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S:0043 - "Come on! Join us!"

それから、少し間を空けて。

「それで……関口さん。話って、なんのことかな?」

あさひの一件で少々時間を食ってしまったものの、ともえがここに来た本来の目的であるみんとの話にフォーカスを移した。みんとはともえの言葉に深く頷き、やがて口を開く。

「二人に、聞きたいことがある……」

「聞きたいこと?」

「俺と姉貴に、か。一体、どんなことだ?」

質問の内容を問われたみんとが、続けて――

「それは……」

――こう、問いかけた。

 

「……昨日、空き地で何をしていたの?」

 

「えっ……!!」

「いっ……?!」

こんなことを聞かれるとは、欠片も想像していなかった――ともえとあさひの表情からは、二人の心境が手に取るように見て取れた。昨日、空き地で、何を、していたか。たった四フレーズの言葉が、二人を硬直させた。

「……学校の帰り道に、日和田の南東にある空き地の前を通った」

「その時に……変わった、可愛い服を着た厳島さんが、マットの上に寝転んでいるのが見えた」

みんとの話は、どう見ても、あるいは考えても、二人が空き地に墜落した時の場面だった。その時の光景を、みんとが見ていたというのである。

「……その後だった。マットが白い光を発して、厳島さんと色違いの、可愛い服を着た中原さんに変わった」

「二人が何かを話し合っているのが見えたけど、何を話していたのかは分からなかった」

言い逃れのできない証拠を次々に積み上げ、ともえとあさひに無造作に突きつける。みんとは意識していなかっただろうが、二人を着実に追い込んでいたのである。

「……教えて欲しい。二人は、何をしていたの?」

「そ、それは……」

「え、えっとだな……」

二人の額を、冷たい汗が流れる。

「ど、どうしよう……」

「どうすれば、いいんだろうな……」

無意識のうちに、互いに顔を見合わせる。だが、有効な打開策は見えてこない。

「昨日は、ずっと透明になってたはずなのに……」

「そ、そうだよな……なのに、どうして……」

そう。昨日の二人は、リアンから紹介されたマジックリアクターの透明化機能を使い、魔女や魔女見習い以外からは見えなくなっていたはずだった。しかしみんとは、二人が魔女見習いとして活動している間の一部始終を、しっかりと目撃していたような口ぶりである。何がどうなっているのか、見当も付かなかった。

「う~ん……」

「……………………」

当初、みんとの発言に困惑していた二人であったが、

「……………………」

「……………………」

青い空を背にしてみんとの目を見つめているうちに、ともえの表情が少しずつ落ち着いていった。彼女の心境に、何らかの変化があったらしい。

「……うん。隠しても仕方ないから、わたしが話すよ」

「いいのか? 姉貴……」

「うん……多分、だけどね」

「……分かった。姉貴、頼む」

「任せて」

二人の方針が固まったようだった。ともえはこくりと頷き、一歩前に歩み出る。

「関口さん。質問に答える前に、こっちから、いくつか訊いてもいいかな?」

「……分かった」

質問に答える前に質問がしたいというともえの申し出に、みんとは素直に応じた。みんとの様子を確認してから、ともえが質問を始める。

「関口さんは、世の中には科学とかじゃ説明できないことがあるって、信じられるかな?」

「……私は、信じてる」

口調は穏やかだったが、ほとんど即答に近かった。迷いが感じられない。

「……日本では、古来から物の怪や神様がいると信じられてきた」

「……………………」

「物にも、道にも、心にさえも、魂が宿ると言われている」

「だから、どんな不思議なことがあってもおかしくない……そうだよね?」

「……そう。中原さんの言うとおり」

第一段階はクリア――ともえは、そう判断した。

「じゃあ、もっと具体的な話をするね」

「……………………」

「関口さんは、この世界に『魔女』や『魔法』が、いたり、あったりするって言われたら、どう思う?」

具体的な話という前置きどおり、ともえがかなり踏み込んだ質問をした。

「……あっても、おかしくは無いと思う」

「やっぱり、そう思うよね」

「……もし、それに触れることができるなら……私は、触れてみたい」

決定的な一言だった。みんとは、魔女や魔法を受け入れる心ができている。ともえが大きく息を吸い込む。すべてを話してしまうことにしたようだ。

「……ありがとう、関口さん。関口さんが、不思議なものを受け入れてくれる人でよかったよ」

「じゃあ、中原さんは……」

「うん。わたしとあさひちゃんは……リアンさんっていう『魔女』に弟子入りして、『魔女見習い』として『魔法』の修行をしてるんだよ」

一息に、自分の置かれている状況を話して聞かせた。

「関口さんが空き地を通りがかったときは、ちょっとアクシデントがあって、あんなことになっちゃってたんだよ」

「昨日着ていた可愛い服は、『魔女見習い』の服?」

「そうだね。わたしと厳島さんで、色違いなんだよ」

「……そういうこと……」

腰に手を当て、ともえが大きく頷いた。みんとは胸に手を当て、ともえの様子を見つめる。

「……中原さん。中原さんと厳島さんに、一つ、お願いがある……」

来た。ともえの口元が、小さく微笑む。そして――

 

「……わたしも弟子入りさせて欲しい、かな?」

「……すごい。それも、魔法?」

「えへへっ。そうかもね」

 

――にっこり微笑むともえに、みんとも呼応して笑うのだった。

「……すげえや、姉貴は。こんなに自然に仲間にしちまうなんてよ……」

その隣で、あさひが感嘆の声をあげていた。

「……私も、あの可愛い服を着られる?」

「もちろん! 関口さんにも、よく似合うと思うよ!」

「……うれしい」

先ほどから何度か「可愛い」という感想を付け足していた見習い服を着られることに、みんとは喜んでいるようだった。子供っぽいところのほとんど無いみんとだったが、見習い服を「可愛い」という辺り、根は歳相応の子供のようである。

「決まりだな、姉貴」

「うん。今日早速、リアンさんのところに行こっか」

「おう! 大賛成だぜ!」

ともえとあさひは、みんとを今日にもリアンのアトリエへ連れて行くことを決めたようだ。善は急げ、ということか。魔法の理解者が増えることには、リアンも歓迎してくれるだろう。

「……魔女に、魔法……」

みんとは感慨深げに、先程ともえが口にした言葉を復唱した。

「……もしかしたら……変えられるかも知れない……」

小さな、けれどもはっきりとした声で、みんとは呟いた。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。