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#08 事情を知らない都会の少年がグイグイくる。

サブウェイ。英語の辞書に載ってた「地下鉄」って意味しか知らなかったから、陽介に連れられて入ったときマジで何の店か分からなかった。散々キョドった挙句、三十秒くらいしてからサンドイッチ的なものを食べるところだって分かった。並ばずにオーダーできたんだけど、今度はどういう風に頼めばいいのかチンプンカンプン。ムロにあった「ペリドット」って喫茶店ならメニュー見て「これくださーい」って言えばよかったけど、サブウェイはなんか色々弄れるみたいで目が白黒した。かろうじて「ツナサンド」って言ってそこで止まってたうちに、あとはおすすめでよろしいですか? って気を利かせてくれた。お店の人が親切でよかったよ、本当に。

ダブルバトルをあちこちで何戦もしていい時間になったし、うちもミナもお腹が空いた。特にミナはサンパワーでエネルギーをいっぱい使ったから、もうペコペコ、って感じの顔になってたし。凄い力を出せるけど、その分エネルギーの消耗も激しくなる。命に関わるほどじゃなくて、単に早くお腹が空くだけって感じだけど、まあ腹が減っては戦はできぬ、って言うし。どっかみんなで食事できるところない? 陽介にそう訊ねて、おすすめの場所があるんだ、って返されて連れてこられたのが、何を隠そうここサブウェイだったというわけ。

「ああ……BLTはいいなあ、人類の英知の味がする!」

「なんちゅーものの例えだ」

ベーコンにレタスにトマト、頭文字を取ってBLT。陽介はこれが大好物らしい。スライスチーズとオリーブを追加するとおいしさ百倍だよ! らしい。いや百倍は盛りすぎだろう、甘々に見積もっても1.15倍くらいだと思う。トーストされたツナサンドを隣でもしゃもしゃ食べながら、幸せいっぱいって感じの顔でBLTを頬張る陽介を見る。ひょっとしたら陽介の脳内補正で倍率が上がってるのかもしれない。それでも2.75倍くらいが限度じゃないか。そんだけ上がれば充分だろって気もするけど。

ミナは食べやすい大きさにカットしてもらったチリチキンを一生懸命もぐもぐやっている。見てると可愛いけど、あんまりじろじろ見たら食べるのに集中できないからやめておこう。サニーの方は野菜を限界まで盛った野菜だけサンドをバリバリ食べてる。隠しメニューだとか。こんなの知ってるってことは、陽介はしょっちゅうここで食べてるってことなのかな。パッと見都会っ子って感じはあんまりしないんだけど。

というか、というかだ。こうやってなんか普通っぽく並んでサンドイッチ食べてるわけだけど、よくよく考えたら不思議なことだらけだ。飛び入り参戦した理由も分かんないし、抜けてるように見えてバトルのセンスは結構あるのも謎だし、そもそも名前以外陽介のことをなんにも知らない。バトルに夢中で意識が向かなかったけど、落ち着いてみるとこの男の子――陽介のことが気になる、すっごく気になる。なんとなくだけど、このままツナサンド食べ終わって、それじゃ、って別れるのは味気ない気がした。もう二度と会えなくなる、そう思うとなんか勿体ない気持ちになる。

(もう少し話してみよっかな、陽介と)

さっきまでバトルしてて普通に会話してから考えるのもおかしな話だけど、うちなんかが話しかけていいのか迷った。でも、陽介はうちが『影の子』って呼ばれてることを知らない。知らないなら知らないで、普通に話ができると思う。それこそ清音さんみたいに。まあ清音さんの場合、『影の子』のうちが不幸を持ってきても、平気な顔してダイナモローラーでぶっ潰しそうな人ではある、けど。

「あの、今更だけど」

「うん。なんでも言って」

「あんたと一緒にバトルしてて、その、楽しかった」

相棒の能力をしっかり掴んでて、敵の弱点を的確に叩いてくれて、うちの作戦を一発で理解して成功させてくれる。正直、うちが組んだ中では珊瑚の次くらいに冴えてた。基礎ができてないトレーナーだと足を引っ張られてるって気持ちになることもあったけど、陽介はそういうのがちっともない。全力で戦えたから、うちも陽介の足手まといにはならなかったはずって思ってるけど。

「うちは瑠璃、春原瑠璃。名前聞いといて教えないのはズルいから、これでおあいこ」

春原瑠璃。口に出す度違和感を覚える。昔はそんなでもなかったのにな。「その顔で『瑠璃』はねーよ」とか「名前が泣いてるぞ」とか、しょーもないこと言われまくったせいかも知れない。陽介はどう思ったかな、ヘンな名前だって笑ったりしそうだ、顔に似合わない名前だねって言われてもおかしくないよな、けど笑われたって文句は

