明けて翌日。清音と小夏は相変わらず順調なペースで進んでいくが、辺りがだんだん肌寒くなってきたのを感じる。ナッペ山が近付いてきているのは視覚的にも伝わってきたが、もう間もなく、というところまで来ているようだ。二人の表情も真剣だ。優美の下へ向かうという強い意志が伝わってくる。
とまあ、ほどよい緊張感をもって進んでいた二人だったのだが、ここで思わぬ邪魔が入った。
「そこのキミ! ゴーゴートに乗った女の子!」
背中からの声で呼び止められたのは小夏。清音も合わせて立ち止まる。
「こいつら……」
「スター団、ですね」
「やっぱりね。そうじゃないかと思ったわ」
後ろへ振り返った二人は、別に調子を合わせたわけでもないのに、まるで示し合わせたかのように揃って渋い顔をしていた。やってきたのは「☆」のバイザーが付いたヘルメットを被り、だらしなく着崩したアカデミーの制服をまとった男子生徒と女子生徒。清音と小夏は顔を見合わせ、そして小さくため息を吐いた。小夏はこの出で立ちに見覚えがあった。そう、他ならぬスター団のそれだったのだ。
やってきた二人組はどちらも小夏の方を見ている。小夏は課外活動中ということで制服を着ており、どうやらアカデミーの生徒だと認識されたようだ。声を掛けた理由も大体察しが付く。
「ねえキミ、オレらと組まない?」
「あなたたち、そもそも誰なんですか?」
「うちらスター団なんだけどー、団から出てけって言われてムカついててー、そいつをギャフンと言わせたいわけー」
「はあ」
「オレらと組んでさ、スターになろうぜえ?」
「お断りします。他を当たってください」
小夏は普段の人懐っこさがウソのような極めて冷たい態度で応じている。そりゃあそうだろう、急いでいる最中に足止めを食らい、しかもそれをやらかしているのがにっくきスター団の下っ端連中なのだから。つれない態度を見せる小夏に、スター団団員の二人がにわかに気色ばむ。
「調子こいてんじゃねえぞぉ! だったら無理矢理にでも連れてくぜえ!」
「いいのー? うちらマジ気合い入ってっからー、泣いても知らないぞー?」
団員がモンスターボールを構える。清音もティアットに戦ってもらおうとボールを取ろうとしたが、小夏がスッと右腕を出して制止する。ひとりで十分です、声には出さないが明確な態度で示す。これまた普段の小夏とは違う、明らかに相手を威圧する態度を見せていた。トレーナーとして経験を積むとここまで変わるものなのね、清音は驚きと共に感心し、小夏に任せることにした。
戦闘に関わらなくとも、自分の出番はこの後にもあるだろう。一歩退いて小夏を見守る。
「レッツゴー! ギモー!」
「フラエッテ! かましちゃえ!」
団員たちのボールから飛び出してきたのは、「しょうわるポケモン」の名に違わぬあくどい顔つきをしたギモー、そして親に似たのかなんともねちっこい顔つきをした赤い花のフラエッテだった。小夏は先頭のボールを腰から外すと、場に向かって思い切り投げつける。
「任せたよ! ミドちゃん!」
小夏が繰り出したのは――紫の体躯に枯葉のような色のヒレを靡かせるドラゴンポケモン・ドラミドロだった。パルデアにも生息しているようだがどうも彼らにとっては初見のポケモンらしく、相対した二人が「何あのポケモン」「水ポケモンじゃね?」などと困惑した様子を見せている。小夏はドラミドロのミドちゃんと視線を交わし、互いに深く頷き合った。
「水ポケモンには草技っしょー! フラエッテ! やっちまいなー!」
「ふぃぃらら!」
先手必勝とばかりにフラエッテが「マジカルリーフ」で攻撃する。ぱっと見水棲ポケモンに見えるあのポケモンにはきっと効果抜群、一発で倒せるかも、などと夢見ていたが、現実はというと。
「ふーん、それで終わりですか?」
「あれ? 全然効いてなくね……?」
「あいつあのナリで水ポケモンじゃねーのかよ!? ええいこうなりゃ数だ、ギモー続け!」
