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矛盾した展覧会

数年前の話。怪奇現象とまでは言えないかも知れませんが、上手く説明できずなんだか収まりが悪いので書かせてください。

ひょっとしたらただの思い過ごしだとか、実は他でもよくある話だと片づけられるかも知れないので。

 

地元にある文化会館ホールで、ここ出身の画家による個展が開かれることになりました。

個展を開く画家の名前を知っていたこともあって、私と友人で連れ立って個展を観に行くことにしました。

絵はあまり詳しくないのですが、掲示されていたポスターを見て「なかなかいい絵だ」と思ったのがきっかけです。

 

個展には昼頃に向かった記憶があります。同じようにして観に来ていた人も結構いたはずです。

受付でチケットを買い、友人と共に展示室へ向かいます。こういう機会はあまりないので楽しみにしていました。

しかし、それから間もなく、展示されている絵が何かおかしいことに気が付きました。

 

展示されているのはすべて同じ絵、夕暮れ時の廃墟を描いたものでした。

 

同じ題材を違う絵柄や角度から描いた、というのであれば分かります。何もおかしなことではないと思います。

ですがあの時展示されていたのは、まるでコピー機で複写したようにまったく同じ絵ばかりだったのです。

瓦礫の描かれ方、陽の光の当たり方、色遣いに至るまで、どれだけ探しても違うところを見つけられないほど「同じ」でした。

 

最初はそういう趣旨の展覧会なのかと思いました。現代アートというか、今の時代はいくらでも同じ絵を作れる……的な風刺かなと。

ただ、それなら展示の趣旨としてそう言ったことが告げられているはずですし、貰ったガイドを見てもそんなことは書かれていません。

ガイドには様々な絵のサンプルが並んでいて、私たちが今見せられている夕暮れ時の廃墟の絵はなかったのです。

 

周りの人の様子を見ても、皆一様に戸惑っているようでした。ひそひそ声で話している人も見かけます。

これが意図した展示なのかと疑問に感じましたが、誰かの悪戯で同じ絵ばかり飾る、ということは簡単にできるとも思えません。

絵自体も、近付いて見てみると絵の具の盛り上がりのようなものが一枚一枚にあり、デジタルコピーには見えませんでした。

 

一緒に来た友人ともども気味が悪くなり、すべての絵を見ないうちに早々にホールから退出しました。

その後入ったドトールコーヒーで一息ついてから、あの展覧会で何があったのかを話し合いました。

やっぱり悪戯だ、いやそういう趣旨の展示だ、もしかしてイベントか何かかも……いろいろ説は出ましたが、お互い納得のいく結論は出ずじまいでした。

 

さらに不気味なことが起きたのは、それから少し後のことでした。

職場でたまたまあの展覧会へ行った同僚がいたのですが、その同僚もたまたま同じ日の別の時間に絵を観に行っていたそうです。

なんとなく、あの時のことは伏せてごく普通に「どうだった?」と訊ねてみたのですが、友人曰く。

 

「ごく普通にいろいろな絵が展示されていた」……とのことでした。

 

当日中に作品の入れ替えがあったなどという話は聞いていませんし、そもそも開催中にできるとも思えません。

それゆえに、私と同僚がお互い見たものの矛盾をどうしても説明できそうにありません。

私はあいまいに相槌を打ちつつも、自分の見た光景の不気味さと、友人から語られるそれとはかけ離れた様子に居心地の悪さを覚えるばかりでした。

 

あの日、私たちは一体何を鑑賞したのでしょうか……?