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#15 悪いコトダマ・善いコトダマ

時間は瞬く間に過ぎて、八月ももう終わりの見える、後半に入った。

「花火大会の一件でだいぶ広まっちゃって、捌ききれないくらい依頼が来てるのよね」

「やれるところはやってるけど、ちっとも追い付かないな。陽介もちょっと疲れ気味だし」

「疲れてるというか、眠くなっちゃうんだけどね。ふわぁ……あぁ」

うちらはそれからも晴れを呼ぶ仕事を続けていたけれど、そろそろ終わりを考える時期が近付いて来ていて。夏が終われば清音さんも仕事に戻る、うちも自分の身の振り方を考えなきゃいけない。もちろん、陽介だって同じだ。この夏がずっと続いててほしかったけど、現実はそう都合よくできていない。

「けど、さっきの仕事はこなして正解だったんじゃね? すっごい喜んでもらえてたし」

「『入院してるお母さんと外をいっしょに歩きたいです』だっけ。うちも叶えてあげたいなって思ってたし」

「うん! うまく行ってホントによかったね! 僕も気合い入れた甲斐があったよ!」

陽介のおかげで見事な快晴に恵まれて、依頼してきた女の子……っていうか、うちの二つか三つ年上だから「女の子」って言い方はちょっとアレかもしれないけど、まあ女の子だし女の子でいいや。その女の子が「お母さんと外を歩きたい」って理由で依頼してきてくれた。たまたま別の依頼と一緒にこなせそうだったのと、陽介がどうしても受けたいって言ったから、ちょっと遠出して病院まで足を運んだってわけ。依頼を見たら、うちも清姉もぜひ受けたいって感じのやつだったけど。

「名前がね。依頼してきた子、陽介くんと一字違いだったのよね。ちょっと運命感じちゃう」

「お母さんが長い間入院してるっていうのも、陽介と繋がってる感じがするし」

「僕もずっと病院にいたしね。外に出たいって気持ち、大事にしてあげたかったんだ。喜んでもらえてうれしいな」

「空が晴れたおかげで、気分もよくなったみたい。検査でいい結果出たって言ってたし、夏の終わりには退院できそうって」

「んむ。全部がいい方向に向いてる、ハッピーエンドの予感ってやつね。ホント、二人ともイカしてるわ」

「清姉がサポートしてくれるからだよ。陽介とうちのことを」

「あっはは! ハル子ったら、いい感じにトゲが取れちゃって。素敵よ、今のハル子」

「もう、うっさい。すぐ調子に乗るんだから」

女の子とお母さん、どっちもいい笑顔してたな。おカネも貰えたけど、ああやって喜んでくれるとすっごい報われたって気持ちになる。いいな、こういうの。ホントにいい。

病院を出てから向かったのは、歩いて十五分くらいのところにあるちょっと古びた一軒家だ。これが今日最後の依頼で、もっと言うとこの仕事最後の依頼になる。疲れが溜まったのか、ふと気付くと居眠りしがちになった陽介を休ませたい、うちがそう清姉に切り出した。これに反対なんてする清姉じゃなくて、すぐに受付のフォームを締めきってくれた。後はのんびりだらだら、アイスでも食べて過ごせばいいわ。清姉の気遣いが嬉しかった。

晴れにしてほしい理由は「お盆に迎え火をするため」だとか。事前にちょっと調べてみたら、この時期になると死んだ人の魂が生前住んでいた場所へ戻ってくると信じられているらしい。「迎え火」は死者がちゃんと元の場所へ戻れるようにするための目印のようなものらしい、たなびく煙が天に繋がって、向こうの世界まで届く、なんてことが書いてあった。そういう日なら晴れてる空で迎えたいって気持ちはよく分かる。

うちも清姉も、それから陽介も。身寄りって言える身寄りがいないに等しいから、いろいろと思う処があった。だから、最後にこの仕事を選んだ。誰が言ったわけじゃない、誰もそんなことは言ってない。けど言葉にせずとも伝わるものがある。

