夏休みも半ばを迎えつつあったさる日のこと。いつも提げているエコバッグとは少々趣の異なる、白いクーラーバッグを手にしたシズが、ポケモンセンターのカウンターに立っていた。
「ヒワダジム所属のシズさんですね。毎週ありがとうございます。こちらでお預かりしていたポケモンは、みんな元気になりましたよ」
「こちらこそ、ありがとうございます。本当に、いつもお世話になってます」
「そう言っていただけると、私たちもうれしい限りです。また、いつでもいらしてくださいね」
ヒワダジムで世話をしているポケモンについては、シズが週に一度最寄りのポケモンセンターまで赴き、全員について身体検査と機能回復を依頼する決まりになっていた。小学生の頃から礼を失したところがなく、毎週規則正しくほぼ同じ時間にやってきていたために、どの看護士からもすっかり顔を覚えられていた。
受け取ったモンスターボールを持参したクーラーバッグへ一つずつ丁寧に詰めた後、シズが待合室のベンチに腰を下ろす。外はどうにも暑いし、もう少し一服してから帰ろう。今日は特にすることもないし、いいよね。そう考えたシズは、心地良さげに息をついた。センターはほどほどに空調が効いていて、肌寒いこともなければ蒸し暑いこともない。家では日中空調を入れないことにしていたから、こうして適度に涼しい場所があるとつい長居してしまうのだ。
穏やかな表情で休息を取っていたシズがハタと目を見開いたのは、すぐ前を通り掛かった人影を目にしたときだった。
「あれは……ちぃちゃん!」
「あっ、しぃちゃん!」
黒革のケースに入れたタブレットを持って歩いていたチエをシズが呼び止める。チエはすぐにシズに気が付いて、早速シズの隣の空いていた座席に着く。よもやシズに呼び止められるとは思っていなかったようで、表情からは驚いている様が見て取れた。それでいて、シズに会えて嬉しいという思いもまた滲み出ていた。
「久しぶりだね、しぃちゃん。今日もいつもと同じ?」
「うん。ジムでお世話してるポケモンたちの定期検診だよ。毎週わたしが来るから、看護士さんたちにもすっかり顔を覚えられちゃったよ」
「あははっ、なんだかしぃちゃんらしいね、それ。そうだ、しぃちゃん。今時間あるかな。せっかくだから、ちょっとお話したいなあって思って」
「うん、大丈夫。今日は特にすることもないし、わたしも大歓迎だよ」
少し話がしたいというチエに、シズもすぐさま同調する。チエはシズにとって心置きなく話のできる数少ない友人の一人であったから、チエの申し出はシズの言葉通り大歓迎で、まさしく望むところだった。
「いきなりだけど……しぃちゃん、夏休みに入る前よりずっと明るい顔してる気がするよ。何かいいことあったのかな?」
「やっぱり、ちぃちゃんの目はごまかせないね。実はね、この間お母さんと話をして――」
シズの表情が以前に比べて格段に明るくなっていることに気付いたチエがそれを指摘すると、シズは母親のスギナと話したことをありのままそのままチエに伝えた。自分のあり方、ジムリーダーとしての心構え、リーダーシップについての考え、エトセトラエトセトラ。シズの様子は、あの対話の中で得た数々の気付きを口に出して再確認しているかのようだった。
ひとしきりシズが話し終えて、最後に一呼吸置いてから、こう締め括った。
「わたし、まだまだ未熟でつたないけど……でも、自分なりに頑張ってみたい。お母さんと話して、そう思ったよ」
隣で話に耳を傾けていたチエは一つ一つに頷いて、シズの意見に強く同意しているようだった。シズの話が済むと同時に、興奮気味に口火を切った。
「そんなことがあったんだね。しぃちゃん、私、それでいいと思う。すっごくいいと思う。夏休みに入る前、私とクミちゃんルミちゃんにジムリーダーになるって話してくれたとき、しぃちゃんすごく悩んでるみたいだったから、どうしてるかなって心配だったけど、元気になったみたいで本当に良かったよ」
「ありがとう、ちぃちゃん。いろいろ迷ってたけど、お母さんのおかげで気持ちが固まってきたよ」
