「……ディスプレイ・マイ・コンシャスネス! 出でよ花束っ!!」
――みんとが願ったのは、「花束」だった。
「……………………」
「……………………」
ほんの微かな、微かな間の後。
「……!」
「おおっ!」
「関口さんの手に、花束が……!」
みんとの手の中に、ビニールとリボンにくるまれた、小さな花束が現れた。中空から現れたそれを、みんとがすかさずキャッチする。
「……………………」
手にした花束を、みんとがしげしげと見つめる。花束には四季折々の花が、丁寧に揃えて結ばれていた。傍目から見ても美しい、立派な花束だった。
「やったわね、みんとちゃん!」
「さすがだぜ姉貴! やっぱやるもんだよな!」
「……………………」
隣でみんとを称えるリアンとあさひだったが、肝心のみんとの表情がどうも浮かない。花束に視線を向けたまま、小さくため息をつくばかりだった。
「関口さん、どうしたの?」
「……これじゃない」
「……えっ?」
ともえの問いかけに、みんとは「これじゃない」という答えを返した。ともえは意味が分からず、みんとに訊ね返す。
「これじゃない、って?」
「……もっと、綺麗な色の花束を出したかった」
「綺麗な色の……?」
みんとの答えを聞き、ともえがみんとの持っている花束に視線を移す。
「白百合・孔雀草・コスモス・山茶花・薄……そうかな? わたし、どれも綺麗だと思うけど……」
「……確かに、形も色もいいかも知れない。けれども……」
「けれども?」
ともえの反語に、みんとはこう答える。
「……色が……白、ばかりだから……」
色が、白ばかりだから。みんとの浮かない表情の答えは、自分が魔法で出した花束の「色」にあった。
「そう言われて見ると……」
「んー……確かに、よく見ると白い花ばっかりねえ……」
「そうだな……綺麗には綺麗なんだが、ちょっと寂しい気もするな」
「……………………」
口々に告げられる感想に、みんとが黙ったまま頭を垂れる。みんとと示し合わせたかのごとく、花束を形作る花々も、一斉に花弁を垂れた。
「みんとちゃんがイメージしてたのは、もっとこう、派手でカラフルな花束だった……そういうこと?」
「……はい」
「けど、実際に出てきたのは白い花ばかりの花束だった……だから、関口さんは落ち込んでるんだね」
みんとはともえが取りまとめた言葉に、深く頷いて応じた。ともえがみんとに寄り添い、そっと肩に手を当てる。
「関口さん……」
「……ごめんなさい、中原さん。私は、大丈夫」
「……………………」
「これは……私が、強い意志を持てなかったから……私の意志が、弱かったから……」
強い意志を持てなかった。みんとは、「カラフルで色鮮やかな」花束を出したいという意志を持ちきれなかったために、少しばかり寂寥感漂う、白い花ばかりで作られた花束ができてしまったと言っている。なるほど、白は何物にも染まる、移ろいやすい色。ノートもキャンバスも、背景は皆白だ。白の上に新しい色を重ね、色が自己主張を始める。白は上塗りされる色に追従し、流されるまま。みんとの言う「弱い意志」という言葉も、一理あると言うことができた。
「……よしっ」
――落胆の色に染まるみんとの隣で、ともえが小さく気合を入れなおしていた。
「関口さんっ」
「……中原さん?」
「もう一度、一緒にやってみようよ」
「……中原さん、と……?」
「そう。わたしが、一緒に呪文を唱えてみるよ」
思いもよらぬ展開に、その場に居合わせたともえ以外の三人が、一斉に彼女に注目した。
「姉貴が……姉貴と一緒に?」
「うん。一人じゃダメでも、二人ならできるかも知れないよ!」
「うーむ、発想としてはいいところね。みんとちゃん、やってみる価値はあると思うわよ」
「けれども、私は……」
白い花束を掴む手に、力がこもる。一度「意志の弱い」花束を出してしまったみんとには、手の中にある「実績」が重荷となっていた。
「諦めちゃダメだよ、関口さん!」
「中原さん……」
「このままだったら、関口さんの初めての魔法が、悲しいままになっちゃう……それって、すごく寂しいことだよ!」
「初めての、魔法が……寂しい物に……」
ともえが伝えようとしていることが、みんとにも分かりかけてきた。
「そうだぜ、姉貴! 俺も、最初の魔法は失敗したんだ」
「厳島さんも……?」
「ああ。だがよ、姉貴の言葉を聞いて吹っ切れて、その後の魔法は成功させてやったぜ」
「中原さんの言葉で……」
「そうだ! 姉貴だって、このまま終わりたくなんかねえだろ! なら、やってみるのが一番だぜ!」
あさひの言葉を受けて、みんとの目の色が変わる。
「みんとちゃん! やってみようよ!」
「……分かった。中原さん、私に力を貸して……!」
「任せて! 素敵な花束が出せるように、わたし、頑張るから!」
みんととともえが固く手を繋ぎ、互いにリリカルバトンを手にする。
「中原さん……」
「みんとちゃん、大丈夫だよ。みんとちゃんの魔法、必ずうまく行くから……!」
「……私の魔法、必ず、うまく行く……」
ともえがかけた勇気付けの言葉を復唱し、みんとが目を閉じる。歩調を合わせ、ともえもまた目を閉じた。
「……みんとちゃん、イメージしてみて。出したい花束を、カラフルな花々を……」
「……花を……私の願いを、形に……」
「そう……それでいいよ。それを……強く、強く願って……」
呼吸のリズムを合わせ、ともえとみんとが「カラフルな花束」のイメージを構築してゆく。それはみんとの願いであり、また同時に、ともえの願いでもある。二人の願いが一つになった時、願いを叶えるための源泉である魔力もまた、ひとつになる。
「……行くよ、みんとちゃん……」
「……大丈夫。私は、大丈夫……」
「……よしっ。せーのっ……!」
ともえの掛け声と共に、二人が開眼する。
「アクティベート・マイ・ドリーム!」
「ディスプレイ・マイ・コンシャスネス!」
「「花束よ、出て来い!!」」
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。
※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。