ミドちゃんには毛ほども効いていなかった。纏わり付いた葉っぱを邪魔くさそうにはたき落とすと、小夏に「そろそろぶちのめしていいか」とでも言わんばかりに目を向ける。追撃とばかりにギモーが向かってきているが、小夏は眉ひとつ動かさずギモーとフラエッテを視界に捉えると、腕を横にしてぶった切るかのようなジェスチャーを見せ、そして――。
「『ヘドロウェーブ』!」
「るぉぉおおぉ!」
刹那、ミドちゃんの全身から猛毒の波動が迸り、馬鹿正直に向かってきたギモーと無防備なまま立っていたフラエッテをものの見事に飲み込んだ。悲鳴を上げて吹っ飛ばされる団員たちのポケモン。『効果は抜群だ!』。ヘドロウェーブは周囲全体を無差別に攻撃する、集団戦にはうってつけの技だ。小夏が相手に対してミドちゃん一体しかポケモンを繰り出さなかったのも、この技で味方を巻き込むのを良しとしなかったことと、最初からこの一撃で一網打尽にすることを考えていたからに他ならない。
正面からヘドロウェーブの直撃を受けたフラエッテとギモーは揃って目を回して気絶してしまい、どう見ても戦闘を続けられる様子ではない。二対一で数の有利を取ったにもかかわらずろくなダメージを与えられず、それどころか強烈な一撃をもらってダブルでノックアウトされてしまった。そして他に出せるポケモンはいない。詰んでいる。完全に詰んでいた。
「なんだこいつ……化け物かよ!?」
「これヤバくね? とりあえず逃げた方がよくね?」
力の差があまりにも歴然過ぎる、とんでもない奴に声を掛けてしまった。団員たちは後悔したが後の祭りだ。慌ててポケモンたちをモンスターボールへ戻すと、捨て台詞を吐くのも忘れて逃げようとした――が。
「『であいがしら』!」
「ヒェッ」
「あひっ」
眼前にこれまたパルデアでは見たこともない、灰色の甲殻で全身を覆い鋭い爪を鈍く光らせる、もう見るからに頑強なポケモン――グソクムシャが、自分たちの行く手を思い切り塞いでいた。後ろから回り込んできて猛スピードで突進、あわや衝突……というところでピタッと寸止めし、二人に向けてぎらつく真っ黒い爪を突きつけるまでを数秒でやってのけた。早業の極みだろう。とても逃げられるような相手ではない、完全に腰を抜かしてしまった。
「はぁーい、ヤンチャなお二人さん」
ゆったりと歩いてくる清音。傍らにはもちろん相棒のティアットが控えている。黒鉄の翼を重々しく羽ばたかせ、ぎろりと此方を睨み付けるその風貌たるや、弾けんばかりの圧倒的な殺意と敵意が滲み出ていた。
そして。
「悪いんだけどさあ、ちょーっとそのツラ貸してくれるかしらん?」
「ひいっ」
「あわわわわ……」
「あんたらに訊きたいことがあるのよ。痛くしないからさ、ね?」
ポケモンたちを文字通りの一撃で叩きのめしたドラミドロよりも、自分たちの逃げ道を俊足で潰したグソクムシャよりも、今すぐにでも襲いかかってきそうなアーマーガアよりも。
「逃げようだなんて甘っちょろいこと考えてないわよねえ? ああ? このクソガキども」
それらよりももっと恐ろしい、笑顔のはずなのに目が全く笑っていない清音が、二人の肩をバシッと引っつかんだのだった。
とてつもない、とんでもない光景が広がっていた。寒空の下地べたへ正座させられるスター団団員の二人、その近くに仁王立ちする清音と小夏、そして……。
「はい! これから出席を取りまーす!」
「みんなー、小夏委員長にちゃあんと返事したげてちょうだいねー!」
「一番! ドラミドロのミドちゃん!」
「るおぉお!」
「二番! グソクムシャのムシャくん!」
「ぐぅおおおぅ!」
「三番! ルカリオのリオちゃん!」
「はっ!」
「四番! サンドパンのサンくん!」
「きぃいっ!」
「五番! ソウブレイズのカルちゃん!」
「ぐぅぅう!」