「そっかあ、そんなことがあったんだね。実はね、私しぃちゃんに元気になってもらいたくて、次に会ったら話そうと思ってたことがあるんだけど、その必要はなさそうだね」
「何々、どんな話? せっかくだから、ちぃちゃんの話、聞かせてほしいな」
沈んだ気持ちになっていたシズに話したいことがあった、しかしすっかり自分の意志を固めて元気を取り戻しているようだったので、その必要はなさそうだ。そう言ったチエに、シズは「ぜひ聞かせてほしい」と食い下がった。チエもこの状況になると分かっていたように微笑んで、少しばかりはにかんで見せた。
「これ、お爺ちゃんがよく言ってるんだけどね」
「モンスターボールの材料の、『ぼんぐり』ってあるでしょ? ヒワダでもたくさん栽培されてる、あの木の実だよ」
「中をくり抜いて空洞を作って、そこに専用の制御装置を埋め込む」
「ごつごつした表面を研磨して、ツルツルになるまで磨きあげる」
「ぼんぐりはお爺ちゃんみたいな職人さんの手で加工されて、最後はモンスターボールに仕上げられるんだ」
「でも、知ってると思うけど……ぼんぐりってすごく固いしごつごつしてるから、空洞を作るのも磨くのも大変」
「ボールを一つ作るのに、いろんな手間とたくさんの時間が掛かるんだよ」
「だけど、気持ちを込めて丁寧に作業をしていけば、装置を入れるための『器』は広がる」
「研鑽を続ければ、ごつごつの表面だって、ほら。このボールみたいに、つやつやになる」
「どんなぼんぐりだって、技術と真心を尽くして加工すれば、きちんとモンスターボールにできる」
「『器は後からでも広げられる』し、『研鑽を続ければいつかはいい形になる』。そういうものだって」
「それは――人も同じだって」
お爺ちゃんはよく言ってるんだよ。チエはそう口にして、話を締め括った。
横でチエの講釈に耳を傾けていたシズは、先程よりもさらに明るい表情をして見せていた。話し終えて満足げにしているチエに視線を向けると、大きく胸を張って、チエの話の感想を述べ始めた。
「そっか。今はまだ未熟でも、これからたくさんのことを覚えて、きちんと身に着けていけばいいんだ」
「最初から全部完璧じゃなくても、もっと良くしていこう、もっと上手になろう、そういう気持ちを忘れずに持っていけば、少しずつでも前へ進んで行けるんだ」
「わたしは、まだまだできないことの方が多いけど……でも、これから少しずつできるようになって、自分の『器』を広げていけたらいいな、そう思ったよ」
「ちぃちゃん、話してくれてありがとう。またひとつ、新しい見方ができたよ」
チエは大きく頷いている。話の内容とシズの口にした感想がズレておらず、意図した通りの意味でシズが理解してくれた、しかもシズはそこからきちんと気付きを得てくれた。話した甲斐があったというものだ、そう言いたげな快い表情を浮かべて、チエは椅子に深く腰掛け直した。
「どういたしましてっ。やっぱり、しぃちゃん見違えたよ。お母さんの励まし、効いたみたいだね」
「うん。すごく嬉しかったよ。お母さん、わたしに『シズはシズで、他の誰でもないんだよ』って言ってくれてね。ああ、わたし、ここにいてもいいんだ、ここにいられるんだ。そう思うと、なんだかとても楽になったんだよ」
「いいなあ……シズちゃんのお母さん、すっごく素敵だね」
スギナからもらった言葉を反芻する。自信や自分の存在意義を失いかけていたシズにとって、スギナの言葉は深く深く響くものがあった。自分の代わりはいないし、誰かの代わりになる必要もない。いつも自分をスズやツクシと比較して、二人にあって自分には無いものばかり見ていたことを思い出す。二人にはなくて、自分にはあるものも存在すると分かったとき、シズは肩の荷がすっと降りていく気がしたのだ。
幾ばくかの間を挟んでから、チエが再び、おもむろに話を切り出した。
「ねえ、しぃちゃん。実はね、私もやってみたいことがあるんだ」
「やってみたいこと? どんなことかな」
「高校を卒業して、大学を出たら――将来、ヒワダに会社を創りたいんだよ」
