怪奇現象と言っていいのか分かりませんが、なんとも薄気味の悪い出来事があったので書きます。
今はもう独り立ちした娘がいるのですが、上京してからしばらくして少し部屋を片付けることにしました。
残ったものは不要なので全部捨てて構わないと言われたのですが、一応確認してからにしようと思い、整頓と分別だけしておくつもりでした。
元々漫画が好きでいくつも雑誌を買って読んでいて、そのほとんどが部屋に残置されていました。
雑誌の種類と刊行年月順に並べているといくつか歯抜けがあり、どうやらお気に入りの号は既に選り抜いてあるようでした。
モノは多いものの比較的整理されている方の部屋だったので、片付けはスムーズに進みました。
明らかに要らない古い教科書や参考書は紐で括り、逆にぬいぐるみの類は捨てるに忍びなかったので残しておく、といった具合に。
結構進んできて、いったん休憩しようかと立ち上がった時、漫画雑誌の小さな山が崩れるのが見えました。
元に戻そうと向かってみると、そこに一冊の小冊子が落ちていました。
雑誌の付録本のように見えるそれは、ちょっとおどろどろしい字体で「夏のコワイ話特集」と銘打っていました。
ありますよね、夏になるとなぜか付録としてついてくる少女漫画雑誌の怖い話。それでいて収録されている話がみんな妙に力が入っている。
私の子供の頃にもあったなあ、そんな風に思い、休憩しようと思っていた気分もあって中を開いて見ることにしました。
子供なら夢に出てきそうな、大人でも少しゾッとするような怖い漫画がいくつかあったのですが、中頃の話でひとつ気になるものがありました。
主人公が幼馴染に電話を掛けているのですが、その電話が「携帯電話」でした。当時使われていた折り畳み式の電話です。
何がおかしいのかと思われるかもしれませんが、私は表紙であるものを見ていたので少し引っかかるものを感じたのです。
(これ、1995年の付録?)
表紙には「1995年8月号付録」と書かれていました。表紙もあちこちよれていてそれなりに年季も入っています。
つまり1995年に出た雑誌の付録ということになるのですが、95年というと携帯電話がやっと出回り始めた時期です。
携帯電話が出た当初は、リモコンのような長方形型の電話しか無かったような気もします。折り畳み式のものが出たのはかなり後だったはずです。
もう一度読み返してみましたが、漫画が未来の設定だとか、実はSFだとか、そういう変わり種でも無さそうでした。
あくまで当時のどこにでもある普通の学校を舞台にした現代がモチーフのホラー漫画で、拾った可愛い生き物が実は怪物だった、そういう話でした。
なんだか気味が悪いと思いつつ付録を元の位置へ戻し、私は掃除を再開しました。
それで、もっと気味の悪い話で申し訳ないのですが。
かつて娘が使っていた部屋は物置になり、普段使わないものをしまうための場所になっていました。
例によってモノが増えてきたので一度整理しようと考え、収納していたものを確かめていた時でした。
例の冊子が雑誌の隙間から少しはみ出しているのを見つけて、前のことを思い出して思わず手に取ってしまいました。
あの時見た携帯電話は見間違えだったのではないか、そう思いたかったのだと思います。
なんとなくそわそわしながらページをめくっていき、以前携帯電話が出てきたところに差し掛かった時、私は思わず目を見開きました。
かつて携帯電話を持っていたはずの主人公が、今度はスマートフォンを手にしていました。