「へぇ、瑠璃さんっていうんだ! ピッタリのいい名前だね!」

「えぇっ!? ちょ……ええぇっ!?」

思ってたのと全然違う反応が返ってきて思わず声が裏返る。ピッタリ? いい名前? 冗談か何かか……って一瞬言い返そうとしたけど、陽介の目は例によってキラキラしてて嘘とは全く思えない。こんな目をしながら嘘を付けるやつはいない、うちは確信する。

つまり――信じられないけど、本音の言葉、ってことで。

「あれ? 僕何かヘンなこと言っちゃったかな?」

「いや、だってお前、『瑠璃』だぞ?」

「うん、瑠璃さん」

「どう見たって『瑠璃』って顔じゃねえし」

なんてうちが言うと、じーっと、じーっと、じぃーっと、顔を見つめてから、物凄く何かに納得した顔をしながら「どこからどう見ても瑠璃さんだよ」なんて言ってきた。もう訳分かんねえ、なんだこいつ、なんなんだアンタ。

「瑠璃さんは、自分の名前嫌い?」

「えっ」

「僕は好きだよ。綺麗で覚えやすくて、瑠璃さんにはこの名前で決まりだって思う」

嫌いかどうか。似合わないって言われることはしょっちゅうあった、あったけど、瑠璃って名前が嫌になったことは無い気がする。からかわれる原因になったけど、でも確かに自分の名前だって思える。お父さんとお母さんがくれた名前だって思うと、嫌いになんてなれない。陽介の問いかけには「嫌いじゃない」って答えるのが正しい気がした。今の空気じゃとても言い出せないけど。

「口の利き方だってアレだし。なんだろな、『くたばれ』とか平気で言っちゃうし」

元々口が悪いってのは自覚してる。バトルになると尚更で、男子かよってからかわれたことは二度や三度じゃ済まない。お母さんからも「ちょっと熱くなりすぎね」って笑いながら言われて、恥ずかしいなあって思ったりしたっけ。陽介だってその辺バッチリ見てた、っていうか聞いてただろうし、こいつガサツだなーって思われてても何も不思議じゃ

「だよね! 隣にいてすっごく頼もしかったよ!」

「は!? いや……はぁ!?」

「すごいやる気だあって思って、僕も強くなった気分だったよ。うん!」

「えっ、そんな、そこまで」

「最初の試合の決め台詞なんてしびれちゃった! 『最後まで目を開けてられる度胸が……』」

「わーっ!! やめろバカ! 声でけえよ!」

とかなんとか言ってるうちの方がでかい声出してる。恥ずかしすぎる、バトルでテンション上がってる時に出て来たくっさい台詞を素面で言われるとか、もう新手の拷問か何かとしか思えない。やめてほしい、真剣に止めてほしい。陽介がマジでかっこいいと思ってそうなのが余計につらい。本当に勘弁してほしい。

なんだなんだこの陽介とかいう男子は、いちいちうちを滅茶苦茶にしてくるぞ。しかも悪意があるんじゃなくて超の付く天然のせいで。ヘタにからかってくるやつと違ってぶん殴って終わらせるってわけにもいかないから余計にたちが悪い。ぶん殴りたいか、っていうと、全然そんな気持ちじゃないけど。だって陽介の目がキラキラしすぎてて、ホントに綺麗な名前だとか痺れる台詞だって思ってるのが嫌って程伝わってくるから。

ああもう、名前だとか喋くりがどうこうってのは止めだ止め。話を切り替えちゃえ。うちにはこいつに訊きたいことが山ほどあるんだ。

「あのさ。さっきまでバトルやってたときに、必ず晴れただろ。空が。ずっと雨降ったのに」

「うん。いいお天気になってよかったよ」

「あれ、どういうこと? 晴れが来る場所が分かるとか?」

あれだけ目の前で見せつけられても、うちの常識ってのは未熟なくせに随分疑い深くて、まだちょっと半信半疑なところがあった。陽介の能力っていうのが、晴れが来る場所が分かる、くらいならまだ信じられそうな気がする。だから自然とこういう訊き方になった。

「もっと単純だよ。僕は晴れを呼べるんだ」

「手を合わせて空へ願うと、雨が上がって陽が差してくる」

「ほんの少し、数時間だけだけどね」

でも、陽介の答えは直球だった。ああ、やっぱりそうだったんだ。常識っていう思い込みを取り払ってみると、陽介の言うことが正しいって受け入れることができた。だってそうじゃないか、陽介が「晴れますように」って願を掛けたら、その通り空が晴れたんだから。そんなわけない、まだうちの「常識」が何か言ってるけど、もう信じる以外の選択はしないつもりだった。