前触れもなく「将来ヒワダで起業したい」と言ったチエに、シズは文字通り目をまん丸くした。
「か……会社!? ちぃちゃん、それ、どういうこと……?」
その次の瞬間には、反射的に質問を浴びせていた。質問の内容が大掴みすぎて判然としないが、それは即ちもっと詳しく話を聞かせてほしいというサインに他ならなかった。これまでチエが会社を設立したいなどと口にしたことは一度もなく、シズにしてみればとても唐突な話に聞こえたのだ。
「えっとね……考えてるのは、オーダーメイドのモンスターボールを作る会社だよ」
「お客さんと話をして、こういうボールが欲しい、っていう注文を受けて、それから必要な数だけ専用のボールを作る」
「ぼんぐりの種類選びから始まって、制御装置に書き込むプログラムの仕様を決めたり、加工の方法を選んだり、デザインの案を出してみたり……変えられるところは、たくさんあるからね」
チエが構想している会社の業務。その内容を紐解くと、顧客の要望に合わせたカスタムモデルのモンスターボールを作ることを目的としていた。シズはチエの話に興味津々で聞き入っていた。
「すごいね、ちぃちゃん。そういえば、そういうことをしてる会社って、確かにありそうで見かけない気がするよ……」
「別の地方だと、似たことをしてる会社はあったよ。ただそこだと、モンスターボールのメーカーからOEM供給を受けて、既存のボールにカスタマイズを施すってところまでみたい。ぼんぐりから作るってところは、まだ見当たらないよ」
「……ち、ちぃちゃん。ちょっとごめんね。『おーいーえむ』って、何のこと?」
「あ、ごめんごめん。これはね、簡単に言うと、『他の会社のブランドの製品を作ること』っていう意味だよ。なんとか電機がなんとか電機ブランドで発売してる製品は、実はほにゃらら工業が製造してる。そういう関係のことを指すんだよ」
「へぇー……なんだろう、ヘンな言い方だけど、ゴーストライターみたいなもの……かな?」
「『有名な人に完成品を提供して、有名な人の名前で売る』って言われると、ゴーストライターをイメージしてもおかしくないよね。でも、有名な会社も多いし、契約もしっかりしてるのが普通だから、ちょっと別物かな。どっちがいい悪いじゃなくて、お互いに雰囲気は違うと思うよ」
チエはちょっとごめんね、と断って、手にしていたタブレットを座席に置くと、すぐ近くに設置されていた自販機へ向かい、カードをかざして飲み物を買って戻ってきた。手には「ミックスオレ」の缶が握られている。そろそろチャージしなきゃ、と言うチエに、お財布を持たなくてもいいから便利だね、とシズが笑って応じる。
「けど、会社を創る、かあ……最初聞いたときは、ちぃちゃんガンテツさんの後継ぎになるのかな、って思っちゃった」
「うん。小学生の頃はね、お爺ちゃんの後を継ぎたいって思ってたよ。いつも仕事を側で見てて、かっこいいなー、あんな風になりたいなー、そういう風に思ってたから。だけど、今は私よりうんと腕のいい職人さんが、たくさんいるからね」
「ニュースとかでもたまにやってるけど、技術の継承がうまく行かないってよく言われてるよね。でも、それなら心配は無さそうだよ」
「そうそう。お爺ちゃんもすごく気にしてて、どうすればボールを作る技術を若い人に伝えられるかって、私が生まれるよりももっと前からずっと悩んでたみたい。お父さんは就職してたしね。いっつも難しい顔してたから、周りの人には生涯現役、死ぬまで最前線、弟子なんて絶対取らんぞー、っていう風に見えてたみたいだけど、全然逆だったんだって。技術を伝えたいけど、その方法を探すのに時間が掛かってたって言ってたよ」
「そっか。ガンテツさんが難しい顔してたのは、伝え方を考えてたからだったんだね」
「うん。それでね……私、小さい頃からよくお爺ちゃんと二人で仕事場にいて、ちょこちょこお手伝いとかしてたんだけど、お爺ちゃん時々すごく寂しそうに『チエはお爺ちゃんが怖くないか』って訊いてきたっけ。それがすごく印象的で、お爺ちゃんって繊細なんだあ、って思ったよ。もちろん『怖くないよ、大好きだよ』って言ってあげたけどね」
