「もうお帰り? 昨日に比べてえっらい早いじゃない」
「うん、まあそういうことだな」
「で、お連れ様一名、ってワケね」
清姉めっちゃニヤニヤしてる。いくらなんでもニヤニヤしすぎだろ、ってツッコみたくなったけど、ここはぐっと我慢だ我慢。だって、うちは清姉にお願いをする立場なんだから。すっげぇ癪だけど、今は清姉しかアテにできる人がいないのが現実だ。
「清姉、これには深いふかーい理由があって」
「はぁーっ。自分探しするついでに彼氏探し? まーったくませてるんだから」
「違ぇよ! 陽介は彼氏じゃなくて友達だって!」
「今は友達かも知れないけどさぁ。男女の友情ってのは、そう長くは続かないものよん」
「だから、陽介とはそういう関係じゃないってば」
「もう、男連れ込んでるのはどっちなんだか。分かったもんじゃないわ」
ぐうの音も出ない。どっからどう見ても家に彼氏を連れ込む女にしか見えない。男連れ込んだりしないの? とか真顔で訊いてたくせにうちがこれなんだから、清姉に何を言われても言い返せないし、家に上げるのを拒否られても全然おかしくない。うちは陽介を間違いなく友達だって思ってるけど、思春期ちょっと前の女子が同い年の男子を連れてきたら、まあ普通は清姉みたいな解釈するよな。どう見たって清姉が正しい。うちが清姉の立場だったら絶対同じこと言ってた。
ああ、やっぱ追い返されるかな、冷や汗たらたらで清姉の返答を待つ。せめて事情を話させてくれれば、清姉も陽介のこと分かってくれるはずなんだけど。
「ま、いいわ。玄関でやいのやいの言っててもしょうがないし、二人とも上がってちょうだい」
ふふん、と清姉が笑うのが見えた。ドアを大きく開けて、うちと陽介が入れるようにしてくれる。ああ、とりあえず中には入れた。上がって、陽介。うちが陽介に先に入るよう促す。お邪魔します! と元気よく挨拶をして中へ進む。その後にうちも続いた。冷やした麦茶をグラスに入れて持ってきてくれた清姉がテーブルにつく。うちと陽介が並んで、向かい側に清姉が座ってる。なんだこれ、親に彼氏紹介するみたいな構図じゃん。
「えっと、清姉。怒ってたりする?」
「やぁねえ。言ってみただけよ。ハル子の反応面白いし? いらっしゃい、歓迎するわ」
「うちをおもちゃにすんじゃねえ!」
「ハル子さん? 違うよ、この人は瑠璃さん。瑠璃さんっていうんだ」
ハル子とかいう清姉が勝手につけたあだ名を耳にした陽介が、ご丁寧に訂正して見せる。こいつ面白いな、とか思ったんだろうな、清姉が陽介に目を向けた。
「ほほーう? 律儀でいい子じゃない。ねね、名前は?」
「僕は陽介、志太陽介だよ。瑠璃さんに友達になってもらったんだ」
「へぇー、陽介くんかぁ。ウチは清音。気さくに清音お姉さまって呼んでいいわよん」
また同じこと言ってるぞこいつ。船で一言一句違わないこと言ってたのまだ覚えてるぞうち。
「はい! 清音お姉さま!」
「あっはは、冗談冗談。フツーに『清音さん』でいいから。素直でいい子じゃない」
「ちょっと素直すぎるぞ、陽介」
「ハル子にぴったりじゃない。でさ、どこ住み? てかLINQやってる?」
「フクロウ駅の近く! いつもはポケモンセンターで寝てるよ」
「――えっ」
清姉の表情が瞬時に凍り付くのが見えた。信じられない、って顔してる。清姉の顔と一緒に場の空気も凍り付く。目線が泳いでるのが痛いほどよく分かる、うちが陽介から事情を聞かされた時とまったく同じ、ビックリするくらい同じだ。こっちの胸までチクチク痛んでくる。
「え、えっと、それって……あれよあれ、どっかの地方から家出て旅してるとかそういう……」
「ううん。生まれてからずっとトウキョシティにいるよ。僕家がないから、代わりにポケモンセンターに泊まらせてもらってるんだ」
「うそ、そんな……」
