トップページ 本棚 メモ帳 告知板 道具箱 サイトの表示設定 リンク集 Twitter

#06 晴れを呼ぶ少年

ここに来て四日目のこと。だいぶ待たせちゃったわね、前置きなしにいきなりそう言ってきた清姉が、うちに手渡してきたのは。

「ていうかさ」

「ん?」

「なんでオタマロなの、キーホルダー」

「趣味」

「顔がムカつくんだけどこいつ」

「そう? 可愛げあると思うけどねぇ。ま、失くさないようにしてちょうだい。そのスペアキー」

オタマロのキーホルダー……が付いた、この部屋の合い鍵だった。管理会社に連絡して取り寄せた、とか言ってた。後で返却しないといけないらしい。この部屋は一時的に借りてるようなもんだから、当然っちゃ当然だ。知らない人がのんびりしてるところに突然うちが入ってきたら即通報モノだろう。微妙な笑顔がうちのイライラをすくすく育ててくるオタマロのキーホルダーは別として、合い鍵をもらえたのは素直に嬉しかった。これで清姉が家にいない時でも自由に出かけられるようになった、ってことだから。

「まぁでもこの雨降りじゃ、お日様の下で元気に遊ぶってわけにもいかないでしょうけど」

「ほんとちっとも止まねーな、このくそみたいな雨」

「観測史上最大雨量更新だとか、過去に前例がないとか、毎日わいわい言ってるし」

「うちと清姉が船で来たときからずっとだろ? もうちょいで二週間じゃん」

「ね。どーも本格的にヘンな天気みたいだわ、こりゃ」

半端ねーな、二週間止まない雨とか。いつか晴れる、いつか晴れるって思ってるけど、朝起きる度に目に映る薄暗い空と耳へ飛び込んでくるしとしと音で、その思いはしれっと裏切られる。一昨日も雨、昨日も雨、今日も雨。きっと明日も明後日も。トウキョシティの都市機能は強固にできてるから、この程度の長雨じゃビクともしない。頭で理解してても、心細さを補うまでには至らない。このままずっと晴れが来なかったらどうなるだろう? 布団に入って眠る前に時々そんなことを考える。世界の形が変わってしまうようなうすら寒い感覚、すぐ嫌になって、代わりに明日は何のブキ使おうとか考えるようにしてる。何かチャージャー使ってみてえな、かっこいいし。

「あとさ、知り合いから聞いた話なんだけど」

「何?」

「フツーの雨だったらさ、ポケモンになんか技使わせてちょっとの間止められるっしょ。えーっと確か」

「『にほんばれ』だっけ」

「それそれ! それよそれ!」

にほんばれ、またの名を「似本晴れ」。短い間だけど本物の晴れそっくりの空模様を作れるポケモンの技で、雨が降っていても無理やり止ませられるっていう結構すげえ技。ずーっと降ってるくそみたいな雨を止めたいって人は当たり前だけどいっぱいいて、何人もが自分のポケモンに「にほんばれ」を使わせた。でも今の今まで成功したって話はさっぱり聞かない。Twitterで「にほんばれ」とか「似本晴れ」って入れて調べてみても「雨止まない(顔文字)」とか「またうまくいかない(絵文字)」とか、失敗したって報告しか出てこない。誰も晴れさせられてないってことだ。

「その技使って止めようとしたんだけど、何度やっても失敗するって言ってたのよね」

「うちもちょっと前に聞いた。誰が何回やっても百パー失敗するとかで、トレーナーの間で噂になってて」

「おかしな話ねえ。普段できることがうまくいかないなんて」

一体何が雨を降らせてるんだろうな、時折そんなことを考える。普通に考えれば雨雲だ、雨雲以外にあり得ない。けど、これだけ雨を降らせてなお消えない雨雲って、一体なんなんだろうか。まるで何かが雨雲を生み出し続けて、終わらない雨を降らせてるみたいだ。終わらない雨、嫌な記憶がよみがえる。あの時の――年初の雨も普通の雨じゃなかった。後で教えてもらったよ、あれを降らせてたのが一体何なのか。

(カイオーガ。いるはずがないって言われてた、神様のようなポケモン)