あんなにハッキリと――止んだ雨を、晴れた空を、煌めく太陽を見せられたら、うちだって信じる。陽介の言ってることが正しいんだって。

「僕、雨が降ってるよりも、太陽が出てる方が好きなんだ」

うちだってそれは同じ。鬱々とした雨よりも、爽快な快晴の方がずっと気持ちがいい。

「ずっと、太陽を見たいって、僕もサニーも思ってたから」

だけど続く陽介の言葉で、それにはもう少し深い意味が込められていることを察する。無邪気で快活な表情ばっかり見せてた陽介の顔に、ほんの少しだけ儚い色が浮かんだ。太陽を見たい、そう強く願う理由が何かあったのかな。なきゃこんな顔にはならない、鈍感でガサツな自分でもそれくらいは分かる。空にいつも浮かんでいて、見ようと思えば好きなだけ見られるはずの太陽を望みたいと願う。なんだか、ホントに不思議な子だ。何から何まで、全部が全部。陽介、志太陽介。

顔と名前を覚えるのが苦手とか、そんなことグダグダ言ってらんない。覚えなきゃ、憶えとかなきゃ。心がそう強く訴えかけてきてるから。

「瑠璃さんって、旅のトレーナーさんだよね?」

「えっ? いやいや、そんないいもんじゃねえって。うちはただ家出してきただけで……」

家出してきただけ。確かにそうとも言える。けど、家を出て、独りで遠くまで来て、ポケモンバトルをしてる。ポケモントレーナーって言えば、そうとも言えなくもない? 気がしてきた。陽介に面と向かって言われると自分の考えが揺らぐ。ぐらぐら、ふらふら。

「トレーナーって言われればそうかも知れないし、けど……どうなんだ?」

「そっか! やっぱりトレーナーさんってかっこいいなぁ、憧れるよ!」

「あー、うん。まあ、そういうことで……」

「僕はずっとここで暮らしてるから、良かったら外の話を聞いてみたいな」

「あんまり面白い話は無いって。うちだってホウエンの隅っこにある小さな島から出て来たばっかだし」

「島!? 今島って言った!?」

「いっ!?」

ずずいっと顔が寄ってきて、うちが思わず後ろへ仰け反った。お腹いっぱいになって寝ぼけてたミナが驚いて飛び起きるくらいの勢い。陽介、顔寄せすぎ、食いつきすぎ。

「島ってことは、周り全部海なんだよね!? 海に囲まれてるんだよね!?」

「ま、まあそうだけど」

「どんな場所なんだろう、気になるよ! 聞かせて聞かせてっ!」

「あわわわわわ……」

ムロのこと話すったって、一体何から喋ればいいんだ? 隣の市に行くのに船に乗らなきゃいけないとか? いやそれくらい普通だろ。北に大きな神社があって三つのお社があるとか? こんなの話しても面白くねえだろ。コンビニがなくて商店街にある雑貨屋でパン買ってたとか? そんな話されてもダサいって思われるだけだし。海辺にポケモンがいて地域ごとに棲んでる種が違うとか? んなもんどこだって違うだろ。北の洞窟に「海神様」の壁画があるとか? あそこ有名だし知ってるだろうな。ああダメだ、全然面白いネタが見つからない。くそ田舎め、ネタもろくに出ねえのかよ。

あとは――昔からおかしな出来事や奇妙な事件が多く起きてて、そのせいでいろんな言い伝えだとか迷信だとかがある、くらいか。

(……うちが『影の子』だって言われてたこと、やっぱ陽介にも伝えなきゃ)

生まれ育った場所は何処へ行っても付いて回る。ムロはいつもうちのすぐ隣にあって、ムロでうちが同級生とかから『影の子』って言われてた事実も足並みを揃えて付いてくる。さっきは言わなくてもいいだろうって思ってた、もう少しこの陽介って男子と話がしたいって気持ちになってた。身の程もわきまえずに。だけど陽介は、うちが考えていた以上にうちに興味を持ってる。グイグイ来てる。それこそ、戸惑うくらいに。

でも陽介はうちに関わるべきじゃない。関わる人みんなを不幸にして、最後にはその命まで取ってしまう。みんないなくなって自分だけが残ったこの現実が何よりの証拠だ。周りの連中が薄気味悪がるのだっておかしくなんかない。それが自分、それが『影の子』としての春原瑠璃。清音さんのところにだってそう長くはいないつもりだし、陽介とも今より近しくなるのはいいことじゃない。自分の為にも、陽介の為にも。