「ええっ、それ、ちょっと意外だよ……わたしが知ってるガンテツさんって、そんなこと絶対言いそうにないイメージだったから……」
そうだよね。イメージって絶対あると思う。しぃちゃんのイメージももっともだよ、だってさ――と言いながら、チエがこんなエピソードを明かした。
「前にお父さんと一緒にいるときに聞かされたお話だよ。私のお父さんって、今シルフの子会社でモンスターボールの品質管理に関わる仕事をしてるんだけどね、大学生の頃は『卒業したら絶対後継ぎになれって言われる』と思ってて、就職なんて許してくれないと思ってたんだって。お爺ちゃん、仕事一筋だったし」
「でも、どうしても今の仕事に興味があって、就職したかった。だからものすごく悩んで、いっそ家出しちゃおうか、それとも絶縁覚悟で正直に話してみようか、それくらい悩んだみたい。それで、ええいもうなるがままよ、って腹を括って、お爺ちゃんに『卒業したら就職させてください! 勘当されても恨みません!』ってそれはそれは全力で頭を下げたんだって」
「けど、そしたらお爺ちゃんが呆然として『就職なんて自分の思うようにして全然構わないのに、息子にそこまで頑固だと思われてたのか……』ってまるっきり想定の範囲外の反応しちゃって。もう見たことないくらいのドン凹みだったみたい。最初に頭を下げたお父さんの方が『俺が悪かった、しっかりしてくれ親父』みたいになって、何の話だったのかちっとも分からなくなっちゃったんだって」
「お爺ちゃんは死んだひいお爺ちゃんからボールの作り方を叩き込まれたんだけど、それがもう滅茶苦茶厳しくて、すっごく大変な思いをしたんだって。いっぱい殴られたって言ってたしね。表向きは真面目に聞いてるふりしてたけど、心の中で『俺は絶対にこんな教え方はしない』って誓ったって言ってたよ。そんなことがあったから、お父さんにはやりたかったらやらせる、そうじゃなきゃ無理はさせない、って感じで教えてたみたい。もちろん、無理やり後継ぎにさせようって気もさらさらなかったんだって」
「で、落ち着いてからちゃんと話したら、もちろんいい、是非やってこいって言われてね。同じモンスターボールを扱う仕事だし、何かあったら相談に乗るって励まされて、お父さんすごく勇気づけられたんだって。今でもよく笑い話になってるよ」
でも、おかげで余計な悪い感情を持たずに、モンスターボールの製造工程に純粋に興味を持てたままいられた。俺が知りたいと思ったことを尋ねたら、親父は武骨な調子だったけどいつも誤魔化さずにきっちり教えてくれた。ずっと興味を持ったままいられたから、系統は違うけど同じモノを扱う仕事に巡り会えた。好きだと思える仕事を地道に続けてきて、今じゃ会社でも一目置かれる存在になれた。だから俺は親父に感謝してる、お父さんはそう言ってたよ。すっごく嬉しそうだった――チエは一息にそう語ると、手にしていた「ミックスオレ」を一口すすった。
「でもね、お爺ちゃん、こんな風に思ってて」
「ひいお爺ちゃんにきつく教え込まれたボール作りだけど、作る工程自体はすごく好きで、とても奥深いものだって思えるようになったんだって」
「今もいろんな地方からトレーナーさんがひっきりなしに来るし、このまま技術を自分の代で終わらせるのはよくないって思った」
「だからお弟子さんを取って、自分の技術や知識を伝えていくことにした。そう言ってたよ。自分はもう年寄りだから、知ってることはどんどん伝えていこう。飲み込みやすい形に噛み砕いて、若い世代に吸収してもらおう。若い世代に知恵袋として使ってもらおう、それで新しい知恵袋になってもらおう――って」
頑固一徹でとにかく厳しい人だとばかり思っていたガンテツは、実はとても繊細で思慮深い人柄の持ち主だった。チエの話を聞いたシズは、それまでの一面的なガンテツのイメージが塗り替えられ、より奥行きを持った構図になるのを実感していた。