ムロの北にある石の洞窟とかいう湿っぽい場所にある壁画、その題材に選ばれたデカい魚みたいな青くて蒼くて碧いポケモン。そいつがカイオーガだ。どっかのくっそ迷惑な自己満団体が、海の奥底でグースカ寝てたそいつを叩き起こしたらしい。それでホウエン全体にバカみたいに雨を降らせて、あっちこっちでとんでもない被害が出たって聞いた。伝説のポケモン・カイオーガが大雨を降らせた、これは冗談とか噂話とかでも何でもなくて、政府とかの偉い人が公式に言ったこと。カイオーガのおかげで、うちらは酷い目に遭ったってわけだ。

にしても、雨にはロクな思い出がないから困ったものだわ、清姉が少し物憂げにつぶやく。いつものテキトーでお茶らけた空気がぐっと薄らいで、辺りの酸素もつられて薄くなったように感じた。軽い息苦しさを覚える。いい思い出がないのはうちも同じだったから。自分の中にある雨の日の記憶も、それはそれは酷いもので。

ああもうダメだダメだ、外がしとしとジメジメ鬱々なのにずるずる引きずられて、うちもネガティブ思考がじわじわ伸びてきてる。んなもん気の持ちようだろ、切り替えだ切り替え、なんか別のことしてスカッとしよう。

「悪い、清姉。うち、ちょっと出かけてくる」

「お、早速役に立ちそうね。どこでも行ってらっしゃい」

「行こう、ミナ」

ミナに声を掛けると、うちに向かってすっ飛んできた。体を動かしたくてうずうずしてるって顔だ。うちも同じ気持ち。やる気は十分、体力は満タンだ。

夕飯くらいまでには帰ってきてちょーだい、そんな清姉の言葉に見送られて、うちは傘を手にマンションを飛び出していった。

 

気力体力どっちも充実させて、いろんな意味で余裕を持ってみると、同じものでも見え方がだいぶ違う。前に手も足も出ずに連戦連敗しまくったバトルフィールドを眺めてても、今日はいい試合ができそうだって思える。強がりとか油断じゃなくて、心の底からハッキリと明瞭に。うざい雨が降ってようが今日も変わらず盛況、どんな相手が出てくるのか楽しみでしょうがない。いいな、この感覚。取り戻せて良かった。

空いたフィールドの陣地に飛び込む。同じく向かいの陣地にもトレーナーが入った。ちゃんというとトレーナー「たち」。似た顔・似た背丈・似た服装の女子二人、よく「ふたごちゃん」って呼ばれてるタイプ。行くよカオリ、がんばろシオリお姉ちゃん。ふーん、シオリが姉でカオリが妹、ってとこか。きっとダブルバトルになるに違いない。

「行ってきて! オニオン!」

「がんばれ! サブレ!」

シオリが繰り出してきたのはニックネーム「オニオン」のマッギョ。何がどうオニオンなのかは分かんないけど、あんまり相手をしたことのないタイプのポケモンだ。図鑑とか読んでかろうじて特徴は知ってるってくらい。相方のカオリが出してきたのはニックネーム「サブレ」のハトーボー。これは分かる、なんでサブレなのか分かるぞ。分かるけどお前ちょっとそのニックネームはないだろう、お土産のお菓子じゃないんだから。肝心の特徴だけど、ハトーボーはマメパトって小さな鳥ポケが進化したやつ。こっちで言うところのピジョンポジション。タイプ相性ではミナが有利だけど、基礎能力でちょっと差がある。良くて五分五分ってところかな。

トウキョでのデビュー戦だよー、イッシュのパワーを見せたげてー。シオリとカオリがわーわー言ってる。カオリの言う通り、どっちもイッシュ由来のポケモンだ。たぶん二人してそっちへ旅行した時に捕まえて来たんだろう。いいなあ、うちも行ってみたい。テレビでしか見たことないもん、イッシュとか。

