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Stage 2-1

火曜日。昨日はよく晴れていたのに、今日は一転して、暗い雲が満ちた曇り空が広がっていた。この分だと、いつ雨が降り出してもおかしくなさそうだ。

「乃絵美さぁ、佳織、今日も学校来てないわけ?」

二つ隣の教室からやってきた裕香の声色は、暗い空模様にシンクロするかのようにひどく気だるげで、けれどどこか、トゲを帯びているようにも聞こえた。今の裕香がどんな気持ちでいるかを考えたら、あんな風な言い方になるのも分からなくはないけれど。

「んー……雪ちゃんから聞いたけど、今日も休んでる、欠席してるって」

「はぁ? 今日も? もうホントにあり得ないんだけど、なんで佳織学校来てないの?」

表情からしてイラついてるのが分かる。こういうときの裕香は、下手に調子を合わせたりおだてたりすると却って機嫌が悪くなる。何も言わずに話を聞いておくのが、とりあえず一番いいやり方。

裕香は昨日からずっとこんな調子で、鈍感な子が多い男子だって距離を置くぐらい不機嫌な顔をしている。口を開けば「佳織はどこへ行ったの」「佳織まだ学校に来てないの」って具合で、佳織の名前を繰り返し呼んでいる。昨日は休み時間になる度に教室を覗きに来てた。今日もきっと同じことになると思う。

「来週のこと話さなきゃダメなのに。今週メチャクチャになっちゃったし」

「予定とか、そういうのだよね」

「そうだよ。ていうかさ、部長なのに部活休むって、ありえないじゃん。おかしいよ絶対」

この言い方から分かると思うけど、裕香はまだ、佳織が部長だって思っている。部長はまだ佳織のままで、単に学校と部活を休んでいるだけ。裕香はそんな風に考えているように見える。

今から四日前――先週の金曜に言われたことを、私はもう一度思い出してみる。

「佳織、部活やめるってさ」

そう言ってきたのは、隣のクラスの男子・啓太だった。

「……は? 何言ってんの? なんかの冗談?」

「武内くん、どういうこと?」

私も裕香も揃って状況が飲み込めなくて、啓太から詳しい事情を聞こうとした。佳織が部活をやめる、そんなことは想像もできなくて、どこか遠い国の小さな事件のような実感の無さだけが広がっていく。

「いや、言ったとおりだって。佳織が部活を辞めるらしいんだ」

「それだけじゃ分かんないじゃん。なんで? なんで佳織が?」

「知らないよ、俺だって。あと知ってるのは、康一が部長になるってことくらいだよ」

「康一はこのこと知ってるの?」

「たぶん知らない。あいつ今日塾行ってて部活休んでるからさ、まだ連絡できてないんだ」

「佳織は? 佳織どこ行ったの? まだいるんでしょ?」

「もう帰った。先生が佳織は帰したって言ってたな。佳織となんか話し込んでたみたいだけどさ、どういう話してたかは分からなかった」

私の隣で裕香が呆然と口を開けている。たぶん、私もほとんど同じような顔をしていたと思う。啓太はこういう冗談を言う男子じゃない。それに、冗談で言っていいような内容じゃない。

冗談だった方が、まだ救いがあったような気もするけど。

「……ありえないし。佳織、なんで学校来てないのよ」

私が金曜日のことを振り返るのをやめたのと同時に、裕香が失望した表情で教室を去っていく。たぶんきっと、次の休み時間も裕香はこっちの教室に来るだろう。それで、佳織が登校していないかを確かめて、それから失望した顔で出て行く。それが繰り返されるに違いない。

どうしてこうなったんだろう。そんな問いかけをしたところで、佳織がここへ現れたりすることはない。

そうしていると知らず知らずのうちに、佳織と出会った頃のことを思い出していて。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。