「話がだいぶそれちゃったから、ちょっと戻すね。今はジェネリックな……ええと、汎用的なプログラムを書き込んだ装置を埋め込むのがほとんどなんだけど、そこを改良してみたくて」
「特定のポケモンの捕獲に完全特化したボールとか、中に入るのを怖がるポケモンのために符号化を時間を掛けて行うボールとか、パスワードを入力しないと捕獲機能が使えないボールとか。欲しい人は確実にいるけど、大きなニーズが少なくて製品化が見送られてるボールって、たくさんあるんだよ」
「そういう特殊なボール自体は、作ろうと思えば作れるよ。いろんな地域にあるサファリパークみたいな施設でだけ使える『サファリボール』『パークボール』もそうだし、海女さんが海に棲んでるポケモンを捕まえるために使う、水圧や海水に対する耐障害性の向上や海棲種への捕獲機能強化が施されたボール、通称『海女球(あまきゅう)』なんてのもあるんだ。でも、ニーズが限られてて大量生産できないから、通常の流通にはうまく載せられない」
「だから、トレーナーさんの欲しいものをじっくり聞いて、それに合わせたカスタムのボールを少しずつ作れたらいいな、って思って」
「職人さん達とも話して、そういう会社があれば是非働きたいって言ってもらえたんだ」
「私はお爺ちゃんや職人さん達に比べて、ボールそのものを作るのはへたっぴでいまいちだったけど、制御用のプログラムを書くのがとっても好きで、お爺ちゃんからも『チエに書いてもらえると助かる』って言われて、それがすごく嬉しかった」
「自分でプログラムを書いて、将来はお爺ちゃんみたいにそれをみんなに教えていけたらいいな、って思ってる。それを仕事にして、ヒワダに仕事が創るのが、私の夢だよ」
「それで、いろんな地域や地方で、『ジョウト地方のヒワダタウンってところに行けば、ちょっと変わったボールを作ってもらえるぞ』って噂になればうれしいな。そんな風に思ってるよ」
熱っぽく語るチエに、シズも同じく熱心に耳を傾けていた。将来の話をするチエはとても楽しそうで、そして活力にあふれていた。明確な目標を持って、そこに向けて真っ直ぐ進もうとしている。
少し前なら、こんな真っ直ぐなチエに比べて自分は……とまた卑下してしまっていたことだろう。だが、今はそんな気持ちは欠片も沸いてこない。むしろこちらも一緒になって心が熱くなってくるほどだ。純粋にチエを応援したくなるし、自分も志を強く持ってひたむきになろう、そういう風に考えることができるようになっていた。
「ちぃちゃん、それすごいね! 楽しそうだし、可能性もあるよ。よし、わたしももっと腕を磨かなきゃ」
「まだまだ細かいところを決めないといけないし、たくさん勉強しないといけないよ。大変なことは山ほどあると思う。でも、いつかきっとやってみせるよ。私、やるって決めたんだもん」
「わたしもちぃちゃんを応援するよ。少なくとも、向こうしばらくはヒワダにいることが決まったしね。もしジムリーダーが別の地域に住んでたら、あれ? ってなっちゃいそうだもん」
「あははっ、確かにそうだね」
「それに……ジムにはいろんな地方からトレーナーが来るから、もしかするとそこでお話を聞けたりするかもね。これこれ、こういうボールが欲しいとか」
「そうそう! ちょうどね、そんなことも考えてたんだ。しぃちゃん達と情報交換できたら、もっと可能性を広げられるんじゃないかって」
「いいね! わたしもお話を聞いてみるようにするよ」
シズとチエが揃って朗らかに笑う。シズの屈託の無い笑みが、二人の間に流れる雰囲気を何よりも明瞭に表していた。
「あっ、そういえばしぃちゃん、これ、『タブレット』っていうのかな?」
「そうそう。この間お年玉を下ろして買っちゃった。どうしても欲しかったから、ずっとお金を貯めてたんだよ」
二人はそのまま暫し、歓談に興じた。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。
※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。