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S:0042 - "Surprise Raid and Counter Attack"

――二時間目の休み時間のこと。

「あれは……」

お手洗いから戻ってきたともえが、廊下越しに隣のクラスを覗き込んだ時だった。

「え、えっと……はじめましてっ」

「歩美ちゃん、かな……」

歩美が、自分のクラスのクラスメートに話しかけている姿を目撃した。例によってぎこちないながらも、なんとか挨拶をしているようである。

「こんにちは、歩美ちゃん。ぼくは堀内進(すすむ)だよ」

「あ……ほ、堀内君だね。よ、よろしくおねがいしますっ」

「あははっ。そんなに固くならなくても、大丈夫だよ」

歩美は新しい友達を作ろうと、小さな体と怯える心を奮い立たせて、気になった同級生に声をかけているようだ。

(前は声もかけられなかったって言ってたのに……歩美ちゃん、頑張ってるんだね)

歩美が健気に頑張る様子を、ともえは窓越しに見つめている。

「また今度話しかけたときにでも、友達がどれくらいできたか聞いてみよう――そう思いつつ、ともともは自分の教室へと入るのだった。まる」

「こらこらまりちゃん、語り部の人の仕事を取っちゃダメだよ」

人様の仕事を勝手に奪いやがりながら登場したのは、例によって(こんなことをするのはこいつしかいねえ的な意味で)まりえであった。本当に油断も隙もない野郎である。

「にゃはは! まりえは油断も隙もないのがとりえですからのう」

「この前、弱点が四十八個あるって言ってなかったっけ……」

この前どころか昨日だ。

「歩美ちゃん、頑張ってるみたいだね」

「んに。この調子でちょっちずつ友達を増やして、世界中をあゆあゆの友達でいっぱいにしてしまうべきぞよ!」

歩美の友達はネズミか何かなのだろうか。

「まりちゃんは、今日もいつもの場所に行くのかな?」

「にょほほ~。もちろんけれ、今日もはりきって笑わせるぞよ! ハリカルナッソスと戦う前にカエルになっておくのは常套手段!」

まりえは相変わらず元気よく答える。疲れも悲しみも、まるで知らぬと言わんばかりの様子に見えた。

「おーい、まりえ。先生が呼んでるぞ」

「はわ! そいつは一大事っ! もえもえっ、また今度っ!」

「うんっ。またね、まりちゃん」

先生に呼ばれたというまりえが、教室めがけて一目散に走っていった。

「わたしも戻ろうっと」

そして間もなく、ともえも教室へと戻るのだった。

 

――お昼休み。

「あさひちゃんっ」

「おお、姉貴! 迎えに来てくれたのか!」

給食を食べ終えたともえが、あさひのいる隣のクラスへやってきた。椅子に座っていたあさひがすっくと立ち上がり、ドアの前に立っているともえの元へと向かう。

「すまねえ。今準備が済んだところなんだ」

「大丈夫だよ。関口さん、もう行っちゃったみたいで、教室にはいなかったよ」

恐らく、既に屋上で待っているのだろう。

「そうか。それなら、すぐに屋上に行ったほうがいいな」

「うん。早速だけど、行ってみよっか」

「おう! 行くとするか!」

ともえはあさひと連れ立ち、屋上へ向かって歩き始めた。

「……およ? ともともにあっちー……?」

 

「よいしょ、っと……」

「この前も開けたけどよ、ここのドア、えらく開きにくいよな……」

「そうだよね~。多分、回るところが錆びてるからだと思うけど……」

「俺も、姉貴と同じ意見だぜ」

少々難儀しつつドアを押し開け、ともえとあさひが屋上に出る。

「……………………」

屋上の手すりの側で、水色の長髪を風に晒す、一人の少女が立っているのが見えた。風の吹き抜ける音に、扉の開く錆付いた音がかき消されてしまったのだろう。こちらに気付いた様子は見せていない。

「外を眺めてる、か……」

少女、もといみんとの様を、あさひは興味ありげに見つめている。

「よっ、いっ……しょっとぉ……ふぅ、開け閉めするだけでも一苦労だよ~」

か細い腕でなんとかドアを閉めたともえが、屋上に立つみんとの姿を視界に捉えた。

「あの子みたいだね」

「そうだな……間違いねえ」

二人が、少女がみんとであることを確認しあう。自分たちよりも一回り高い背丈、背中まで伸びた美しい髪、そして凛とした姿勢。それは朝に話しかけてきたみんとと、間違いなく同一人物であった。