「まーずいぶんと異国情緒豊かなタッグじゃん。カロス勢として、うちらも負けてらんないね」

「うきゅ!」

ミナと目を合わせる。ミナが力強くうなずく。心強い、すごく頼もしい。うちの側にいてくれるミナ、やっぱり最高の相方だって思わずにはいられない。

一対二。頭数ではどうやっても覆せない差がある。まずこれは事実として認識しなきゃいけない。少が多をひっくり返すのは容易じゃない、と言うか無理ゲー。過剰な自信を捨てて現実を受け入れてから、じゃあどうするかを考えるべき。手持ちのカードを整理する。こっちはエリキテルのミナ、向こうはマッギョにハトーボー。ハトーボーはひこうだから得意の10まんボルトが刺さる、マッギョはみずと思いきやでんき/じめん、だからなみのりが効く。どっちにも有効打はある、キツいけどまったく手も足も出ない訳じゃない。

よっしゃぁ! だったら当たって砕けろだ! やってみなきゃ分かんねえ! ぐっと構えて相手を見据え、ミナに指示を出そうとした――まさにその時。

「飛び入りっ!」

「えっ?」

うち一人だけが立ってたフィールドへ、何の予兆もなしに人が飛び込んできた。人って言うか男子、面識の欠片もない赤の他人の男の子。しゅたっ、と隣に着地して、しゅぴっ、とこちらに視線を向けて来た。瞳をめっちゃキラキラさせながら。いや、誰だこいつ。名前も顔も知らないんだけど。

「おい、誰だよお前」

「ダブルバトルでしょ? 僕も一緒に戦うよ。これで二対二だね」

やろうとしてるのは確かにダブルバトルだけど、うちの質問の答えになってねえぞ。どうなってんだ。大丈夫かこいつ。

「僕の相棒を紹介するよ。キマワリのサニーっていうんだ!」

「キマワリ……?」

男子が見せつけて来たモンスターボールを覗き込むと、二足歩行するヒマワリみたいなポケモン、キマワリが中に控えているのが見えた。っておいおい待て待て待て、キマワリってあれじゃん。うちだって知ってるぞこいつの特徴くらい、基本的なところはうちみたいなトレーナーの端くれだって押さえてる。だからこそツッコまざるを得ない。

「お前さ、キマワリがどんなポケモンかちゃんと知ってんのかよ。太陽出てねえとロクに動けねえんだろ?」

「そうだよ! お日様の光が栄養だからね。さすが旅のトレーナーさん、よく知ってるなあ」

「あー、えーっとさ、他に誰か連れてないわけ?」

「うん! サニーが僕の相棒だからね!」

なんでやねん、なんでそない自信満々やねん。あかんわこれ、全然分かっとらんやんけ。思わず静都弁になってしまうくらいがっくり来てしまった。頭数が増えたところで、天気の概念があるのか怪しい男子と、雨降りでパワーが発揮できるとはとても思えないキマワリ。あーもう分かってねえ、ほんっとに分かってねえ。これならまだうち一人の方がまだマシだったんじゃねーか。そう思わずにはいられない。

「いやいやいや、お前空見てみろよ、思いっきり雨降ってるじゃねーか! なのに――」

なのに。そう言いかけたところで、少年が口を開く。

「晴れるよ。これから、すぐに」

えっ。言葉が止まる。この子、今なんて言った? 晴れる、今すぐに? どういうことだろう、何を意味してるんだろう。硬直するうちから目線を外して、男の子が空を見上げて――その小さな両手を、そっと重ね合わせた。

「見てて」

「雨が止むところを、陽の光が差し込むところを」

お前何言ってんだ、しょうもないこと言ってんじゃねえ、普段ならそんな風に言い返してた。絶対そう怒鳴ってた。でも今だけは違う。眼前に立つ少年が空へ願う姿に、言葉も気持ちもすっかり棘を抜かれて、ただ素直に成り行きを見守るだけの状態になってる。有無を言わせぬ力があった。人間には何の手出しもできない、神の御業を目の当たりにしているかのようで。

(……音が、止んだ?)