みんな分かっていた、この依頼は他人事じゃないって。

「こんにちはー」

「はぁーい」

出迎えたのはおばあちゃんっぽいひと。うちのお祖母ちゃんと雰囲気がちょっと似てる。晴れを届けに来ました、とうちが伝えると、快く案内してくれた。傍らには息子さんっぽい男の人もいる。夏休みに娘と一緒に帰省したんです、移動する途中に事情を軽く教えてくれた。男の人が指差した先にあったのは裏庭、家からは縁側も伸びてるっぽい。娘さんいるって言ってたな、いくつぐらいの子だろ。軽くテキトーに考えてた、当の「娘」と会うまでは。

案内された先にいたのは、意外な――とても意外な人物で。

「……頼子!?」

「あっ……」

縁側の近くで座っていたのは頼子だった。八月の頭にスターバックスで見かけて、トウキョシティにいるってことは知ってた。知ってたけど、まさかこんなところで顔を合わせるなんて。お互いに目を見開く、見間違いなんかじゃない、本当に頼子だ。相手側も同じような反応してる、なんでここに春原瑠璃が? って顔に書いてあるし。頼子は戸惑ったような顔をして見せてから、間を空けず気まずそうな表情を見せて、逃げるように目線を逸らす。

頼子のことも気になるけど、まずは為すべきことを成してから。ひとまず陽介のお手伝いをしよう、気持ちを切り替えて陽介と手を繋ぐ。陽介の額に浮かんだ汗をハンカチでそっと拭う、だいぶ疲れてるみたいだ。これが終わったらゆっくり休ませてあげたい。何かしてほしいことがあるなら遠慮なく言ってもらおう、うちにできることならなんでもしたいから。

空が晴れていく、陽介の願いが届いた証。ああ、良かった、ホッと胸をなでおろす。おばあちゃんぽい人も男の人も晴れを喜んでくれてる。終わったよ、陽介。うちの呼び掛けに応じて陽介が顔を上げる。疲れてはいるけど、笑顔に陰りはない。ホント、太陽みたいにキラキラした笑顔だ。うちもこんな風に笑えるといいな、せめて陽介の前でだけでも。

「ありがとうございます。これで、娘を無事に迎えられそうです」

「さっき鉄雄さんから伺ったんですけど、災害で亡くなられたそうで……」

おばあちゃんっぽい人と清音さんが話をしている。普段とはうって変わってマジメな感じだ、めちゃくちゃマジメ。なんか清姉じゃないみたい。男の人――鉄雄さんだっけ、その人が早速迎え火の準備を始めて、間もなくゆるやかな煙が天に向かって伸びていくのが見えた。

「私事で恐縮ですが……私の兄も、同じ災害で亡くなったんです。消防士だったんですけど、救助活動中に行方が分からなくなって」

「まあ、それは……お悔やみ申し上げます」

「すみません、このような話を。ただ、どうしても話さずにはいられなくて」

「いえいえ。伝えられない思いは、胸の中に澱のように溜まってしまうもの。コトダマにして気持ちが晴れるのなら、それが一番ですよ」

陽介は清姉の隣にくっついて、おばあちゃんっぽい人の話を熱心に聞いている。お盆の風習についてだとか、亡くなった娘さんのことだとか。いい感じで相槌を打ってくれるから、話してるおばあちゃんも楽しそうだ。ボールから出て来たミナとサニーは縁側でぼーっと佇んでたポリゴンに興味津々で、早速構いに行ってる。かく言ううちはというと、その集まりから幾らか離れて、縁側の隅っこへそっと腰を下ろす。

頼子。頼子の隣へ座る。

うちが取り立てて何か言うわけでもない。ただ隣り合って座っているだけ。言いたいことがあるか、と言われたら、特に思い浮かばない。成り行きを頼子に委ねたい、そんな気持ちだった。頼子の正直な言葉が聞きたいって言えば意図が伝わる気がする。少なくとも、頼子を責め立てたり詰問したりするつもりはちっともなかった。する理由がないって言うのが正しい。かつて掛けられた『影の子』っていうコトダマの呪いは、陽介の言葉で誇らしい二つ名へと様変わりしていたから。

頼子は何か言いたげにはしてる。でも、言葉にできずに苦しんでる。頼子が自分から話してくれるのをひたすら待つ。うちが何か言っても、それはきっと頼子を怯えさせ、委縮させるだけで、ちゃんとした会話には繋がらないから。ひたすら待つ、頼子が口を開くまで。迷って、迷って、迷いに迷って。