「清姉聞いてくれ、陽介の話は本当なんだ。嘘なんかじゃない、冗談でこんな嘘言う訳ないだろ?」
「で、でも、家がないって……」
「さっきうちも見たんだ。トレーナーカードの住所に『不定』ってハッキリ書かれてるのを。だから、家がないってのは本当の話なんだ」
見たことないくらい狼狽してる。いい気味だとか全然思わない、あまりにも痛々しい様子だから。うちだって辛い、清姉も今凄く辛そうだ。でもここで全部話しとかないと、陽介がどういう子なのかを清姉に伝えられない。だから覚悟を決めて、全部話さなきゃ。
「お……親、親は? 親はどっか行っちゃったの?」
「うん。もう三年前かなぁ。どこかへ行ったきりで、それからは一度も会ってないんだ」
「一度も、会ってない……」
「でも、僕にはサニーがいるし、瑠璃さんも友達になってくれた。だから僕、ちっとも寂しくないよ。ね! 瑠璃さん!」
こっちを見る陽介に思わず頬が熱くなる。こっぱずかしいっての、いつものことだけど。ほら、サニーも出ておいで。ボールからサニーを出して抱いてあげる。陽介はあくまでいつも通り、太陽みたいに明るい笑顔でサニーとじゃれ合ってる。誰が見ても微笑ましい光景だって思うはず。仲が良いのがすごく分かりやすく伝わってくるから。
でも、清姉は笑ってなかった。笑う代わりに――。
「こんな、こんな……っ」
「き、清姉? どうしたの? 花粉症?」
目を真っ赤にして、涙をぽろぽろ零していた。端的に言えば泣いてる、滅茶苦茶泣いてる。ひっく、ひっくってしゃくり上げてるから、これマジで泣いてるやつだ。演技とかふざけてるのとかとは明らかに違う。清姉がマジ泣きしててうちも戸惑う、正直こんな反応するとかまったく思ってなかったから。どうしよう、すっげえ悪いことしちゃった気がする、なんかフォロー入れなきゃ。
「ごめん、ごめんハル子、それに陽介くん……」
「なんで清姉が謝るんだよ、家に上げてくれただけでもありがたいと思ってるんだぞ」
「だって、だってウチ、無神経なこと言っちゃったし、親もいなくて家もないとか考えもしなかったし……」
「そんな、清姉……」
「お前はちょっと考えが足りないぞって、兄貴からも言われてたのに……ウチ、また……」
「大丈夫? 泣いてるんだね。これ、洗濯したばっかりのハンカチだから綺麗だよ、使ってほしいな」
わあっ、と声を上げて清姉が泣いた。陽介くんから借りたハンカチで目を拭う。でも涙が次から次に溢れて来て、瞳も目元も真っ赤になってる。いつも余裕あって笑ってるのが普通だった清姉が泣いてる、清姉が悪いとかじゃないけど、なんかショックだ。断じて清姉のせいじゃない、だけど少なからずショックを受けてるのを自覚する。
「ごめんね、大の大人なのにさ、こんなめそめそしちゃって」
「いいよ清姉、気にしなくていいから」
「なんでこんな辛い目に遭う子がいるんだよって、神様なんてやっぱいないじゃんって……親居ないとか、ウチと兄貴だけでも十分だってのに……」
「お父さんとお母さんがいないのは、瑠璃さんも同じだよ」
清姉がまた絶句して顔を上げるのが見えた。気まずい、すごく気まずい。だって陽介の言ったこと、間違いない事実だから。
「あの、清姉、ごめん。話してなかったけど、陽介の言う通りで」
「ハル子……あんたも……」
「大雨降ったじゃん、年の初めに。その時にお父さんとお母さんが巻き込まれて、それで」
「親、いなかったんだ」
「うん。それで、お祖母ちゃん家にいたんだけど、その、いろいろあって居づらくなって、家出してきた」
またぶわっと涙が湧くのが見えた。清姉が泣いてる、さっきに輪を掛けて泣いてる。ごめんね、こんなぐじぐじ泣いて。清姉が謝りながら、それでも泣いてる。中途半端に同情されるのはうざったいだけで嫌だったけど、清姉のそれは切実すぎて、素直に受け止めるほかなかった。さっきチラッと言ってたことを考えると、きっと清姉も親を早くに亡くしてる。兄貴、兄貴っていつも言ってるから、お兄さんがいたんだろう。二人で暮らしてて、しんどい目にもいっぱい遭ったんだと思う。だからこうやって、自分のことみたいに泣いてるんだ。