「あの、陽介。ちょっと聞いて」

「どうしたの? 瑠璃さん」

「今日一緒にバトルしてくれて、感謝してる。こう見えても、すごく」

「わぁ……ありがとう! 僕もだよ! 僕もすごく感謝してるからね! 瑠璃さんに会えて!」

「だけど、その。うちには、もうあんまり関わらない方がいい」

「えっ!? どうして?」

「うちは――『影の子』だって言われてたから」

言われたのは珊瑚と一緒に仲良くしてた友達からだった。うちだけが生きてたって聞いて、うち目掛けて「あなたは『影の子』だ」って言ってきた。怒ってるのか泣いてるのかその両方か、今はもう思い出せない。そんなこと思い出したってどうしようもないから。『影の子』、心に引っ掛かりを覚える言葉は子供が使いたがる。意味を分かってるやつ、分かってないやつ、どっちからもこそこそ隠れるように『影の子』だって言われ続けた。意味分かんなくて、訊いても答えてもらえなくて、お祖母ちゃんに訊いたら、随分暗い顔をしてどういうことか教えてくれた。

同級生から言われた『影の子』とは何か。人によって解釈がまちまちで振り幅が広いけど、ある程度纏めることはできる。人と同じ形をしてるから見ただけじゃ区別がつかなくて、でも人じゃない。人だと思って関わると、関わった人の影から魂を奪って殺してしまう。死んでいなくなった人の姿を借りて、生きてる人の中に混じってる。そういう脈絡のない、恐怖という概念の継ぎ接ぎだらけのバケモノ。それが『影の子』。

うちが『影の子』って呼ばれるのには理由がある。一緒にいた人がみんなあの世へ行ったのに、自分――春原瑠璃だけがこの世にいるから。ここにいるのは春原瑠璃じゃない、春原瑠璃の形を借りた『影の子』なんだ。そう言いたいらしい。分からなくもない。自分もあの時、今年初めの豪雨で海へ流された時から、自分が自分なのかずっと疑っている。違う、自分は自分なんだ。そう強がってみても、誰も肯定なんてしてくれない。だから段々、自分は『影の子』なんだって気持ちが強くなってきて。それを振り切りたくて、ムロを飛び出してトウキョシティまで来たんだ。

陽介もこの話を聞けば気味悪がるはず。だって関われば死ぬ人間以外じゃない怪物なんて、自分から仲良くしようなんて思うはずが

「『影の子』……」

「そう。うちは『影の子』だって言われてた。だから……」

「『影の子』!? 何それすっごくカッコいい!」

「はあ!? えっ……えぇっ!?」

「うわぁあ……! 瑠璃さんそんなすごい人だったんだ! ドッキドキだぁ!」

……思うはずがない。うちの予想はビックリするくらい外れた。なんかヘンだぞ、ヘンな方向に話が転がる予感がビシビシするぞ。なんで? なんでだ? 『影の子』って言われてる、なんて聞いたらムロじゃ誰も近寄ってこなかったのに、どうして? マジでどうして? 今まで以上に瞳をキラキラさせて陽介がドンドコ迫ってくる、待て待て顔が近い顔が近い、こっちがドキドキするっての!

「あれだよねあれだよね、闇の力! 闇の力を使えたりするんだよね! 影だから!」

「使えねえよ! そんなもん使えたら案件管理局に連れてかれるっての!」

「そっか、だからか……! ミナちゃんにシャドーボールが通じなかったのも当然だよ。あの程度のパワーじゃ瑠璃さんには遠く及ばないからだね! やっぱりかっこいいよ瑠璃さん!」

「違う違う! 全然違うから! ミナはエリキテル、エリキテルはノーマルタイプ、だからシャドーボールは当たらない! それだけ!」

もしかして……もしかしてだけど、陽介は都会育ちだから『影の子』とかの言い伝えを知らないのかもしれない。知らないってことは、怖がることもない。まさか、そういうことだったりする? 思ってたのと全然違う反応をされて、うちはただ戸惑うばかり。陽介はちっとも怖がったりせず、逆に「かっこいい」って連呼してる。かっこいい? かっこいいのか? 男子の考えることはよく分からん。男子って言うか陽介。

「瑠璃さん」

「な、なんだよ急に」

「もし良かったら、僕と友達になってほしいな」

息を飲む。陽介はうちと友達になりたい、ド直球にそう言ってきた。うちが『影の子』って言われてるって聞いてなお、うちと友達になりたいのか。それも怖いのを堪えてるとか、不気味なのを無理して、とかじゃない。本心から友達になりたくて、自分の願いとしてうちに頼んできてる。どうしてこうなるのかは分からない。だって、絶対に拒絶されると思ってたから。そうなるって考えてたから。距離を取られる以外あり得ない、そう信じてたから。