「みんな、元気な返事ありがとう! それじゃあ……『授業』を始めてもらおうかな」
「講師にこのヤンチャくれ二人をお迎えして、ね」
小夏が連れていたポケモンをすべて外に出し、団員たちの前にずらりと並べていた。ドラミドロ・グソクムシャ・ルカリオ・サンドパン、そしてパルデアで新たに仲間になってくれたというソウブレイズ。さらにダメ押しとばかりに清音のティアットとハイドロも列に加わっている。いずれも見た目からして明らかに「強そう」なポケモンばかりで、それが総勢七体も並んでいるのだからたまったものではない。圧力が違いすぎた。
居並ぶポケモンは誰も彼も小夏に大変懐いており、小夏に対しては例外なくほほを緩めてうれしそうな顔を見せる。強面のドラミドロやグソクムシャも信じられないほど愛嬌のある表情だ。ところがひとたび小夏が離れると、一転して寒気がするほど鋭い眼光を投げ掛けてくる。団員二人はまるで生きた心地がしなかった。
「小夏ちゃんのポケモン、頼りになりそうなツワモノが揃ってるわね。カッコ良すぎだわ」
「他にもたくさん付いてきてくれたんですけど、今回はフェアリー組に殴り込みますから、それを踏まえて来てもらう子を選びました。ちょっとフェアリーが苦手な子が多くて……」
「となるとアレかしら、『あく』・『かくとう』・『ドラゴン』のどれかが多いって感じ?」
「そうです! わたしが『仲良くなりたいな』って思うポケモン、だいたいその三つのどれかなんですよ」
「分かるわ。ウチもさ、ティアットと会ったときこの子絶対『あく』ポケモンだって思ってたし、それで好きになったのよね。実際はタイプ全然違ったんだけど、それはそれでよしってことで」
「ホントはずっと一緒に旅してるロンちゃんとか、拳で語り合ったヤンちゃんとかにも来てもらいたかったんですけど、今回は相談して控えに入ってもらってます」
旅立ってから大きく風貌が変わったわけではない小夏。だがその可憐な外見に反して、仲を深めたポケモンは総じて強面かつ屈強な種族ばかりだった。シズクの「子育て」を通してポケモンを育てるノウハウを体で身に付けた小夏は、短期間で多くのポケモンを戦力として活躍させられるほどにまで育て上げる立派なトレーナーに成長していた。ポケモンにとって自分を強くしてくれる存在は何者にも代え難く、全員残らず小夏に全幅の信頼を置いていた。
まあそれが、今の身も凍るような光景を作り出しているわけではあるけれども。
「まあまあお二人さん。そうカタくならずに」
「ひ、ひええ……」
「お、お助け……」
「ここはあくまで平和的に話し合う場なの。平和的に話すには抑止力が要る、分かるでしょ? これ政治経済の超基本。テストに出るから覚えときなさい」
「そうです。ちゃんと学校にも行った方がいいと思いますよ」
抑止力と言うにはさすがに過大と言わざるを得ない戦力をバックに付けた清音と小夏が、不良ども相手にありがたい講義を聴かせてやる。ちょっとでも不審な動きをしたら即座に全員から袋叩きにされそうな圧力。直接手を出しているわけではなくあくまで前に居並んでいるだけなので特に違法とかでもないのが、また恐ろしいというかなんというか。
清音が二人に一瞥をくれてから、ようやくとばかりに本題を切り出す。
「でさ、あんたらに訊きたいんだけど」
「は、はひ」
「フェアリーポケモン連れてるってことは、『チーム・ルクバー』所属ってことよね?」
「い、一応は……」
「もっ、元、ルクバー、といいますか……」
「ああ。さっき『出てけって言われた』とか言ってたわね。それは後で訊くわ――で」
「ひえぇ」
「優美。川村優美って生徒、あんたらのアジトだか基地だかにいなかった? 『ネバーランド』って言えば通じるかしら」