清姉のこと、単にテキトーだけどアテにできる人って、そんな風に思ってた。だけど今はちょっと違う風に見えてる。清姉も清姉なりに、山あり谷ありの人生を乗り越えてここにいるんだ。テキトーに見えるのは、肩の力を抜いてないと折れちゃうような場面がいくつもあったから。自分のしたこと、言ったことで泣かれるのは、自分が悪くなかったとしてもつらい。つらいけど、必要なことなんだ、今はそう感じられる。
さんざん泣いてから、洗面所に行ってばしゃばしゃ顔を洗って、清姉がまたリビングへ戻って来た。目はまだ赤いままだったけど、表情はずいぶん晴れ晴れとしていて。
「よし、決めた」
「決めた?」
「今日はごちそう作る。材料全部揃ってるから、ウチに全部任せて」
「えっ、ちょっと清姉」
「せっかく陽介くんがうちに来てくれたんだもの、ぱーっと派手にやりましょ!」
そう言うや否や、清姉はキッチンへと吸い込まれていった。
「不思議! 黄色いご飯なんて僕初めて見たよ!」
「ふっふーん。これはね、パエリアっていうのよん。貝とか魚を入れて作るカロス風炊き込みご飯ってワケ」
「清姉清姉、うちお刺身と野菜を合わせるとこんなにおいしいって知らなかったんだけど」
「こっちはカルパッチョね。本家はお肉を使うんだけど、ほら、この国魚ばっか食べてるじゃん? じゃあ魚で作ってみよってなって、そんで勝手にアレンジして出来たのがコレ。行けるっしょ? 遠慮なく食べてちょうだい」
清姉の本気が爆発してる、テーブルの上で。スッとキッチンへ消えたかと思うとシュッと新しい料理を作って持ってくる。清姉は元々料理が滅茶苦茶上手で、何作っても「おいしい」ってくそシンプルなワードしか出てこないんだけど、今日のは一段も二段も違う。陽介くんが来てくれた歓迎パーティだって言って、買ってきた食材をバンバン使ってやべー料理を量産してる。清姉曰く、パエリア・カルパッチョ・じゃがいもの冷製スープ・サクラビスのムニエル。清姉、ひょっとしてコックとかパティシエとかそういう仕事してたのかな。いやパティシエは違う、あれお菓子職人だった。
とか言ってたらフルーツがアホほど入ったゼリーが出て来た。パティシエもできるやんけ! とまた静都弁になってしまう。デザートよん、と言いながらテーブルにスッと置く。見てるだけでテンション上がってくる。こういうカラフルなデザート、うちは大好きだ。
「おいしい?」
「うん! おいしい!」
太陽さんさん、陽介の笑顔。これがまた泣きのツボに入ったっぽい、清姉が目元を拭ってる。
「清姉、泣いてる?」
「な、泣いてないし! カルパッチョに載っけるタマネギ切ってたせいだし!」
いや普通に泣いてるぞ清姉。声も掠れてるぞ清姉。そんなごまかさなくたっていいのに、堂々と泣いたっていいのに。強がろうとするところがなんかうちそっくりで、思わず苦笑いが出る。
なんかもう、さっきから思ってたけど、清姉って根っこは滅茶苦茶いい人なんじゃないかな。そうじゃなきゃここまでしないよ、普通。船でうちを助けてくれたのもそう、この家に何の見返りも求めずに置いてくれたのもそう。なんか、チャラい人だって思ってたのが申し訳なくなるくらい、ホントの意味でお人好しでいい人なんじゃないかって思う。いかついティアットがどんな時でも忠実に従ってるのも分かる気がした。
「あの、清姉。ありがと、こんなにしてくれて」
「ううん、今はこんなことしかできないからさ、ウチ。ハル子も陽介くんも、もっと根本的なこと手伝ってあげられたら良かったけど」
「十分すぎるってば。うちも陽介も、ホントに感謝してるし」