何の音? 雨の音。傘を叩いていた雨粒が姿を消して、地上にできた水たまりから波紋が消滅する。辺りがざわついている、うちの心もざわめいている。

無意識のうちに傘を閉じて空を見上げる。分厚い分厚い黒い雲、地上を濡らす雨をもたらす雲。ずっとずっとトウキョシティの空を支配していたそれを、何かが静かに切り裂く。

できた空間から差し込んできたのは――眩しくて明るい、煌めく太陽の光、だった。

「あーっ! 晴れになった!」

「すごいすごい! 久しぶりのお日様だぁ!」

驚きのあまり歓声を上げるふたごちゃん。その声でうちは現実へと回帰する。雨が止んだ、本当に止んだ。あふれる光が自分を、ミナを、そして隣に立つ男の子を、力強く照らしている。

「ホントに……雨が止んでる、陽が差してる……」

「へへっ、言ったでしょ? 晴れるよ、って」

太陽の光を背にして笑う。それはまるで、それはまるで。

彼自身が、太陽として煌めいているかのようだった。

「よーし! これで全力出せるね! 僕のサニーも、君のエリキテルも!」

「あ――う、うん!」

行くよサニー! 少年の手から空へ放り投げられたモンスターボール、そこから満を持してキマワリのサニーが飛び出す。陽光を浴びたサニーは大輪の花を大きく咲かせて、全身に力を漲らせてる、こいつは頼もしい。ミナだって負けてなんかないぞ。バチバチと溢れるエネルギーが目に見えるくらいだ。よし、これなら行ける、行けるぞ! フルパワーだ! さっきまでの後ろ向きな気持ちは文字通り一掃されて、あるのは全力でぶつかってやるぜって前向きな闘志だけ。

「行くよ!」

「うん! サンパワー全開!」

ミナとサニーが足並みをそろえて、一気に相手との距離を詰めた。

「来た来た! オニオン、お出迎えしちゃえ!」

「サブレもいっしょに、おもてなししちゃおう!」

向こうも気後れしちゃいない、先に突っ張ってきたのはマッギョのオニオンだ。サブレの前へ躍り出ると、平べったい顔を風船のように膨らませて、その口から濛々と湯気を立てる「ねっとう」を噴き出した。サニーっ! と男の子の叫ぶ声が飛ぶ、サニーはキマワリの頼りなさそうな脚とは裏腹にシュッシュッと俊敏に動いて、ミナの前に立ちふさがった。熱湯をその身で受ける形になったけど、もとよりサニーは水と熱を好む性質、ちっとも効いていない様子だ。ぷるぷると顔を振って、まとわりついた水滴を落とす余裕っぷりまで見せてる。

まだまだ、とシオリが声を上げる。指示を受けたオニオンがバチバチと音を立ててるのに気付いた。何がしか電気技が飛んでくる、うちの読みは当たった。ミナ、サニーの前へ出て! この指示だけでミナに全部伝わった。サニーに向かって行こうとする「でんきショック」をミナがブロックする。攻撃を立て続けに防がれて、マッギョがちょっとだけ焦ってるのが見える。ぬぼーっとした顔つきはあんまり変わらないけど。ヤバいと感じたっぽい、待機してたサブレがマッギョのアシストに回って来た。狙いは相性有利のサニー、攻撃集中で頭数を減らしに行くのはダブルバトルでよくある風景。珍しいことじゃない。

「させるか!」

ミナが「でんきショック」でサブレを牽制する。ジャブくらい小技とは言え、陽の光を浴びて電気を溜めこんだそれは侮れない威力がある。それが分からないほどサブレも猪突猛進じゃない。サニーへの突進を途中で切り上げて、まだ安全な空中へと退避する。オニオンとサブレ、二人の波状攻撃をうちとミナでさばいている間に、男の子とサニーもただ突っ立ってたわけじゃない。しっかりと大地に足を付けて、降り注ぐ太陽光を力に換えて。

「そこだ! 『だいちのちから』!」

地面を走る強烈な衝撃波。大地の持つ力をひとまとめにして相手にぶつける大技だ。すっげぇ、実物初めて見た。あんなにカッコいいのか! うちが見惚れているうちに、衝撃波はまっすぐにオニオンを目指す。サブレ! カオリから声が飛ぶ、オニオンを捕まえて空中に退避させるつもりだ。空を飛んでればかわせる、だったらオニオンをとっ捕まえて上へ逃げればいい。なるほど、発想は悪くない。発想は。いい考えだと思うぜ、うちも。

「決めるよ! ミナ!」

「ぎゃう!」

実現できたら、の話だけどな! んなこと誰がさせるか! ここでまとめてぶっ飛ばしてやる!

