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S:0048 - "Display My Consciousness #1"

「……ディスプレイ・マイ・コンシャスネス! 出でよ花束っ!!」

 

――みんとが願ったのは、「花束」だった。

「……………………」

「……………………」

ほんの微かな、微かな間の後。

「……!」

「おおっ!」

「関口さんの手に、花束が……!」

みんとの手の中に、ビニールとリボンにくるまれた、小さな花束が現れた。中空から現れたそれを、みんとがすかさずキャッチする。

「……………………」

手にした花束を、みんとがしげしげと見つめる。花束には四季折々の花が、丁寧に揃えて結ばれていた。傍目から見ても美しい、立派な花束だった。

「やったわね、みんとちゃん!」

「さすがだぜ姉貴! やっぱやるもんだよな!」

「……………………」

隣でみんとを称えるリアンとあさひだったが、肝心のみんとの表情がどうも浮かない。花束に視線を向けたまま、小さくため息をつくばかりだった。

「関口さん、どうしたの?」

「……これじゃない」

「……えっ?」

ともえの問いかけに、みんとは「これじゃない」という答えを返した。ともえは意味が分からず、みんとに訊ね返す。

「これじゃない、って?」

「……もっと、綺麗な色の花束を出したかった」

「綺麗な色の……?」

みんとの答えを聞き、ともえがみんとの持っている花束に視線を移す。

「白百合・孔雀草・コスモス・山茶花・薄……そうかな? わたし、どれも綺麗だと思うけど……」

「……確かに、形も色もいいかも知れない。けれども……」

「けれども?」

ともえの反語に、みんとはこう答える。

「……色が……白、ばかりだから……」

色が、白ばかりだから。みんとの浮かない表情の答えは、自分が魔法で出した花束の「色」にあった。

「そう言われて見ると……」

「んー……確かに、よく見ると白い花ばっかりねえ……」

「そうだな……綺麗には綺麗なんだが、ちょっと寂しい気もするな」

「……………………」

口々に告げられる感想に、みんとが黙ったまま頭を垂れる。みんとと示し合わせたかのごとく、花束を形作る花々も、一斉に花弁を垂れた。

「みんとちゃんがイメージしてたのは、もっとこう、派手でカラフルな花束だった……そういうこと?」

「……はい」

「けど、実際に出てきたのは白い花ばかりの花束だった……だから、関口さんは落ち込んでるんだね」

みんとはともえが取りまとめた言葉に、深く頷いて応じた。ともえがみんとに寄り添い、そっと肩に手を当てる。

「関口さん……」

「……ごめんなさい、中原さん。私は、大丈夫」

「……………………」

「これは……私が、強い意志を持てなかったから……私の意志が、弱かったから……」

強い意志を持てなかった。みんとは、「カラフルで色鮮やかな」花束を出したいという意志を持ちきれなかったために、少しばかり寂寥感漂う、白い花ばかりで作られた花束ができてしまったと言っている。なるほど、白は何物にも染まる、移ろいやすい色。ノートもキャンバスも、背景は皆白だ。白の上に新しい色を重ね、色が自己主張を始める。白は上塗りされる色に追従し、流されるまま。みんとの言う「弱い意志」という言葉も、一理あると言うことができた。

「……よしっ」

――落胆の色に染まるみんとの隣で、ともえが小さく気合を入れなおしていた。

「関口さんっ」

「……中原さん?」

 

「もう一度、一緒にやってみようよ」

 

「……中原さん、と……?」

「そう。わたしが、一緒に呪文を唱えてみるよ」

思いもよらぬ展開に、その場に居合わせたともえ以外の三人が、一斉に彼女に注目した。

「姉貴が……姉貴と一緒に?」

「うん。一人じゃダメでも、二人ならできるかも知れないよ!」

「うーむ、発想としてはいいところね。みんとちゃん、やってみる価値はあると思うわよ」

「けれども、私は……」

白い花束を掴む手に、力がこもる。一度「意志の弱い」花束を出してしまったみんとには、手の中にある「実績」が重荷となっていた。

「諦めちゃダメだよ、関口さん!」

「中原さん……」

「このままだったら、関口さんの初めての魔法が、悲しいままになっちゃう……それって、すごく寂しいことだよ!」

「初めての、魔法が……寂しい物に……」

ともえが伝えようとしていることが、みんとにも分かりかけてきた。

「そうだぜ、姉貴! 俺も、最初の魔法は失敗したんだ」

「厳島さんも……?」

「ああ。だがよ、姉貴の言葉を聞いて吹っ切れて、その後の魔法は成功させてやったぜ」

「中原さんの言葉で……」

「そうだ! 姉貴だって、このまま終わりたくなんかねえだろ! なら、やってみるのが一番だぜ!」

あさひの言葉を受けて、みんとの目の色が変わる。

「みんとちゃん! やってみようよ!」

「……分かった。中原さん、私に力を貸して……!」

「任せて! 素敵な花束が出せるように、わたし、頑張るから!」

みんととともえが固く手を繋ぎ、互いにリリカルバトンを手にする。

「中原さん……」

「みんとちゃん、大丈夫だよ。みんとちゃんの魔法、必ずうまく行くから……!」

「……私の魔法、必ず、うまく行く……」

ともえがかけた勇気付けの言葉を復唱し、みんとが目を閉じる。歩調を合わせ、ともえもまた目を閉じた。

「……みんとちゃん、イメージしてみて。出したい花束を、カラフルな花々を……」

「……花を……私の願いを、形に……」

「そう……それでいいよ。それを……強く、強く願って……」

呼吸のリズムを合わせ、ともえとみんとが「カラフルな花束」のイメージを構築してゆく。それはみんとの願いであり、また同時に、ともえの願いでもある。二人の願いが一つになった時、願いを叶えるための源泉である魔力もまた、ひとつになる。

「……行くよ、みんとちゃん……」

「……大丈夫。私は、大丈夫……」

「……よしっ。せーのっ……!」

ともえの掛け声と共に、二人が開眼する。

 

「アクティベート・マイ・ドリーム!」

「ディスプレイ・マイ・コンシャスネス!」

「「花束よ、出て来い!!」」

 

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。