「よく陽介くんを連れてきてくれたわ、ハル子。やっぱ優しいじゃん、あんた。勘違いしてからかっちゃって、ウチってほんとバカ」
「そりゃまあ、どう見たって男連れ込んできたようにしか見えなかったし」
清姉がもうすっかり素になってる。こっちが恐縮しそうなくらいだ。陽介はうちと清姉のやり取りを見てニコニコしながら、サニーと一緒にゼリーを食べてる。おいしそうに食べてる、見ててなんかうちも安心する。
「それでさ清姉、すっげえ厚かましいの承知で言うんだけど」
「うん、うん」
「陽介もここに居させてやってくれないか、少しの間だけでいいから。頼む、清姉」
「はあ!? ちょっと何言ってんのハル子!?」
「あー、やっぱり男の子は……」
うん、さすがにちょっと清音さんに頼り過ぎたかもしれない。調子に乗りすぎたかな、うちも反省
「少しの間ってあんた! うちがそんなケチケチしたこと言うわけないっしょ!? 大人をナメちゃダメ!」
「えっ、ちょっ」
「んなもんねえ、夏終わってうちがここ出ていくまでずっと居ていいに決まってるじゃん! それまでに次に行くとこ探せばいいし! こんなとこで陽介くん追い出したら、死んでから兄貴に合わせる顔が無いわ!」
「清音さん! 僕、ここにいてもいいんですか?」
「当ったり前じゃない! せせこましいポケモンセンターなんかよりね、三食昼寝風呂付きのバッチリ安心清音さんハウスの方が絶対いいに決まってるっしょ! もちろんハル子、あんたも! これから三人一つ屋根の下、面白おかしく過ごしてこうじゃないの!」
なんだこのテンションの高さ。予想以上に前のめりだ。忍者が走る時みたいな前のめりっぷりだ。
「さあさあ! この後は熱いコーヒーを淹れるわ。これから毎日賑やかになりそうで、もうたまんないわね!」
ノリノリの清姉を見ながら、うちは思う。
清姉に会えてよかった、こんな大人になれたらいいな、って。
陽介がもんのすごい笑顔でうちと清姉を見ている。ニコニコーっていうか、ペカーって感じの花丸満点爆発スマイル。見てるこっちが浄化されそうだ、うちが闇の力を持ってるからだろうか。いやちょっとまてうちそんなん持ってないぞ、陽介に感化されてるぞ自分、気を付けろ自分。
「ああ……こんなにたくさんおいしいもの食べたの、僕初めてだよ!」
「うっうっ、陽介くんごめんね、あとサーロインステーキも出したげたかったんだけど、冷凍庫にお肉がなくて……」
「清姉、うちも陽介もそんなに食えないから。そこ悔やまなくていいから」
また泣いてる清姉は置いといて、陽介が満足してるのは間違いない。なんだろうな、この顔が見られただけでもうれしい。清姉が陽介を受け入れてくれて本当に良かった。ちょっと歓迎しすぎじゃね? と思わなくもないけど、悪いことじゃないしいいか、別に。
「清音さんからはおいしいものたくさんもらったし、瑠璃さんからは闇の力をもらってるし、僕もらってばっかりで申し訳ないよ」
「えっ、ハル子。あんたもしかして闇の眷属だったの」
「何その闇の眷属とかいう取ってつけたしょうもなさそうな設定」
「まあアレでしょアレ、カズノコとかそういう呼び名のことでしょ? いいじゃん陽介くんポジティブシンキングで」
「『影の子』だってば」
っていうか、ポジティブシンキングなのか、陽介のアレは。
「僕も誰かの役に立てたらいいな、病院にいた時からずっと思ってるんだ」
「入院してたんだよね。病気で」
「うん。けど、僕じゃ誰かを助けることなんてできない、役に立つことなんてできない、そういう風にも思ってて」
陽介が申し訳なさそうな顔をするのが見えた。なんで、なんでそんな顔するんだよ、胸がシクシクと痛むのを感じる。
「誰かのお世話になりっぱなしで、僕ももっと誰かの役に立ちたい、ここにいていいんだって思えるようになりたい」
「でも僕にできることってなんだろう。すぐに出てこないんだ」