「試してみな! 最後まで目を開けてられる度胸があるか!」

行くぜ必殺――!

「『10まんボルト』!」

トウキョシティに来てから初めて繰り出したミナの得意技。長い長い雨降りと負け続きで溜まったストレス、いっぱいに差し込む太陽の光、ここで決めれば勝てるっていう熱い気持ち、そのひとつ残らず全部を力にして、ミナの小さな体から爆発的なエネルギーが放たれた。ミナの10まんボルト、サニーのだいちのちから。迷わず叩き込まれる渾身の一撃。攻撃が着弾したのは、完全に同時だった。

空を舞うオニオン、そしてサブレ。地に足をしっかり着けたミナとサニーが、陽光に照らされて晴れ晴れとした顔をしている。

「わぁーっ! サブレーっ!」

「ひえーっ! オニオンーっ!」

シオリとカオリの声が、試合終了の合図になった。

「勝った……ミナたちが、勝ったんだ……!」

勝った。現実として認識できるようになるまで、自分でも信じられないくらい時間が掛かった。でも、確かな現実、間違いのない事実。うちとミナ、それから男の子とサニー、自分たちが勝ったんだ。何日ぶりだろう、試合に勝つってこんな感じだったんだ。心の内に留まっていた熱い感情がドッとあふれ出してくる。フィールドを燦々と照らす太陽、手をかざして影を作りながらその姿を拝む。信じられないほどの快晴、雲一つない完全な青空が広がっている。

あの太陽が、自分たちを勝たせてくれた。そう思えてならなくて、疑う余地なんてどこにもなくて。

「あーあ、負けちゃったぁ」

「でも、久しぶりに晴れたね、いいお天気だよ」

「だね! お母さんたちにも教えてあげよ!」

辺りが喜びに沸いている。無理なんてない、ずっと続いていた冷たい雨が止んで、夏に相応しい力強い陽光が降り注いでんだから。

「きゅーっ!」

「ミナ! がんばったね!」

全速力で走って飛び込んできたミナをしっかり受け止めて、そのままギュッと胸の中で抱きしめる。やっとミナに全力を出させてあげられた、やっとミナを勝たせてあげられた。サンパワーの効果でほかほかになった身体をそっと撫でる。ミナの感触、熱、匂い、声。全部がただ愛しくて、そんなミナがうちに心を寄せてくれるのが、ただただ嬉しくて。ありがとう、ミナ。あなたのおかげだよ。大切な相棒の耳元で、そっと感謝の言葉をささやく。他のやつには見せらんないな、こんな姿。

そして、ミナを抱く自分の隣に立っているのは。

「やったね! 僕らの勝ちだ!」

独りで戦おうとしたうちに、キマワリのサニーと一緒に飛び入りで助太刀をしてきた男の子。試合が始まる前に口にした「晴れるよ」の言葉が、幾度となくリフレインする。確かに言う通りだったよ、本当に快晴になりやがった。何があったのか分かんないけど、勝てたのは晴れだったからだけじゃない。こいつの――この男子とサニーが、うちとミナに力を貸してくれたからだ。

「雨ん中キマワリ……サニーだっけ。そいつを出すって言ってきた時はどうなんだって思ったけど、その、やるじゃん」

「勝てたのはキミとエリキテルのおかげだよ。ミナちゃんっていうのかな? かっこいいね!」

瞳をキラキラさせながらカッコいいなんて言ってくる。いや待て待て、何直球でこっぱずかしいこと言ってんだよ、よく分かんないやつ。

けど、けど、だ。性根の悪いやつじゃなさそうってのは、うちにだって分かる。

「そう言えば、まだ名前聞いてなかったっけ。教えてくれよ」

目線を逸らして気恥ずかしさを隠しながら、名前を訊いてみる。いつまでも「男の子」だの「少年」だの、まどろっこしいし。

「――僕は陽介、志太陽介だよ。よろしくね!」

陽介、志太陽介。

彼は確かに、そう名乗った。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。