トップページ 本棚 メモ帳 告知板 道具箱 サイトの表示設定 リンク集 Twitter

廃屋で見たもの

今から五年くらい前の大学生だった頃、今でも昨日のことのように思い出せる非常に不気味な体験をしました。

いわゆる心霊や呪いの類ではないと思うのですが、現実に起きたとはとても思えないほど不条理で、どうにも忘れることができません。

文字にすることで自分の中で整理を付けられるかも知れないので、書かせていただきます。

 

私は少し前に免許を取ったばかりで、オンボロの中古車とはいえ車も買ったこともあり、とにかくドライブがしたくてたまらない時期でした。

いつもつるんでいた友人二人とアパートで遊んでいたところ、夜中に「どこかドライブでも行こう」という話になりました。

夜ですしせっかくなので肝試し的なことがしたいと思い、車で一時間ほどのところにある山へ向かうことにしました。

 

向かった山の奥には朽ちた一軒家があり、女の霊が出る、いや爺さんの霊が住み着いてる、などの胡散臭い噂がありました。それくらい不気味だったのは確かです。

三人でそこへ入って探検しようということになったのです。紛れもない不法侵入で、馬鹿なことをしたと反省しています。

深夜ということで行き交う車も少なくほぼノンストップでドライブを続け、適当なところに車を止めて廃屋へ向かいました。

 

廃屋のドアは閉まっていましたが、友人Aがちょっと力を込めてタックル気味に押すと、ぎい、と音を立てて開きました。

外は蔦だらけだったので中もひどいことになっているだろうと思っていましたが、予想通り荒れ果てていて誰かがいる様子は皆無でした。

とりあえず懐中電灯を点けて中を散策してみます。同じように誰かが侵入したのか、タバコの吸い殻や空き缶がちらほら転がっていたのを覚えています。

 

最初は不気味な雰囲気で「こえー」とか言って楽しんでいたのですが、特に何か起きるわけでもなく、だんだん弛緩した空気が漂ってきました。

私は眠気を覚えてあくびをし、Aも「大した事なかったな」と言いながら退屈そうにスマホをいじっています。

そんなとき、もう一人の友人Bが「こっちに部屋があったぞ」と声を上げました。その様子が気になったので、私とAで見に行くことにしました。

 

他の部屋はドアが壊れたり開けっ放しになっているのにその部屋だけはドアが固く閉じられており、どこか雰囲気が違います。

私がドアノブを掴んでみると、鍵などは掛かっておらず普通に開けられそうです。見てみるか、と訊ねてAとBが頷くのを確認し、そっとドアを開きます。

部屋の様子が明らかになった途端、全員から「あっ」「えっ」と声にならない声が上がりました。

 

そこは、私の部屋でした。

 

部屋の作り、内装、置かれているものなどすべてが私の住んでいるアパートの一室で、見覚えがあるという言葉では済まないくらい同じでした。

脱ぎっぱなしの寝巻、読んで積んだままの古い雑誌、飲みかけのペットボトル、大学へ行くときに使っているくたびれたバッグ。

替えるのを忘れた先月のままのカレンダー、デジタル式の目覚まし時計、たまにしか遊ばないPS4とそのコントローラー。

 

AとBもさっきまで同じ部屋にいたわけですから、今目にしている光景がどれだけ異常なのかは瞬時に理解できたようです。

思わず目を見合わせて、Bに至ってはこれがまるで夢ではないかと確かめるように手の甲を抓ったりしていますが、やはり夢ではありません。

わっ、と悲鳴を上げて私が逃げ出すと、AとBも私と一緒に廃屋を飛び出しました。その時懐中電灯を放り出してしまいましたが、気にする余裕はありませんでした。

 

無我夢中で車を運転して家まで戻ってきましたが、先ほどのことがあったせいか家に戻る気になれず、深夜営業しているカラオケボックスで夜を明かしました。

明るくなってから恐る恐るアパートへ戻ってみると特に何かあるわけでもなく、出ていった時のまま何も変わりありませんでした。

あの時放り出した懐中電灯が家に……ということもなく、本当にあるべき姿だったので、心底安心した記憶があります。

 

それから何かあったわけでもなく、AやBとも時折飲んだりして付き合いは続いていますが、あの時のことは謎のままです。

一時的にあの廃屋とアパートが繋がっていたのか、それとも本当に何かの偶然が重なりに重なってあんな部屋ができていたのか。

もう一度行ってみれば何か分かるのかも知れませんが、正直なところとても行く気にはなれません。

 

もし入ろうものなら、今わたしが住んでいる部屋がそっくりそのまま出てきそうな気がするので……。