「……瑠璃、ちゃん」

迷霧の彷徨の果てに、とうとう頼子の口が開かれた。すっと目を向ける。怯えた色の頼子の瞳が明瞭に見える。話を聞かせてほしい、無言でその思いを伝える。

「どうして、ここに……?」

「家出してきた。夏休みに入ってすぐに」

「い、家出……」

「この前スターバックスで目が合っただろ? あの十日くらい前からトウキョシティにいるんだ。一度も帰ってない」

「じゃあ、もう一ヶ月くらい……」

「その、あれだよ。『影の子』って言われるのが嫌だったから」

あえてむき出しの言葉を使ってハッキリ言う。家出したこと、一度も帰らずずっとトウキョシティにいること、『影の子』だって言われるのが嫌だったこと。これが今の頼子にどう聞こえるか分からないわけじゃない、わけじゃないけど、伝える必要があると思った。だから包み隠さずはっきり口に出した。頼子が震えてるのが見える、カタカタと歯が鳴ってる音が聞こえてくる。正直うちも気が気じゃない。

頼子が何を感じてるか、自分のことのように理解できるから。

「『影の子』。頼子がうちに言った言葉。そうだよな?」

頼子は答えない。答えないけど否定もしない。暗黙の肯定、暗黙であっても肯定。それが今の頼子のできる精いっぱい。うちはそう解釈する。

「どういうもんなのか、うちのお祖母ちゃんに教えてもらった。確かにあの時のうちに当てはまってたかもしれない、頼子が言ったのも分かる気がする」

「……! それは……!」

「うちだって疑問だったよ。あの時の前と後で、本当に自分が『春原瑠璃』のままだったのか」

ぎゅっとスカートの裾を掴んでいる。行き場のない遣る瀬無さ、向かうべき場所の無い憤り、みんな物理的な力になって外に溢れてきてる。キュッと唇を真一文字に結んだ頼子は、今にも折れてしまいそう。いい気持ちは少しもしない、ほんの少しも。もしうちが頼子の立場だったら、針のむしろに立たされてる、サンドパンの背中にしがみつかされてるような気持ちだって分かるから、痛すぎるって理解できるから。

頼子はかつてうちのことを『影の子』だって言った。そのコトダマはうちを目いっぱい苦しめて、こんなところに居るのはもう御免だって思わせるほどで。だけど今は違う。コトダマが変質して、自分の中での位置付け、ポジションが様変わりした。かつてとは異なる意味を与えられたことまで含めて口に出して、初めてうちは頼子に全部伝えたことになる。だから、もうあと一歩踏み込むんだ。

「『影の子』、うちはそう呼ばれて辛かった。けど――今はちょっと違う」

「……えっ」

「向こうにいる男の子、陽介って言うんだけどさ。うちの『影の子』って呼び名をカッコいいって言ってくれたんだ」

清姉と話しながら一緒にたなびく煙を見つめる陽介。その先にある太陽、それそっくりの笑顔。煌めく笑顔が誰よりも眩しい、ちょっと風変わりで素敵な男の子。お父さんもお母さんも珊瑚もいなくなったこの世界で、うちが身体張ってでも護りたいって強く思う数少ないニンゲン。頼子の視線が陽介に向く。自分が発して誰かを苦しめた言葉の意味を書き換えてしまった、見知らぬ少年の姿を捉えて。

「陽介には、空を晴れにする不思議な力があるんだ。さっき見せたみたいに」

「そうやって雨を止めたみたいに、うちの心の雨も止めてくれた。あの日からずっと降り続いてた、長い長い雨を」

うちの心の雨を止ませてくれた大切な人、それが陽介。

「今はさ、『影の子』だって言われてもどうってことないし、『ちょっとカッコいいじゃん』くらいに思ってる。陽介のおかげで、そう思えるようになった」

「だから――頼子」

頼子の目を見つめて、瞳の奥の思いを見据えて。

「今度一緒に、珊瑚のお墓参りに行こう」

本当に伝えたかった言葉を、少しも手を加えずにそのまま――そのまま、頼子へと告げた。

「……ごめん、なさい」

堰が切れる音がした。はっきりと聞き取ることができた。耳からじゃなくて、心で聞く音として。

「頼子」

「ごめんなさい、瑠璃ちゃん、わたし、わたしっ……!」

そっと肩に手を置く。払い除けられるようなことなんてなかった。もう伝えたいことは全部伝えた。うちが頼子の言葉を聞く番だ。あとは、頼子の気持ちに任せたい。頼子の紡ぐ言葉を聞きたい。

