいろいろ大変だったんだな)

きっと山手くんは、信仰に傾倒して変貌してしまった両親に翻弄されつつ、自分と弟を護ってきたのだろう。さながら、自分が優美を護ろうとしているのと同じように。それを決して表には出さずに、小夏のように信頼できる人にだけ話をしている。自分も父を喪ってとても辛い思いをしてきたけれど、それでも母は健在で自分を支えてくれた。山手くんはおかしくなってしまった両親と向き合わざるを得ないのだ。考えようによっては、こちらの方が苦しい境遇にあると言えるかも知れなかった。

元の優真の体に戻ったら、自分から話し掛けてみたいと思う。小夏から聞いたという体にして、腹を割っていろいろ話してみよう。ひょっとすると――いや、きっといい友達になれるに違いない。優真はそう思わずにはいられなかった。

少し間を空けてから、山手くんが辺りを軽く見まわして、声のボリュームを落として優真に語り掛けた。

「それでね、皆口さん。ここからが本題なんだけど」

「えっ? 本題……?」

「シズクちゃんのことで、伝えておきたい話があるんだ」

優真は腕を伸ばしてシズクを抱き寄せると、いつになく真剣な目をした山手くんをまじまじと見つめる。

「少し前に、白い服を着た人……エーテル財団って知ってるかな、その人たちと一緒に居た宮沢くんに話しかけられたんだ」

「エーテル財団……? 知ってる、わたしも知ってるよ、前に直接会ったことがあるから。でも、それが……」

「その時に、こんなことを訊ねられたんだ。『皆口さんが連れているフィオネについて何か知らないか』って」

これには優真も思わずぎょっとした。エーテル財団の連中は、シズクのことをまだ付け狙っていたのだ。小夏の顔見知りである山手くんに声をかけて、シズクについての情報を集めていたらしい。

(あいつら、まだシズクのことを嗅ぎ回ってるのか)

心の中で苦虫を噛み潰したような顔をしながら、優真がシズクを抱く手に力を込める。

「父さんと母さんが信じてる教義と、エーテル財団の方針は真っ向からぶつかり合ってる。だからしょっちゅう小競り合いを起こしてるんだ。でも、そのおかげで財団のことを知る機会も多くて、いろいろ話を聞いたんだ」

「山手くん。エーテル財団のこと、何か知ってたりするのかな?」

「うん。良くない話をいろいろとね。一番驚いたのが……ポケモンを保護するって名目で、職員が無理矢理人のポケモンを連れて行こうとした事件があったらしいんだ」

優真とシズクが顔を見合わせる。エーテル財団の職員がポケモンを親から強引に引き離そうとしたことがある、そして彼らは今シズクに強い興味を抱いている。ここから優真の頭の中で導き出される結論は、たった一つしかなくて。

(シズクを……自分たちのモノにするつもりなんだ!)

彼らはシズクに目を付けて、自分と小夏から取り上げようとしているに違いない。それ以外に考えられなかった。

「他にも、地元の悪い人たちと繋がってるって噂が流れてた時期があったとか、ポケモンの危険な力を引き出す道具をたくさん集めてたとか、悪いことをいくつも聞いた。三年くらい前に代表が変わって、中の様子もずいぶん様変わりしたらしいけど……でも、やっぱり彼らには気を付けてほしい。シズクちゃんを狙ってるように思うんだ」

「そんな、シズクを……! いやいやいや、そんなのひどいよ、無茶苦茶だよ!」

「皆口さん、このことを川村くんにも伝えてくれないか。せっかくここまで二人が大切に育ててきたんだ、自分勝手な大人に踏みにじられるなんて耐えられない。だから、彼らからシズクちゃんのことを護ってあげてほしい」

このことを急いで小夏に伝えねばならない、優真は切実に感じた。すぐにでも小夏に連絡を取らねばなるまい。

「教えてくれてありがとう、山手くん。わたし……シズクを渡したりなんか、絶対しないから」

「くれぐれも気を付けて、皆口さん。僕にもできることがあるならなんだって手伝うよ。もちろん、他のみんなには秘密にするからね」

協力を約束してくれた山手くんの手を取って、しっかりと握りしめる。いけ好かないと思っていた山手がこんなにも頼もしく見えるとは、優真は驚きを覚えつつ、取り合った手の力強さに勇気付けられる思いがした。

山手くんに先んじてペリドットを出た優真はまっすぐ小夏の家へ向かう。ひとまず安全な家へ戻って、他人に話を聞かれる心配の少ない電話で連絡を取ろうと考えたからだ。今は小夏も清音の相手をするために家にいるはず、電話を掛ければ必ず繋がるだろう――。

頭の中が小夏のことでいっぱいだった優真は、すぐ側に立っていた人影にも気付くことは無くて。

「髪も結ばないで外におでかけ? こなっちゃん」

通り過ぎようとした優真に、刺さるような声が飛ぶ。

「――えっ!? ひがっ……まりちゃん……!?」

不意を突いて声をかけてきたのは、クラスメートである東原毬、そして。

「東原さん。この方が皆口小夏さんですか」

「見ての通りだよ、本田さん。本田さん的には、対象なんちゃらかんちゃら、だったっけ?」

「対象#156472-1です。レベル2人型オブジェクト、社会潜伏型アノマリーの虞があります」

案件管理局のバッジを光らせる女性局員・本田さんだった。二人は揃って小夏……いや、優真を視界に捉えると、その瞳を怪しくぎらつかせている。

「あっ、えっと……ま、まりちゃん……なんで、管理局の人と一緒に……?」

「どうしてって? そりゃあ、夏休みに入ってから、こなっちゃんの様子がずっとヘンだったからよ」

唐突な出来事に対応しきれず戸惑っている優真を目にした毬は、明らかに訝しんでいる目を優真に向けて、おもむろにこう言い放つ。

「ま、ここにいるのが本当に『こなっちゃん』なのかどうかは……じっくり訊いてみなきゃ分かんないけどね」

「――毎日くっついてる川村も一緒に、ね」

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。