それがどうだろう。陽介はますますうちに興味を持って、すごい勢いでグイグイ来てる。ムロじゃ絶対にありえなかった光景、人が離れていくばっかだったムロじゃ、どんなに願っても絶対に見られなかった風景が、うちのすぐ目の前で起きている。夢か幻か、今ここで頬をつねれないのが歯がゆい。頬つねったら絶対ヘンだと思われるし。いや陽介の場合は分かんない、あり得ない解釈しそうだし。

「だって『影の子』なんでしょ? すごいよ、絶対友達にならなきゃ!」

「えぇ……」

「僕カッコいいもの大好きなんだ! ロンギヌスの槍とか死海文書とか!」

なんかチョイスが偏りすぎてないか、ちょっと。

「だからぁ。そういう思い込みとか中二病みたいなやつじゃないって! うちはマジで皆から……」

「思い込みとか中二病じゃない、本物なんだ……!」

「だああぁぁあ! 違うっ、違うって言ってるだろぉ!」

ダメだ、今は何を言っても陽介のいいように解釈されてしまう。別にムカつくとかイラつくじゃないんだ、ちっとも腹は立たないし。ただうちの意図が全部ポジティブ……ポジティブなのか? まあとにかく陽介にとっていい方向に取られてるのをひしひしと感じる。こんなのマジ初めてだ、一体何者なんだこの陽介とかいうのは。

「瑠璃さんが僕と友達になってもいいか、まだちょっと分からないみたいだね。うん、それだったら、明日も一緒にバトルしようよ!」

「うちと……また組んでくれるの?」

「もちろん! 僕が瑠璃さんと一緒に戦いたくてしょうがないからね! 僕がまた晴れを呼んでフルパワーで戦えるようにするよ、約束する!」

「陽介……」

「瑠璃さんと一緒に戦ってると、本当の力を出せる感じがしてすっごく楽しいんだ」

うちとタッグを組んでダブルを戦ってほしい。そう言われたのは、本当に久しぶりのことで。久しぶり過ぎて、感覚を思い出すのにちょっと時間が掛かるくらいで。

戸惑うばかりの気持ち。陽介から向けられた気持が眩しすぎて、真っ直ぐ見ることができずにいる。だけど、奥底に微かな嬉しさが生じたことを確かに感じている。忘れかけていたもの、ずっと底に沈み込んでいたものを、陽介が引っ張り上げようとしている。こっちにグイグイ来るように、グイグイと強く引っ張って。

「太陽がくれる光の力と瑠璃さんの闇の力! 両方合わされば最強に見えるからね!」

「だから闇の力じゃねーよ! なんでそうなるんだってば!」

「最後の試合で見せてくれたミナちゃんのナイトメアショックウェーブ、最高にクールだったよ!」

「勝手に横文字の名前付けるな! やみのはどうだよやみのはどう!」

「闇の波導……!」

「うわあああ違う違う! あくのはどう! あくのはどうの間違い! ただの間違いだから! 闇じゃないから!」

盛大に誤爆した。ついに闇の力を使うようになってしまった。陽介が闇闇言うせいだ。全部陽介のせいだ。

「本当の力はみだりに見せずに隠しておく……闇の力を使いこなす基本だよね!」

「いいか、うちが『やみのはどう』って言い間違えたこと、誰にも言うんじゃないぞ」

「もちろん! 瑠璃さんが闇の力を使うことは誰にも言わないよ。僕たちだけの秘密だからね」

「違う、違うんだ……そうじゃないんだ陽介……」

「太陽の下で闇の力を正義のために使う……瑠璃さんはダークヒーローの鑑だね! 憧れずにはいられないよ!」

もうダメだあ……おしまいだぁ……。うちの中のベジータが戦意を喪失して諦めている。うちももう諦めたい。陽介は誰も止められない。どうやっても陽介のペースに飲み込まれてしまう、誰か助けてくれ。

今日一番最初にバトルしたフィールドで会おうよ、その言葉に頷いて、明日もまた一緒にバトルすると約束した。

(ちょっと……いやちょっとじゃ済まないけどズレてるところもあるし、ヘンなところもある。山ほどある)

(でも、バトルのセンスは間違いない。うちとの相性もいい)

(それに――うちと組みたい、そう言ってくれた。だから)

友達になりたい、うちに掛けてくれた陽介の言葉。

その答えを、ちゃんと用意しておこう。自分の為にも、陽介の為にも。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。