「瑠璃、ちゃん」

「うん」

「わたし、昔……聞かせて、もらったの。お母さんから、『影の子』っていう言葉を、怖い話があるんだよ、って」

「うん、うん」

「お母さんね、そんなつもりで、わたしに教えたんじゃないって、分かってたのに、分かってたのに」

「ああ」

「自分でも、心が言うことを聞いてくれなくて……瑠璃ちゃんに向けて『影の子』だ、って、そんなこと、言っちゃって」

「頼子」

「珊瑚ちゃんも……お母さんもいなくなって、気持ちがわっ、ってなって、それで、それで……っ!」

「うん」

「何も、瑠璃ちゃんは何も悪くないって、分かってたのに、でも、でも、珊瑚ちゃんがいない、お母さんがいない、どうしても、その気持ちが抑えられなくて……っ」

やっと話を聞けた、やっと話を聞かせてくれた。頼子がどんな気持ちでうちに『影の子』って言ったのか、どうしてその言葉がうちに向いたのか。珊瑚や頼子のお母さんと一緒に波に呑まれて、二人は遠い所へ行った、うちだけが元の場所へ還って来た。珊瑚とお母さんはどこへ行ったんだ、どこへやったんだ。頼子がやり場のない気持ちをいっぱいに抱いて、それをただ一人生き残ったうちにぶつけた、ぶつけざるを得なかった。

頼子も同じだった。うちと同じだった。大切な親友と親をいっぺんに失って、心をズタズタにされてたんだ。

「でも、でも……わたしの言った『影の子』って言葉が、コトダマになって、みんなに広がっちゃって」

「どんな意味かも分からずに言ってるやつもいたよな、確か」

「悪いコトダマはすぐ広がってみんなをダメにする、それも……おばあちゃんに教えてもらってたのに、教えてもらってたのに」

「うん」

「言いつけを守らなかったわたしのせいで、瑠璃ちゃんを酷い目に遭わせちゃって……っ!」

両手で顔を覆って泣く頼子に、今一歩身を寄せる。頼子は泣き止まない、ずっと泣き続けてる。たぶん、言ってすぐに後悔したんだと思う。頼子が言ったのは最初の一度だけで、それからあとはただの一度も『影の子』という言葉を口にすることなんてなかった。周りの連中が不気味がって、或いは面白がって、うちを『影の子』だって陰口を叩く様を、頼子はどんな思いで見てただろう? いい気味だ、なんて毛ほども思わなかったに違いない。まるで己の身を切られるような思いがした、きっとそっちの方が正しい。

うちは陽介と出会ったおかげで、『影の子』の意味を書き換えられた。カタチを変えることができたんだ。だから頼子、もう自分を責めなくていい。頼子だって辛い思いをして、ここまで十分苦しんだんだから。

「頼子、珊瑚と仲良かった、親友だったもんな。うちらがバトルするって言ったら、よく応援しに来てくれたし」

「……うん、一番の友達だったよ。それで、瑠璃ちゃんの親友でもあった」

「親友、ホントにそうだった。大らかで優しくて、一番信頼できる相方だったよ」

珊瑚、頼子、それから自分。うちと珊瑚が組んでダブルバトルをしょっちゅうやってて、バトルはしないけど見るのが好きな頼子が応援してくれる。何度見たか分からない光景。中心には珊瑚がいて、でも珊瑚はうちにも頼子にも同じ距離で接してくれて。ずっとこういう関係が続けばいい、いや続くに違いないって、ちっとも疑わずにそう思ってた。

降りしきる冷たい雨の中、みんなで避難所になってる小山中学校へ移動しようとした時だった。信じられないくらいの高波が自分たちを襲って、ほとんどの人たちを飲み込んでしまった。お父さんも、お母さんも、頼子のお母さんも、珊瑚も、うちも。頼子だけは、頼子のお母さんが咄嗟に思いきり突き飛ばして、波に呑まれずに済んだ。頼子の頭には今もその時の傷跡が残ってる。あの時何が起きたのかを物語る、小さいけれど消せない傷痕が。