まず訊かねばならないこと。この二人がルクバー所属かどうかということと、「ネバーランド」に優美の姿があったかということ。何よりも先にこの情報を得なければならなかった。二人が繰り出したのがいずれもフェアリーポケモンだったことからルクバーのメンバーだと踏んでいたが、どうやらこれはほぼ正解だったようだ。細かいことを言うと「元」ルクバーの団員だったようだが、訊きたいことを訊く上で大きな支障はない。
では優美の方はどうか? 眼前の清音が眼光をギラつかせながら二人の回答を待つ。その背後には殺気立った七体のポケモン。振り返ればそそり立つ断崖絶壁。さらに小夏もしっかり監視している。もはや四面楚歌どころの話ではない。
「み、見てないです。ネバーランドでもその近くでも見てない、マジで見てないです」
「うちらの組にはそんな子は……」
「あっ、そうだリオちゃん。得意技の『はどうだん』の練習しよっか! じゃ、いつもみたいに構えて――」
「ストップストップ! そのルカリオめっちゃオレらの方向いてるんですけど!?」
「大丈夫ですよ。ちゃんと向こうにある木を狙って撃ちますから」
「いやいや、それ万が一誤射したら絶対ヤバい技だよね!? うちら原形留めないよね!?」
「安心してください。『はどうだん』は目標に必ず当たる技ですから、誤射はありませんよ」
「まあ『ちゃんと』目標を向こうの木にしてくれるのかは、リオちゃんの気分とあんたらの回答次第なんだけどネ」
さらりと恐ろしいことを言う清音、屈託の無い笑みでルカリオに「はどうだん」の構えを取らせる小夏、至極マジメに波動を練り始めるルカリオのリオちゃん。とんでもない尋問である。
「いっ、一個思い出しました! 言うことがあります!」
「ほーう。言ってご覧なさい」
「前に、だいぶ前に……『ウェンディ』が言ってたんです。『カワムラユミ』はどこにいるとか、見つけたら教えろとかどうのこうのって……」
「め、めっちゃ不機嫌そうでした。すぐにでも捜して連れてこいって空気で……」
「今のウチらみたいに?」
「え、ええっと……それは、その……」
「まあそりゃどっちでも良いわ。ウェンディって輩が優美を付け狙ってたのは分かった。それが人違いじゃないこともね」
「は、はい」
「あんたらが気付いてないだけで、『ネバーランド』にいる可能性が高そうね。確か今味方同士で争い合ってんでしょ? ポケモンの面倒見られる子を捜して連れてきてるはずよ……無理矢理にでもね」
ウェンディはやはり優美を捜していた、それが「だいぶ前」だと言うのだから、今は優美を手中に収めた可能性が非常に高い。優美の居場所についてほとんど確証に近い情報が得られたと言っていい。露払いをしただけにしては十分な収穫と言っていい――。
と、ここで終わってもよかったのだが、そこは目聡い清音と小夏。こいつらが知っていることを今ここですべて洗いざらい吐かせてやろう。互いに見合って頷き合うと、さらに尋問を続けることにする。
「あんたらって組を追い出されたのよね? どういう経緯? 誰にやられたわけ?」
「う、ウェンディです。あいつがやりました」
「オレらが調子に乗ってるって言って、出て行けって……」
「わたしたちにあんな失礼な勧誘をしてきたわけですから、どちらかと言うとまだそのウェンディって人の言い分の方が理解できますね」
「端的に言えば、品位を汚したってワケか。ろくでなし共もそこを守る気はあるわけだ」
「う……うちら、どっちかっていうと、し、新参な方で」
「スター団だって名乗ってたら、他の子ビビらせられるかなー、とか……」
「なるほど! それなら、お返しにこっちもビビらせてあげるのが礼儀だよね。今度はサンくん! この間覚えた『どくづき』を練習――」
「ひいい! やめてくださいってばあ!」
「もうこんなことしませんから! 後生ですからぁ!」
「はぁーっ、まったく情けないわ。これで不良だとか言ってイキってたわけ? 近頃の不良は随分根性無しになったものね」