「ふん……よし。姉貴、悪いが、ここでちょっと待っててくれ」

「あさひちゃん?」

不意にあさひがともえを制止し、一歩前に踏み出した。

「関口の噂は、前々から聞いてるんだ。とんでもなく強いってな」

「そうそう。武道を嗜んでるとか、そういう話だよね」

「おう。強いって聞いちゃ、俺も黙っちゃいられねえぜ。どれくらい強いのか、ちょっと確かめさせてくれ」

唐突なあさひの発言に、ともえが驚きと戸惑いの声をあげた。

「えぇっ?! ち、ちょっとあさひちゃん!」

「心配いらねえ。無茶はしないから、安心しててくれ」

ともえが止めるのも聞かず、あさひは手すりを手にして外を眺めるみんとにつかつかと歩み寄ってゆく。恐らく、後ろから小突いてみたりして、みんとがどのような反応を示すのか見たがっているようだ。

「……………………」

「……………………」

一歩、一歩。あさひがみんととの距離を縮めてゆく。両腕を構え、みんとに飛び掛らんと目を光らせているのが分かる。

「……………………」

「……………………」

二人の距離が、五歩・四歩・三歩……徐々に詰められる。あさひは少しばかり呼吸を整え、そして――

「そらっ!」

抱きつくような形で、みんとに飛び掛った。

「……!!」

しかしその刹那、みんとが表情一つ変えずに振り向く。

「はぁっ!!」

「おっと!!」

丹田から響き渡るような裂帛の掛け声と共に、みんとがあさひの水月目掛けて鋭い手刀を繰り出す。対するあさひは大きく身を翻し、受身を取りつつ二歩ほど後ろに下がった。二人の間に距離ができる。

「……………………」

「……………………」

無言のまま、互いの目を己の瞳に映し出す。あさひもみんとも、呼吸に乱れは一切無い。あさひから不意打ちを受けたみんとも、みんとから鋭い反撃を繰り出されたあさひも、である。

「……………………」

「……………………」

一呼吸置いて、場の緊張がわずかに緩んだ後に。

「……意図は何?」

みんとが冷静な口ぶりで、あさひに向けて真っ直ぐに問いただした。言葉通り、自分に飛び掛ってきた意図を尋ねているのだ。

「……お前の噂を確かめたかった。それだけだぜ」

あさひの答えも、捻ったところの無いストレートなものだった。流れている噂がどれほど信憑性があるか、実際に確かめてみたかったというわけだ。

「……噂以上だな。あと少し反応が遅れたら、手痛い目に遭ってた。惚れちまうぜ」

「……私の背中にあと二歩まで近づいたのは、厳島さんが初めて」

「そいつは光栄だ」

互いに緊張を解いて、リラックスした姿勢で相手を見やる。わずかなやり取りの間に、あさひもみんとも、双方の力量を把握したようである。

「俺はB組の厳島あさひ。好きなように呼んでくれ」

「……A組の関口みんと。呼び方は、好きにして欲しい」

「よし。じゃあ、俺は――」

所属と名前を交換し、あさひとみんとが手を取り合う。互いの力量を認め合い、握手を交わす。なんとも分かりやすい、信頼の生まれる瞬間と――

「こらっ! 二人ともっ!」

「あ、姉貴……?!」

「な、中原、さん……?」

――言えよう、といったように無難に〆ようとしたところ、ともえが腕組みをして二人の間に立った。突然ともえに怒られたあさひとみんとが、揃って目を白黒させている。

「屋上で暴れたら危ないよっ! あさひちゃんも関口さんも、落ちたらひとたまりも無いよ!」

「す、すまねえ姉貴……ちょっと、やり過ぎちまった……」

「ご、ごめんなさい、中原さん……つい、手が出て……」

きりっと決めたやり取りをしていたのもつかの間、この中ではどう見ても一番幼く見えるともえが、二人のお母さんにでもなったかのような調子で説教をしていた。あさひもみんとも、ともえにまったく頭が上がらない。

「特にあさひちゃん! 関口さんがちゃんと反応できたからよかったけど、気付かなかったら大変なことになってたんだよ!」

「あ、あうぅ……姉貴……」

「ここの手すりは雨で錆びてて、いつ壊れてもおかしくないからね。もう二度と、こんなことしちゃだめだよ!」

「はい……」

きびきびと正論を並べるともえに、あさひは珍しくしょぼんとした表情を見せていた。

「関口さん、ごめんね。あさひちゃん、悪気があったわけじゃないからね」

「……こっちも、心配をかけて、ごめんなさい……」

それにつられるかのように、みんとも申し訳なさそうな表情をするのだった。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。