「あの時、瑠璃ちゃんも……お父さんとお母さんが、いなくなって」

「わたしと……同じだったのに」

「同じだったのに、わたしは、わたしは……っ」

「ごめんね、瑠璃ちゃん、ごめんね、ごめん、ごめん……っ」

ああ。分かるよ、今のうちにははっきり分かる。

頼子の心にも――あの日からずっと、止むことのない雨が降り続いていたんだ、って。

(うちの心の雨は、陽介が止めてくれた)

(今度はうちが、頼子の雨を止める番だ)

涙に暮れる頼子をそっと抱く。

「頼子が悲しむ姿は見たくない、だから」

「もう自分を責めないで、頼子」

「うちはまた、頼子といたい。前みたいに、一緒に遊ぼう」

雲一つない空が広がる。降り注ぐ日差しが一段と強くなった気がした。降り続いていた雨が止んで、心を叩いていた雨音が静かになっていくのを感じる。頼子の震えが止まる、ゆっくりと頭を上げる、目を真っ赤にして、顔をくしゃくしゃにして、それでもうちのことを一心に見つめ続けている。頼子に掛けたうちの言葉が――声が、心へとどいた。泣くのを止めた頼子が大きく頷く、大きく、大きく、何度も、何度も。

「ありがとう、瑠璃ちゃん。ありが、とうっ……!」

「いいよ、頼子。これは、うちが望んだことだから」

「わたし、もう絶対、絶対『影の子』なんて言わない! もう二度と、そんなこと言わない……!」

「今はもう平気だよ。言われたって『かっこいいだろ?』くらいにしか思ってない。でも、頼子の気持ちは嬉しい、すごく嬉しい」

「瑠璃ちゃん……!」

「頼子の言葉はホンモノ。だから今度は『仲直りしよう』ってコトダマを見せてくれ」

大丈夫。この言葉もきっとコトダマになる。頼子の言葉は、ホンモノだから。

「帰ったら、みんなにも『瑠璃ちゃんは「影の子」じゃないよ』って言うよ。約束する!」

「無理はするなよ、うちはもう平気だから」

「瑠璃ちゃんが陰口を言われたりしないようにする! わたし、もう間違えたりしないよ!」

目頭がふっと熱くなって、視界がぼやっと滲むのを感じた。

帰りたくない、ずっとそう思ってたムロに、帰ってもいいかな、そんな気持ちを持てるようになった。もちろん、帰ってすぐに何もかもがうまく行くわけじゃないのも分かってる、相変わらず『影の子』だって言ってくるやつはいるはず。でももうそんなのどうだっていい。うちの気の持ちようが変わった、頼子だってうちについてる。お互いの気持ちだって整理できた。だから、何を言われたって平気だ。

それに――陽介にも見せてあげたい、うちが生まれ育った場所を、海に囲まれたくそ田舎のムロタウンを。陽介がトウキョシティを見せてくれたのと同じように。瞳をペカーっと輝かせてはしゃぐ様子が目に浮かぶようだ。

頼子と手を繋ぐ。晴れた空にたなびく煙を見つめる。珊瑚とモクオも、頼子のお母さんも、うちのお父さんとお母さんも。きっとこの煙を辿って、自分たちのいるこの世へ下りてきてくれてる。もう大丈夫、仲直りできたよ。今日という日に、みんなにいい報告ができた。こんなに嬉しいこと、そうそうないよな。泣き止んだ頼子は空と同じくらい晴れ晴れした顔を見せてる、爽やかの一言に尽きる顔だった。

「おっ、ガールズトーク終了? 知り合いなんだったら言ってくれればよかったのにー」

「なんでもないって。ただの地元の友達同士」

「その割にはずいぶんお熱い感じねえ。ほれ、スイカ切ったから食べて涼みなさい」

「ありがとうね、清音さん。この歳になると、西瓜ひとつ切るのも一苦労で」

「いえいえ、切り応えのあるいいスイカでしたよ! いい気分です」

こうして、最高の晴れと共に、うちらは最後の仕事を終えたのだった。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。