元不良だった清音としては、無鉄砲にケンカを売ってきてボロ負けし、情けなく命乞いをしている――実際の所清音も小夏も、こいつらを傷つけようというつもりは無い。そんなことをして自分たちが罪に問われたらそれこそ馬鹿馬鹿しいと思っている――二人を目の当たりにして、とてもとても大きなため息をついた。まさに不良の風上にも置けない、どうしようもない軟弱者連中だろう。
「なんかもうこっちが疲れてきたわ。これで最後にしたげる」
「な、なんでしょう」
「その『ウェンディ』ってやつは何者なの? 組でどういうポジションにいるわけ?」
「な……ナンバー2、とかですかね……」
「ボスの次に実力があって、団を実質仕切ってる感じで……」
「ハンマーを持ったポケモンを連れてるんですよね?」
「つ、連れてます。うちらもそいつにやられました……」
「無茶苦茶強いです、はい……」
ルクバーでひときわ存在感を放つ団員「ウェンディ」に関する情報も得られた。大方の予想通りかなりの実力者で、ボスであるオルティガに次ぐナンバー2の地位に付けているとのこと。組内部で起きている抗争は恐らく、オルティガの体制を継続するかウェンディを新たなボスに立てるかで団員が割れているゆえのことだろう。争いの過程でウェンディが意に沿わない団員、それこそ目の前で震えている二人のような連中を叩き出しているだろうことは容易に想像が付く。
優美はそんな無軌道が服を着て歩いているような危険人物に目を付けられた、二人を尋問して得られた情報は非常に切迫したものだった。いよいよ「ネバーランド」に乗り込む理由ができた。全員殴り飛ばしてでも優美を連れ戻してやる、清音の目はいっそうギラつき、小夏も小夏で後ろで鋭いまなざしを向けてきて、二人の団員はただただ怯えて震えるばかり。
「ハンマーを振り回す暴力女が優美を狙ってた……シャレになってないわ。すぐにでも助けに行かなきゃ」
清音が目の前に聳え立つナッペ山を見上げる。この向こうに優美がいる、そう思うと最早一秒さえも惜しい。小夏共々表に出していたポケモンたちを一気にモンスターボールへ戻し、入れ替わりにモトトカゲとゴーゴートを呼び出して素早く乗り込む。そのまま出発する……かと思いきや、清音が残された不良生徒二人を今一度見やると、背負っていたリュックから取り出したものを投げ渡した。
「――ほれ。あんた達にあげるわ。せめてもの情けってやつよ」
「これ……『げんきのかけら』?」
「そいつをさっさとポケモンに食わせて、おとなしく家に帰りなさい。この辺りは血気盛んなやつが大勢彷徨いてるから、油断すんじゃないわよ」
手持ちのポケモンが戦うこともできないほどダメージを受けてしまっていては、ここから家まで帰り着けるかも怪しい。なんとも非礼で不甲斐ない団員二人とは言え、ここで見捨てて野垂れ死にでもされたらそれはそれで困る。清音は「不良の先輩」として手本を見せる意味も込めて、持っていた「げんきのかけら」を二つ、彼らに分け与えたのだった。
すぐさま前を向くと、小夏と共に一気にスピードを上げて街道を走る。
「急ぎましょう、清音さん。ザオボーさんの言ってたポケモンセンターまで、あと一時間くらいのところまで来てます」
「ええ。ずいぶん時間を食っちゃったわ。来てくれてるっていう協力者さんとも合流しなきゃね」
吹きすさぶ風が肌を刺す。ナッペ山颪は、かつて赴いたことのあるアローラの霊峰・ラナキラマウンテンのそれにも劣らぬ冷たさだ。しかし清音は表情ひとつ変えず、ただ前に向かって進み続ける。
この先で優美が助けを待っているなら――止まる理由などどこにも無かった。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。
※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。