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S:0007 - "Magician's daytime."

「?!」

ともえは一瞬、何が起きたのか分からなかった。

「あ、あれ……? あれれ……?!」

空子が指をパチンと鳴らした瞬間、自分の手の中にアップルティー入りの500mlのペットボトルが納まっていたのだ。知らぬ間に手にしていたそれは、今さっきまで冷蔵庫で冷やされていたかのように、よく冷えていた。

「ふふっ♪ ともえちゃんがお望みのものは、それかしら?」

「い、いつの間に、アップルティーが……?!」

ともえは突然現れたアップルティーをまじまじと眺めながら、狐につままれたような表情を見せていた。空子はともえの様子を、とても楽しそうに見つめている。

「う、上から……?」

天井を眺めてみるが、そこは一面、白い壁紙が張られただけのごく普通の天井だった。上から何かを落とせるような仕掛けは、影も形も見当たらない。少なくとも、上から落ちてきたわけではなさそうだった。

「びっくりしたでしょ? せっかくだから、飲んでみてくれないかしら?」

「え、えと……はい……」

落ち着かない様子でペットボトルに手を掛けて、ともえがアップルティーの蓋を開けた。そのまま、恐る恐るペットボトルに口をつける。

「……んくっ、んくっ……」

ペットボトルを傾け、ともえはアップルティーを飲む。ごく普通に飲んでいる様子を見ると、これといって変わったところは無いようだ。

「……ぷはぁっ」

「どう? 普通のアップルティーでしょ?」

「はい。いつも飲んでるのと、同じ味です。でも……このアップルティー、どこから、どうやって持ってきたんですか?」

ペットボトルの蓋を一旦締めて、ともえが空子に問い返した。空子はにっこり笑って、しきりに首をかしげるともえに一歩近づく。

「そうね……ともえちゃん。実はね、あたし二つくらい、ともえちゃんに話してないことがあるのよ」

「えっ……? わたしに、話してないことですか?」

「そうよ。じゃ、まず一つ目から話すわね」

そう言うと、空子はともえの目をじっと見つめながら、こう切り出した。

「そのアップルティーはね……」

空子は――

 

「実は、あたしが魔法で出したものなのよ」

 

――と、ともえに答えた。

「……………………」

「……って、ともえちゃん? ともえちゃん?」

ともえが完全に硬直している。驚きのあまり、目は全開き、口は半開きになったともえの(とても)間の抜けた表情に、空子が思わず突っ込んだ。手のひらをともえの目の前で上下に動かし、ともえの注意を引く。

「……はっ! ご、ごめんなさいっ! すごくびっくりしちゃって……」

「まあ、そりゃそうよねぇ……ともえちゃんの反応のほうが普通よね、やっぱり……」

「ご、ごめんなさい……でも、いきなり『魔法』って言われて、何がなんだか分からなくて……」

しばらくしてから、ともえはどうにか驚きから立ち直り、表情を元に戻した。それを確認してから、空子がさらに続ける。

「でもってね……実はあたし、人間じゃないのよ」

「人間じゃ……ないんですか?」

「そう。魔法が使える女の人。ともえちゃんは、こういう人のことをなんて呼ぶかしら?」

「魔法が使える女の人……」

こう問われたともえは、少し間を空けてから、ゆっくりと口を開く。

「ま……」

「ま?」

……そして。

 

「……魔法使いさん?」

「がくっ」

 

あまりにストレートすぎるともえの答えに、空子は素でずっこけた。

「ち、違いましたか?」

「い、いやぁ……確かに魔法は使うし、というか今使ったばっかりだし、ぶっちゃけ間違ってるとは言えないんだけどさ、ほら、こう、もうちょっと別の言い方というか、呼び方があるじゃない。それよ、それ」

「えーっとぉ……」

ともえが新しい答えを考え始めると、すぐに思い当たるところがあったのだろう。ポンと手を打った。

「分かりました!」

「んむ。ささ、言ってみてちょーだい」

「魔導士さん!」

「だはぁ」

元気よく答えを外すともえに、空子はふたたびずっこけた。こけ方が先程より少々派手になっている。

「あれ? これも外しちゃってますか?」

「んー……なんかこう、さっきより若干遠くなってるというか、難しく考えすぎじゃないかしら?」

「そうですか……」

よろよろと立ち上がりながら、空子が更なる答えを促す。ともえは軽く腕組みをして考えてから、また新しい答えを考えたようで、空子に澄んだ瞳を向けた。

「今度は当てて見せます!」

「よぅし! さ、言ってみて言ってみて!」

「魔術師さん!」

「どはぁ」

二度あることは何とやら。空子は前につんのめった。ともえの無邪気な元気さ加減が、空子のダメージを更に高めているようである。

「あ、そういえば、魔術と魔法は違うんですよね。使い手が五人しかいないのが魔法で……」

「いや、それ違うから! そういう二次創作じゃないからこれ! それは違うから!」

「そうでしたか……ちょっと残念です」

「いやまぁ……とりあえずそれは違うから、ね……」

しきりに「違うから」サインを出す空子。苦労が絶えない様子が伝わってくる。

「むー……なかなか、難しいですね」

「いやー……こう、考えれば考えるほど答えから遠ざかってるような気がするんだけども……」

不安げな様子の空子に、ともえはまた手をぽんと叩いて、新しい答えを考え出した。

「……それなら、考えたのをどんどん言っていきます!」

「いいわ、それでいきましょう!」

「はい! 空子さん。わたしの答えが当たってたら、当たりっ、って言ってください!」

「いよっしゃ! さあともえちゃん、遠慮なくかかってきなさい!」

もはや二人とも当初の目的を忘れつつあるが、ここに来て微妙にヒートアップした戦いが始まってしまったので、このまま記録を続けなければならない。

「奇術士さん!」

「マジックもできるけど違うっ!」

「幻術士さん!」

「そこはかとなくSLGやRPGのジョブにありそうだけど違うっ!」

「法術使いさん!」

「少しだけ戻ってきたけど違うっ!」

「人形遣いさん!」

「あたし女なのに大泣きしちゃったけど違うっ!」

「魔法人形さん!」

「レベルが100になるデバッグアイテムを持ってないから違うっ!」

「魔法先生さん!」

「そんなにたくさんヒロイン出せないと思うから違うっ!」

「魔法少女さん!」

「うっおー! くっあー! きたーっ!! それ略してーっ!! それの最初と最後の文字を取って一つの単語にしてーっ!!」

空子はさりげなく答えを言ってしまっている。それにしてもこの二人、ノリノリである。特に空子のテンションがやばい。

「ま……」

「ま?!」

 

「魔女さんっ!」

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。