「長い間ずっと、僕一人じゃ外にも出られなかったからかな。今はもうちゃんと立って歩けるのにね」
「今日だって、瑠璃さんにここまで連れてきてもらって、清音さんにおいしいものをたくさんごちそうしてもらって、僕はすごくうれしい」
「だけど、何もお返しができてない。瑠璃さんや清音さんだけじゃない、みんなにお返ししたいのに、全然できてないんだ」
お返しができてない、陽介はそんな風に言う。けどうちは違う、うちはお返ししてほしいから陽介と友達になったんじゃない、ここまで連れてきたわけでもない。清姉だって同じだ、陽介に自分のできることをしてやりたいからしただけのことじゃん。お返しなんてうちも清姉も欲しがってない、陽介が雨に濡れない場所でゆっくり休んでくれればそれで十分だった。ただでさえバカみたいに雨降ってるのに、家の無い陽介を見て見ぬふりなんてできるわけねえだろ、うちも清姉も同じだ。
だいいち、陽介は間違ってる。最初にうちに手を貸してくれたのは陽介だったじゃん。ふたごちゃんと独りで戦おうとしてた所を飛び入りで入ってくれて、それで勝たせてくれたのが陽介だろ。なんでそれを忘れるんだよ。言わなきゃ、陽介に言わなきゃ。
「どうしてだよ、陽介。どうしてそんなこと言うんだよ」
「えっ?」
「昨日うちに助太刀してくれたの、忘れたのかよ? うちが勝てたの、陽介のおかげなんだぞ」
「瑠璃さん……」
「バトルで加勢してくれて、サニーを隣に出してくれて、それで陽介が晴れを――」
――晴れ? そうだ、陽介が晴れを呼んだんだ。ミナもサニーもそれで全力を発揮できて、うちらはそのおかげで勝てた。
(……そうだ)
陽介には不思議な力がある。どんな雨が降っていても晴れを呼ぶ、見たことも無い不思議な力。
(そうだよ! 陽介にはこれがあるじゃん!!)
なんで今まで気付かなかったんだろう、単純すぎたから? 今はそんなことどっちでもいい、とんでもなくいいアイディアを思い付いて、今すぐ陽介に伝えなきゃって気持ちしかない。隣に座る陽介の目を見つめて、うちは言葉が出てくるに任せた。
「陽介! みんなの役に立ちたいんだろ? 見つけたぞ! その方法!」
「僕が……みんなの役に立てる!?」
陽介の手を引っ張って窓際まで連れて行くと、窓に掛かったカーテンをシャーっと開く。
「ほら、外見てみろよ! 鬱陶しいくそみたいな雨がずーっと降ってやがる! もう二週間もずっと!」
「晴れねえかな晴れねえかなって、みんな首を長くしすぎてアローラのナッシーみたいになってる! みんな晴れを待ってるんだ!」
露わになった窓の外の風景は、見てるだけでうんざりするようなしとしと雨降り。トウキョシティが雨ばっかなのは、うちも陽介も清姉もよく知ってる、嫌って程に。
「けど、陽介ならこいつをぶっ飛ばせる! そうだろ!」
「空に願を掛ければ晴れを呼べる、うちに何度も見せてくれたじゃん!」
うちは知っている。バトルのたびに陽介が空へ祈ることを、その度に雲が裂けて光が差し込んでくることを。太陽が顔を見せてくれることを。
「陽介っ、晴れだよ! 晴れを呼ぶんだ! 晴れ男になるんだよ!」
「晴れにしてほしい人の所へ行って、太陽を呼ぶんだ! そうすりゃみんな喜ぶ! 大喜びだ!」
みんな晴れを待っている。雨が止むのを心待ちにしている。陽介ならそれができる、ほんの少しの間でも、晴れを呼ぶことができるのは間違いない。驚きに染まる陽介の顔。考えもしなかったって顔してる。
ここから新しい毎日が始まる。それはさながら、空模様が変わるかのような。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。
※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。